儲かる会社の “秘伝のタレ” とは?(ビジネスゲーム開発日誌 Vol.36)

私が駆け出しの経営コンサルタントだったときに、当時役員を務めていた先輩コンサルタントから学んだ衝撃的な教えがあります。

「福井くん、儲かる会社ってどんな会社かわかる?」

「えーっと、そうですね。やっぱり経営者が優秀な会社でしょうか?」

「実はそれは違う。経営者が遊んでばかりいても儲かる会社は儲かる。反対に、経営者が優秀でも苦労を続ける会社もある」

「え、そうなんですか? 儲かる会社はどんな要素で決まるんでしょうか」

先輩の回答は次のようなものでした。

「会社が儲かるかどうかは、身を置いた市場(土俵)で決まる。伸びる市場であれば黙っていても儲かるし、衰退する市場であれば、例え経営者が優秀であっても厳しい戦いを強いられるんだよ」

確かに「史記」などの歴史書でも、便所の鼠と穀物倉庫の鼠を見て、志を立てた李斯(りし)の伝に書かれているように、類する話はあります。

しかし、現代でもまさかそんなことってあり得るんだろうか?

その時の私は信じられませんでしたが、数年経ってみて、先輩の言葉は真実だと感じるようになりました。

賢者の盲点を衝く戦略

時は2000年。

「これから環境ビジネスが来る! 市場が数年の間に10倍以上になる」と言われていました(ここで言う環境ビジネスとは、リサイクルや廃棄物処理を指します)。

当時の私は「まさかなー」と半信半疑でしたが、10年強の環境意識の高まりとともに、後に驚くほどの成長を遂げる環境ビジネスの会社が各地に次々と生まれていきました。

それからは雨後の筍のようにインターネット企業が生まれ、その代表格であるソフトバンクや楽天が急成長を続けました。

その次には携帯アプリの会社が続々と生まれ、中でも、南場智子氏(現・経団連副会長)率いるDeNAが携帯ゲームの会社として急速に成長を遂げました(DeNA自体は携帯ゲームの会社といわれるのが嫌だと思いますが)。

これらの事実もあって、2010年ぐらいまで「業績は勝負する土俵で決まる」「土俵スゲー!」と先輩の教えを無邪気に信じていましたが、実際にはインターネット企業も携帯アプリの会社もスマホゲームの会社も、伸びる会社以上に多くの会社が潰れています。

環境ビジネスの会社もしかりで、市場が伸びている一方、各地で生き残る企業と淘汰・吸収される企業の二極化が進んでいました。

これは、どういうことでしょう?

結局、「経営者が優秀かどうか」という曖昧な言葉で表現される “秘伝のタレ” みたいな秘密があったりするのでしょうか。

その “秘伝のタレ” を解き明かした書籍が、楠木健氏(現・一橋大学教授)が書き記した「ストーリーとしての競争戦略」です。本当に名著なのでぜひ読んで頂きたいです。発刊から10年以上経っても内容は色褪せていません。

その書籍では、「賢者の盲点を衝け!」と語られます。

そして、企業の力の源、戦略を大きくSP(Strategic Positioning)とOP(Operational Capability)に分け、わかりやすく説明しています。

ざっくりいうと、

  • SPとは、土俵の差別化で勝つ
  • OPとは、独自に磨き抜いた特有の組織能力で勝つ

という分け方です。

情報が猛スピードで流通するようになった現在、優れた戦略は一瞬で解析・丸裸にされ、模倣されます。

かつていた、「様々な情報を “秘伝のタレ” として持ち、それを伝えることで稼ぐコンサルティング業」はいなくなったのです。現在はコンサルタントも知的アウトソーシング会社と変貌を遂げ、知的な分析や調査、プロジェクト推進の代行が主たる仕事になっています。

だからこそ、楠木氏の「ストーリーとしての競争戦略」では、こう語っています。

本当に儲かる会社は、単に「成長する土俵を選ぶ」だけではすぐに競合が乗り込んできて模倣されるため、外部から見ると「そんな馬鹿な!?」「なんでそんなことするの?」と感じられる非合理な要素(=賢者の盲点)を戦略の中に盛り込んでいるのだ。

非合理な挑戦

先日、世界で初めて「電気炊飯器」を開発した技術者の話をテレビ番組で見ました。

経営していた工場を質に入れ、買えるだけの米を買い、最適な炊飯器を作るために試行錯誤を繰り返したと言います。寒冷地でも炊けるよう実験を繰り返す過程で妻は倒れ、子どもたちも親の実験を手伝い、ついに北海道から沖縄まであらゆる環境化で美味しいごはんが炊ける炊飯器を開発したそうです。

(今のようにコンピューターもありませんから、炊き加減は熱によって曲がる金属の性質を利用して、スイッチのオン/オフを実現したとのことです。)

他者から見たら、「狂っている」と言われるような非合理な挑戦をしているわけです。

しかし、それが空前のヒットとなりました。

ソニーの “ウォークマン” や、富士フイルムの “写ルンです。” など、他社から見ると非合理な挑戦をしてヒットした会社や商品は数多くあります。パッと出てくる事例が20世紀の事例になってしまう点が少し哀しいですね(現代だったら “ユーグレナ” とかが当てはまるのでしょうか)。

さて、そんなことを考えながら、私は引き続き社会課題や組織課題を解決するゲームを開発しています。

10年前は「そんな馬鹿な!?」「なんでそんなことするの?」と言われたかもしれません。今は、市場も徐々に大きくなり、学びをゲームで伝える会社もどんどん出てきています。

しかし、当社にも10年以上の製法に関してのアドバンテージ(≒秘伝のタレ)があります。教えたいような、教えたくないような……。

我慢できないので、今後のNewsLetterやブログで、密かに “秘伝のタレ” を公開していくかもしれません。

執筆者プロフィール

福井 信英

富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。

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