働き方改革とは?その目的と背景、企業の取り組み事例を徹底解説!

厚生労働省が2019年4月から施行し、現在も法整備を進めている働き方改革。本稿では知っているようで知らないことが多い「働き方改革」の意味・目的・内容・事例を解説します。

Contents(目次)

働き方改革とは

働き方改革とは、労働者の事情に応じた多様な働き方を選択・実現するための改革です。

第3次安倍第2次改造内閣のもとに、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(通称:働き方改革関連法、平成30年法律第71号)が2018年7月6日に公布、2019年4月1日から順次施行が進められています。

“総理は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の成立を受け、次のように述べました。「70年ぶりの大改革であります。長時間労働を是正していく。そして、非正規という言葉を一掃していく。子育て、あるいは介護をしながら働くことができるように、多様な働き方を可能にする法制度が制定されたと、こう思っています。これからも働く人々の目線に立って、改革を進めていきたい。もちろん国会で様々な御議論があった、これを受け止めながらそういう視点に立って改革を進めていきたいと思っています。」”

参考:平成30年6月29日 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の成立についての会見|首相官邸ホームページ

※働き方改革関連法は、日本における8つの労働法の改正を行うものです。

    • 労働基準法
    • 労働安全衛生法
    • 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
    • じん肺法
    • 雇用対策法
    • 労働契約法
    • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
    • 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

働き方改革はいつから?

働き方改革はいつから開始しているのでしょうか?

働き方改革の内容(施策)や企業区分(大企業 or 中小企業)によって開始時期は異なりますが、概ね「2019年4月」に開始していると解釈できます。

内容(施策)概要開始時期:
大企業
開始時期:
中小企業
①残業時間の上限規制定められた残業時間の順守2019年4月2020年4月
②勤務間インターバル制度の導入翌日出社までの休息時間(インターバル)の確保

2019年4月

③年5日間の年次有給休暇の取得有休が年10日以上ある場合、年5日は必ず取得2019年4月
④月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引上げ月60時間超の残業割増賃金率は50%2010年4月2023年4月
⑤労働時間の客観的な把握長時間働いた労働者に、医師の面接指導を実施2019年4月
⑥フレックスタイム制の拡充労働時間の清算期間を3か月とする(平均で清算)2019年4月
⑦高度プロフェッショナル制度の創設高度専門知識を有する労働者の専用措置を講じる2019年4月
⑧産業医・産業保健機能の強化産業医への情報提供を充実させ、健康相談を強化する2019年4月
⑨同一労働同一賃金正規・非正規職員の不合理な待遇の差をなくす2020年4月2021年4月

※大企業と中小企業の区分の定義は業種によって異なります。下記の条件に該当する企業は中小企業です(該当しない企業は大企業の区分になります)。​​

    • 小売業
      資本金の額、または、出資の総額が5千万円以下の会社、または、常時使用する従業員の数が50人以下の会社・個人
    • サービス業
      資本金の額、または、出資の総額が5千万円以下の会社、または、常時使用する従業員の数が100人以下の会社・個人
    • 卸売業
      資本金の額、または、出資の総額が1億円以下の会社、または、常時使用する従業員の数が100人以下の会社・個人
    • その他の業種
      資本金の額、または、出資の総額が3億円以下の会社、または、常時使用する従業員の数が300人以下の会社・個人

働き方改革の目的と背景

働き方改革の目的は、労働力の確保、労働時間の最適化、労働生産性の向上の3つに大別されます。

目的背景政策的取組みの方向性
労働力の確保
  • 少子高齢化による労働人口(生産年齢人口)の減少
  • 残業・休まないことを前提とした働き方による女性のキャリア分断
  • 正規・非正規職員の待遇格差
  • 介護離職の増加
  • 働き方の多様化・柔軟化
  • 女性の活躍支援
  • 同一労働同一賃金
  • シニア層の雇用促進
労働時間の最適化
  • 過重労働による心身の病気・過労死の増加
  • 夫の長時間労働による妻の家事・育児負担
  • 被扶養者の就業調整(106万・130万円の壁)
  • 過重労働に対する規制
  • ワーク・ライフ・
    バランス実現の支援
  • 就業調整を招かない税・社会保険制度
労働生産性の向上
  • 能力開発機会が少ない非正社員の働き方
  • 硬直的な労働市場
  • 人的資本投資の未活用
  • ITの導入促進
  • 非正社員の能力開発推進
  • 労働移動の促進
  • 人材の再活躍支援

表1. 働き方改革の目的と背景(※みずほ総合研究所の資料をもとに作成)

【補足】少子高齢化による労働人口(生産年齢人口)の減少

日本の労働人口(生産年齢人口)が減少の一途にあることは誰もが感覚的に知っていることではありますが、具体的な数値をご存じでしょうか?

2000年は全人口の68.1%(8,638万人)を占めていた生産年齢人口(15歳~64歳の人口)は2065年の予測では51.4%(4,529万1千人)にまで低下することが予測されています。

総数15~64歳65歳以上15~64歳の割合
2000年126,92686,38022,04168.1%
2005年127,76884,42225,76166.1%
2010年128,05781,73529,48463.8%
2015年127,09577,28233,86860.8%
2020年126,14675,08836,02759.5%
2025年122,54471,70136,77158.5%
2030年119,12568,75437,16057.7%
2035年115,21664,94237,81756.4%
2040年110,91959,77739,20653.9%
2045年106,42155,84539,19252.5%
2050年101,92352,75038,40651.8%
2055年97,44150,27637,04251.6%
2060年92,84047,92835,40351.6%
2065年88,07745,29133,81051.4%

表2. 生産年齢人口の推移(単位:千人)(※)

※参考資料:人口推計 長期時系列データ 長期時系列データ(平成12年~令和2年)|政府統計の総合窓口日本の将来推計人口(平成29年推計)|国立社会保障・人口問題研究所

労働人口の減少が避けられない以上は、限られた労働人口の労働力の確保が重要になります。

【補足】残業・休まないことを前提とした働き方による女性のキャリア分断とは?

働き方改革において、女性の活躍推進は重要なテーマです。

女性は、結婚・出産・育児・介護などのライフイベントにおいて様々な選択を迫られます。退職するか働き続けるか、正社員でいるか短時間のパートになるか。結婚に伴う居住地変更や経済状況、子どもの有無などによって、働き方・家庭生活・人生設計は異なります。

女性の活躍推進(女性のキャリア形成やフルタイムでの勤務)を阻む要因としては “残業・休まないことを前提とした働き方による女性のキャリア分断” が知られています。

例えば、パートナーが長時間労働で家庭参加が厳しい場合、育児は母親のワンオペとなり、労働に制限がかかってしまいます(フルタイムの正規雇用からパートやアルバイトなどの非正規雇用に切り替えるケースもあれば、そもそも就労自体を諦めざるを得ないケースもあります)。

また、出産・育児休暇を経て職場に復帰した場合においても、残業できない・休まずに働き続けることができないことを理由に、時短勤務のできる仕事がある部署へ異動させられるケースもあれば、家庭との両立が困難で昇進を希望しないケースもあります。

このような女性の活躍推進を阻む要因を取り除くことは、働き方改革の実現に寄与することはもちろんのこと、結婚や出産を前向きに考える人を増やすことができるという意味において、出生率を上げることにも大きく貢献します。

働き方改革の内容・ポイント

働き方改革の内容・ポイントは大きく2つあります。

1つ目は労働時間法制の見直しです。長時間労働・働き過ぎを防いで年次有給休暇を取得しやすくすることで、働く人々の健康を守り、ワーク・ライフ・バランスと多様で柔軟な働き方を実現できるようにします。

具体的な内容は下記の①~⑧をご覧ください。

① 残業時間の上限規制

<改正前><改正後>
1947年制定の労働基準法では残業時間の上限がなく、行政指導が行われるのみでした。労働基準法制定以来初めて、罰則付きの労働時間規制を導入。残業時間の上限規制が設けられ、定められた残業時間を超えられなくなりました。

労働基準法で定められた法定労働時間は原則1日8時間・1週40時間以内です。

休日は原則として毎週1回以上、または4週4日以上与えることとされています。法定労働時間を超える時間外労働や休日労働には労働基準法第36条に基づく労使協定 “36(サブロク)協定の締結” と “所轄労働基準監督署長への届出” が必要です。

残業時間の上限は原則月45時間(1日当たり2時間程度)・年360時間(月45時間を超えるのは年間6か月まで)、臨時的な特別の事情で労使が合意する場合でも下記を超えることはできません。

  • 年720時間
  • 残業時間と休日労働の合計は複数月平均80時間以内(1日当たり4時間程度)
  • 残業時間と休日労働の合計は月100時間未満
  •  

※中小企業の適用は2020年4月1日です。ただし、自動車運転の業務や建設事業、医師など、一部の事業・業種で施行が猶予または除外される場合があります(猶予期間は2024年3月31日まで)。

※長時間労働の是正には、取引環境の改善も重要です。労働時間等設定改善法では、事業主の責務として短納期発注や発注内容の頻繁な変更をしないよう配慮に努めることと規定されました。

※労働時間短縮に関する助成金があります(後述)。

② 「勤務間インターバル」制度の導入促進

<改正前><改正後>
勤務間インターバル制度はありませんでした。1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上の休息時間(インターバル)を確保する仕組みを企業の努力義務とします。

この改正により、働く方々の十分な生活時間や睡眠時間を確保します(例えば、23時まで残業をした場合、11時間の休息時間を確保するために始業時刻を10時からの後ろ倒しにします)。

※勤務間インターバル導入に関する助成金があります(後述)。

③ 年5日間の年次有給休暇の取得(企業に義務づけ)

<改正前><改正後>
労働者が自ら申し出なければ、年休を取得できませんでした。使用者が労働者の希望を聴き、希望を踏まえて時季を指定します。年10日以上年次有給休暇を付与する労働者に対して、年5日は必ず取得させなければなりません。

※年休促進支援に関する助成金があります(後述)。

④ 月60時間超の残業の割増賃金率引上げ

<改正前><改正後>
月60時間超の残業割増賃金率は、大企業50%、中小企業25%。月60時間超の残業割増賃金率は大企業・中小企業ともに50%とします(※中小企業の割増賃金率を引上げ)。

※中小企業には2023年4月1日より適用されます。

⑤ 労働時間の客観的な把握(企業に義務づけ)

<改正前><改正後>

割増賃金を適正に支払うため、労働時間の客観的な把握を通達で規定していたものの、裁量労働制が適用される人などは対象外でした。

・裁量労働制の適用者は、みなし時間(実際の労働時間に関わらず、予め定められた時間労働したと見なすこと)に基づき割増賃金の算定をするため、通達の対象としない。

・管理監督者は、時間外・休日労働の割増賃金の支払義務がかからないため、通達の対象としない。

健康管理の観点から裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、全ての人の労働時間の状況が客観的・適切な方法で把握されるよう法律で義務づけます。

労働時間の状況を客観的に把握することで長時間働いた労働者に対する医師の面接指導を確実に実施します(労働安全衛生法に基づき、残業が一定時間を超えた労働者から申出があった場合、使用者は医師による面接指導を実施する義務があります)。

➅ 「フレックスタイム制」の拡充

<改正前><改正後>

労働時間の清算期間:1か月

・1か月単位で清算するため、 法定労働時間を超えた場合、割増賃金を支払う必要がありました。

・所定労働時間(通常は法定労働時間以内で設定) 働いていない場合、欠勤扱いとなっていました。

労働時間の清算期間:3か月

・3か月の平均で法定労働時間以内にすれば、 割増賃金の支払いは必要ありません。

・3か月の内、別の月に働いた時間分があれば、所定労働時間に達していなくても欠勤扱いとはなりません。 

子育てや介護といった生活上のニーズに合わせて労働時間が決められ、より柔軟な働き方が可能になります。

例えば、“6~8月の3か月” の中で労働時間の調整が可能となり、子育て中の親が8月の労働時間を短くすることで、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保しやすくなります。

⑦ 「高度プロフェッショナル制度」の創設

<改正前><改正後>
高度プロフェッショナル制度はありませんでした。高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象に、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提とし、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講じます。それにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。

対象労働者は、次の通りです。

    1. 使用者との間の合意に基づき職務が明確に定められていること
    2. 使用者から確実に支払われると見込まれる1年間当たりの賃金の額が少なくとも1,075万円以上であること
    3. 対象労働者は、対象業務に常態として従事していることが原則であり、対象業務以外の業務にも常態として従事している者は対象労働者とはならないこと

適用する際は選択的措置として次のいずれかに該当する措置を決議で定め、実施しなければなりません(労働基準法に定められた労働時間などの規定が適用されないため、注意が必要です)。

    1. 勤務間インターバルの確保(11時間以上)+深夜業の回数制限(1か月に4回以内)
    2. 健康管理時間の上限措置(1週間当たり40時間を超えた時間について、1か月について100時間以内、または3か月について240時間以内とすること)
    3. 1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること(本⼈が請求した場合は連続1週間×2回以上)
    4. 臨時の健康診断(1週間当たり40時間を超えた健康管理時間が1か月当たり80時間を超えた労働者、または申出があった労働者が対象)

参考:高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説|厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

⑧ 産業医・産業保健機能の強化

<改正前><改正後>

産業医は、労働者の健康を確保するために必要があると認めるときは、事業者に対して勧告することができます。

事業者は、産業医から勧告を受けた場合は、その勧告を尊重する義務があります。

(1)産業医の活動環境の整備

事業者から産業医への情報提供を充実・強化します。事業者は、長時間労働者の状況や労働者の業務の状況など産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報を提供しなければなりません。

産業医の活動と衛生委員会との関係を強化します。事業者は、産業医から受けた勧告の内容を事業場の労使や産業医で構成する衛生委員会に報告しなければならず、衛生委員会での実効性のある健康確保対策の検討に役立てます。

事業者は、労働者の健康相談等を継続的かつ 計画的に行う必要があります(努力義務)。

 

(2)労働者に対する健康相談の体制整備、労働者の健康情報の適正な取扱いルールの推進

産業医等による労働者の健康相談を強化します。事業者は、産業医等が労働者からの健康相談に応じるための体制整備に努めなければならないこととします。

事業者による労働者の健康情報の適正な取扱いを推進します。事業者による労働者の健康情報の収集、保管、使用及び適正な管理について、指針を定め、労働者が安心して事業場における健康相談や健康診断を受けられるようにします。

働き方改革の内容の2つ目のポイントは、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)に関する内容です。

同一企業内における正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規社員(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)の間にある不合理な待遇の差をなくし、どのような雇用形態を選択しても納得できるようにします。

具体的な内容は下記の⑨をご覧ください。

⑨ 同一労働同一賃金:不合理な待遇差をなくすための規定の整備

<改正前><改正後>
非正規社員の中でも、有期雇用労働者・派遣労働者には、差別的取扱いの禁止を定める「均等待遇規定」がありませんでした。

(1)均衡待遇規定の明確化
個々の待遇(基本給、賞与、役職手当、食事手当、福利厚生、教育訓練など)ごとに、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化。

(2)均等待遇規定
新たに有期雇用労働者も対象とする。

(3)待遇ごとに判断することを明確化するため、ガイドライン(指針)を策定。

同一企業内において、正社員と非正規社員との間で、基本給や賞与などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されます。

裁判の際に判断基準となる「均衡待遇規定」「均等待遇規定」を法律に整備するほか、ガイドライン(下記参照)を策定し、どのような待遇差が不合理に当たるかを明確に示します。

参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省

⑨ 同一労働同一賃金:労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

<改正前><改正後>

パートタイム労働者と派遣労働者は、「雇用管理上の措置の内容」と「待遇決定に際しての考慮事項」の説明を求めることができましたが、有期雇用労働者はそのいずれもありませんでした。

そして3者とも、「待遇差の内容・理由」と「不利益取扱いの禁止」に対する説明義務の規定はありませんでした。

非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に対して説明を求めることができるようになりました。

  • 雇用管理上の措置の内容(賃金、福利厚生、教育訓練など):雇入れ時
  • 待遇決定に際しての考慮事項:求めがあった場合
  • 待遇差の内容・理由:求めがあった場合
  • 不利益取扱いの禁止

⑨ 同一労働同一賃金:行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

<改正前><改正後>
パートタイム労働者と派遣労働者は、 行政による事業主への助言・指導等の規定がありました。都道府県労働局において、無料・非公開の紛争解決手続きを行います。「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由に関する説明」についても、行政ADR(事業主と労働者との間の紛争を裁判をせずに解決する手続き)の対象となります。

働き方改革のメリット・デメリット

働き方改革は、労働者・企業・国、全てのステークホルダーにとってメリットのある政策です。働く人を増やす・働きやすくする施策を通じて、以下のような様々なメリットが期待されます。

  • 労働者のメリット
    キャリア分断の防止、多様な働き方の実現
  • 企業のメリット
    人材の雇用促進・離職防止、生産性の向上
  • 国のメリット
    GDP(国内総生産)の成長率の増加、少子化対策や外国人材活用の進展

働き方改革のデメリットは、基本的にありません。

その上で、働き方改革には当事者たちに変化を強いる側面があり、働き方改革の効果が出るまでのプロセスで生じる様々な痛みや負担はデメリットとして映ることもあります(下記例)。

  • 長時間労働が是正されることによる労働者の残業手当の減少
  • 労働者の過重労働を防ぐための管理コストの増加
  • 同一労働同一賃金の推進に伴う企業側の負担増(人件費の増加、人事制度の見直し)

働き方改革の企業の取り組み事例

働き方改革では、企業が働き方改革関連法を順守する必要がありますが、それだけでは十分ではありません。それぞれの企業が自社にとっての働き方改革の取り組みを試行錯誤しながら進めていくことによって、働き方改革は前進していくものです。

「自社にとっての働き方改革の取り組み」を進める上では、企業理念や従業員を中心としたステークホルダーのニーズに向き合うアプローチの他、他の企業が具体的にどのような働き方改革の取り組みを進めているのかを知るアプローチもあります。

これからご紹介する働き方改革の企業の取り組み事例の中に、貴社の参考になる情報が見つかれば幸いです。

サイボウズ:キャリア支援の事例

サイボウズは、社内のキャリアコンサルタントへの相談や他部門の仕事体験など、自由度の高いキャリア形成ができる支援制度を整備しています。

“サイボウズには「入社して何年目でマネージャーになる」といった年次で決められたキャリアパス、本人が望まない異動、新卒とキャリアという入社区分による違いなどはありません。入社後は、いくつかのチームを異動して幅広く経験を積むのも、ひとつの分野で専門性を高めるのも人それぞれです。決められたキャリアパスがないからこそ、一人ひとりが自立して将来のキャリアを考えて、多様な選択肢の中から進みたい道を選んでいくことが求められます”

参考:キャリア支援|採用情報|サイボウズ株式会社

資生堂:ワーク・ライフ・バランスの事例

資生堂では、店頭スタッフの遅番代替要員の雇用、育児休業や短時間勤務など、子育て中の社員へのサポート制度を2007年から他企業に先駆けて導入しています。

“社員がワーク・ライフ・バランスを実現できると、新たに生み出される時間を使って社員が社会でも活躍できるようになります。資生堂は、それが社員の成長につながるだけでなく、会社の業績や企業価値を高めることにつながると考えています。社員のライフスタイルを尊重し、育児・介護といったライフイベントにかかわらずキャリアアップできるよう、法律で定められた以上の充実した制度を導入しています”

参考:働きがいのある職場の実現|人材|サステナビリティ|資生堂 企業情報

トレンダーズ:女性活躍推進の事例

トレンダーズでは、女性活躍推進に関する様々な取組みを進めています。

    • 女性管理職を増やすための取り組み
      管理職候補人材を早くから発掘し戦略的にマネジメント/ライフイベント等に関わらず能力に応じて適切に選任/管理職候補育成のための研修を実施/社外からの積極的な管理職登用
    • キャリア形成・キャリアアップを支援する取り組み
      外部講師を招いた女性活躍のためのキャリア形成研修(外部女性役員によるキャリア講演、卵子凍結に関するセミナー等)/出産後も活躍し続けられる人事制度(ミッションコミットメント制度)

参考:トレンダーズが目指すところ|トレンダーズ株式会社

マクドナルド:シニア層の雇用促進の事例

マクドナルドは、アルバイトに定年制を設けず、シニア層の雇用促進に貢献しています。

“全国最高齢のクルーが、マクドナルド高岡駅南店で働き始めたのは2019年の90歳のときからです。空いている時間を有効活用して何かをしたいと思っていたところ、マクドナルドのアルバイト情報を偶然目にしたことがきっかけで応募をしたそうです。最初は客席の清掃から始まり、今ではサラダなどのサイドメニューづくりも担当していただいています。日々精力的にお仕事に取り組んでいる姿を見ると、人は何歳からでも挑戦できるのだなと感じますし、ほかのクルーの勇気にもつながっています”

参考:日本全国のいちばん店を訪ねて|日本マクドナルド 50年の歴史

佐藤工機:同一労働同一賃金の事例

佐藤工機は、同一労働同一賃金の実現・不合理な待遇差の解消のため年功序列の給与制度を成果報酬型に変更しています。結果的に社員満足度の向上・モチベーションアップに繋がっています。

“年功序列の給与制度を成果報酬型の給与体系に見直すとともに、これまで雇用形態によって差があった通勤手当、特別休暇を不合理な待遇差と位置づけ、雇用形態に関わらず同一支給とした。一方、家族手当、慶弔見舞金を均衡待遇としての合理的支給基準を設けて、有期雇用労働者への改善を図った”

参考:株式会社佐藤工機|働き方改革特設サイト|厚生労働省

メルカリ:副業の事例

メルカリでは、創業当初から副業を解禁し、社員のスキルアップを奨励しています。

“書籍執筆、イベント登壇、エンジェル プレゼンテーション、優秀役員・コンサルティングなど、個人の副業を推奨します”

参考:ベネフィット|採用情報 株式会社メルカリ

海望福祉会:幅広い人材活用の事例

海望福祉会は、職員の希望に応じて正職員・短時間正職員・パート職員への勤務形態変更を採用する他、ICT化で記録業務をサポート。就労意志のある人のユニバーサル就労も行っています。

“地域における公益的な取り組みとして「ユニバーサル就労(法人雇用)」にも取り組んでいる。これは、生活困窮、障害、病弱など、働く意欲はあるが働きづらい状況にある人に働く場を提供するもの。また、一般就労と福祉的就労によって自立を進める「中間的就労」も行っている。こうした取り組みによって、生活保護から離れたり、ユニバーサル就労者への業務指導をする人も生み出している”

参考:社会福祉法人海望福祉会|働き方改革特設サイト|厚生労働省

働き方改革の取り組みを推進するための研修手法

働き方改革の企業の取り組みは人事制度や福利厚生制度に関わるものである以上、制度の見直しに多大な労力を要します。また、制度を構築した後も、新しい制度を全社に浸透させることにも同様の(あるいはそれ以上の)労力がかかります。

少ない労力でスピーディに働き方改革の取り組みを進めるにはどうすれば良いのでしょうか? この問いの答えとして「研修」を実施することが挙げられます。

  • 自社が進めるべき働き方改革の取り組みのニーズを把握する目的の研修
  • 働き方改革の取り組みを社内プロジェクトとして進める際のプロジェクトメンバーのキックオフ研修
  • 新しく構築した働き方改革に関連する制度を社内に浸透させる目的の研修

このように、目的に応じた様々な研修を実施することで、働き方改革の取り組みの推進を加速させることが可能になります。

なお、働き方改革の取り組み推進のための研修を検討される場合は下記の研修手法の特長をもとに、貴社に合った研修手法も併せて検討されることをお勧めします。

1. 講義(座学)

講義(座学)は最もスタンダードな研修手法です。

働き方改革に関する知識を伝える研修、あるいは、社内の働き方改革に関する制度の認知・理解を促す目的の研修において、お勧めです。

ただ、講義は講師が一方的に話をする形式になるため、研修受講者の集中力の維持が難しい欠点があります。そういった意味では、外部の熟練の研修講師に登壇いただくことが効果的です(腕利きの研修講師には研修受講者を飽きさせない技術があります)。

2. グループワーク

研修受講者が数名単位のグループに分かれて課題に取り組むグループワークは、最も代表的な実践型の研修手法です。

例えば、研修受講者に「自社に必要な働き方改革の制度は何か?」といったお題に取り組むなど、従業員からのボトムアップのアイデアを出す目的の研修にお勧めです。

また、グループワークはアセスメントにも活用できる利点があります。社内プロジェクトとして働き方改革を推進する場合の、プロジェクトメンバーの選抜目的にも適しています。

3. ビジネスゲーム

ビジネスゲームは、ゲームを体験し、その後にゲーム内での経験を振り返ることを通じて学びを深めることができる経験学習型の研修手法です。

私たちプロジェクトデザインでは「働き方改革」がテーマのビジネスゲームをご提供しています。ご興味があれば、是非ご覧ください。

働き方改革で利用できる助成金

1. 働き方改革推進支援助成金

働き方改革推進支援助成金とは、労働時間の縮減や年次有給休暇の促進に向けた環境整備等に取り組む中小企業・小規模事業者(や傘下企業を支援する事業主団体)に対して、その実施に要した費用の一部を助成する制度です。

4つのコースがあります(下記参照)。

  1. 働き方改革推進支援助成金 (労働時間短縮・年休促進支援コース)
    時間外労働の削減、年次有給休暇や特別休暇の促進に向けた環境整備
     
  2. 働き方改革推進支援助成金 (勤務間インターバル導入コース)
    終業から次の始業までの休息時間を確保して健康保持、過重労働の防止を図る
     
  3. 働き方改革推進支援助成金 (労働時間適正管理推進コース)
    労務・労働時間の適正管理の推進に向けた環境整備
     
  4. 働き方改革推進支援助成金 (団体推進コース)
    労働者の労働条件改善のために、時間外労働の削減や賃金引上げに向けた取組を実施

※1~3の対象となるのは中小企業です。4の対象となるのは事業主団体や共同事業主です。詳細は厚生労働省のサイトでご確認ください。

※働き方改革推進支援助成金の旧名称は時間外労働等改善助成金です(2020年度に名称変更しました)

2. 業務改善助成金

業務改善助成金は、生産性向上と賃金引上げに取り組む中小企業事業者を支援する制度です。

生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)や人材育成セミナーなどを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、かかった費用の一部を助成します。

3. キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成する制度です。

労働者の意欲や能力を向上させ、生産性を高めて優秀な人材を確保することに繋げます。正社員化支援で2コース、処遇改善支援で5コースあります。

<正社員化支援>

    1. 正社員化コース
      有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換又は直接雇用
       
    2. 障害者正社員化コース
      障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換

<処遇改善支援>

    1. 賃金規定等改定コース
      有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し2%以上増額
       
    2. 賃金規定等共通化コース
      有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用
       
    3. 賞与・退職金制度導入コース
      有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し支給又は積立てを実施
       
    4. 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
      選択的適用拡大の導入に伴い、短時間労働者の意向を大切に把握し、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させるための取組の実施
       
    5. 短時間労働者労働時間延長コース
      有期雇用労働者等の週所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険を適用

参考:キャリアアップ助成金|厚生労働省

この記事の著者について​​

執筆者プロフィール

古野 知晴

富山県滑川市出身。ケーブルTV番組制作会社や雑誌ライター等を経て、2014年にプロジェクトデザインに入社。取材・キャスターの経験で培った「聴く力、伝える力」を活かして「はたらくらすコネクションin上市」事業を立ち上げから担当し、6年間で企業・店舗136社、県外からの移住者18組を取材。そのほか文章編集・校正を中心にビジネスゲーム制作に関わる。2021年6月に育休から復帰以降は、マーケティング部の一員としてWebサイトに掲載するコンテンツ作成に携わる。現在も地元・滑川市のケーブルTVでキャスターを務め、2022年からは個人的に子どもの夢を叶えるイベントを主催するなど、地域に根ざした活動を行っている。

監修者プロフィール

亀井 直人

鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム「2030SDGs」に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。活動を通じて関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。

  • 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
  • PMP(Project Management Professional)
  • NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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