リスキリングとは何か?企業の取り組み事例と、個人にできること

リスキリングとは何か。

リスキリングの基礎知識をお伝えしつつ、リスキリングに関する企業の取り組み事例と、個人(一人ひとりのビジネスパーソン)にできることを分かりやすくご紹介します。

Contents(目次)

リスキリングとは

リスキリングとは、新しい仕事・職務に移行するためのスキル習得を意味する言葉です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIに代表される新しい潮流。これまでのビジネスのルールや常識を塗り替えるインパクトを持つ変化にどのように対応するのか?

その一つの手段としてリスキリングが注目されています。

一般的にリスキリングは、企業が事業内容を変革させていく上で既存事業の社員を適応させていくのかという文脈で語られるものです。その上で、近年では個人の側が主体的なキャリア形成に取り組む手段としての文脈でリスキングという言葉が使われるケースも増えています。

リスキリングの対象者は誰なのか?

既存のビジネスモデルの変革をもたらすDXやAIに企業が対応していく上での聖域はありません。全ての部門・職種の社員がリスキリングの対象者になり得ます。

“なぜ全ての従業員が対象なのかということについては、企業が本格的なDXを実現しようとしたときは、ものづくりの現場もそうですし、顧客接点の方々、企画を立てる方々、バックオフィスの方々など、ビジネスプロセスのあらゆる場面で仕事が変わってしまう、あるいは仕事自体がなくなって新しい仕事が生まれるということが起きます。そのときに、それを担うのは誰かというと、全ての従業員である。その人たちが新たな職務の遂行に必要なスキルを獲得できなければ、企業のDXも実現できないからということに尽きると考えています”

参考:第22回労働政策審議会労働政策基本部会|厚生労働省

リスキリングに関するニュース&トピックス

  • 2018年1月
    世界経済フォーラム年次会議(通称ダボス会議)において「リスキル革命」と銘打ったセッションが行われる
     
  • 2020年1月
    ダボス会議において、第4次産業革命に対応するため「2030年までに全世界10億人をリスキリングすること」が宣言される
     
  • 2020年11月
    経団連の提言する「新成長戦略」の中でリスキリングの必要性が言及される
     
  • 2022年10月
    岸田首相が所信表明演説で「リスキリング支援に1兆円を投資すること」を表明

リスキリングの目的(注目される背景)

リスキリングは、リスキリングを行う主体によって異なる目的があります。個人と企業、そして国。この三者の視点でリスキリングの目的を解説します。

個人にとってのリスキリングとは何か?

2023年5月1日、米IBMがAIに代替される可能性のある職種(約7,800人分)の新規採用を停止する見通しを示したことが各種メディアから一斉に報じられました。これは一例ですが、人の仕事がAIやデジタル技術に代替されていく流れは不可逆的に、そして、着実に進んでいます。

このAIやDXなどの新潮流(ビジネスにおける外部環境の急激な変化)に加えて、ジョブ型雇用への移行(専門職化)も進む中、個人の間には「自分のキャリアを所属組織に依存するのではなく、自身が主体的にキャリアを形成していく必要性がある」という認識が広まりつつあります。

個人にとってのリスキリングとは、この主体的なキャリア形成の手段に他なりません。平たく言ってしまうと、手に職をつけることこそが、個人にとってのリスキリングであると位置付けられます。

企業にとってのリスキリングとは何か?

リスキリングは、企業が自社の人材戦略のもとに主導していくものですが、具体的にどのようなところに目的を置いているのでしょうか?

ビズリーチの調査によると、企業がリスキリングに取り組む理由で「事業成長や新規事業に必要なスキルを持った人材を育成するため」という回答が最も多い結果が出ました。

“リスキリングに取り組む理由(経営課題)について質問したところ、「事業成長や新規事業に必要なスキルを持った人材を育成するため(75.4%)」が最も多い結果となり、「人的資本経営のため(38.7%)」「社員のキャリア支援のため(35.9%)」が続きました。「社内のIT人材が不足しているため」も26.1%となりました”

参考:【リスキリングに関する調査レポート】即戦力人材の約5割が、既にリスキリングを実施 企業の9割以上が「年齢にかかわらず市場価値の向上につながる」と回答

企業にとってのリスキリングには人的資本経営や社員のキャリア支援などの目的が含まれつつも、最大の目的は企業の持続的成長にあるということが読み取れます。

<ご案内>
人的資本経営にご興味のある方は下記の記事をご覧ください。人的資本経営についての基本知識・注目される背景をお伝えしつつ、人的資本経営に関する企業の取り組み事例を分かりやすくご紹介します。

国にとってのリスキリングとは何か?

2022年10月28日に閣議決定された、物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策では、新しい資本主義の加速を実現する手段の一つにリスキリングが位置付けられています。

“(第3の柱:「新しい資本主義」の加速)
非連続的なイノベーションの原動力となるのは人であり、官民連携でリスキリングと成長分野への投資を推進し、構造的賃上げと成長力の強化を図る。このため、人への投資の支援パッケージを5年間で1兆円に拡充し、公的支援を抜本的に強化することや、年功給から日本に合った職務給中心のシステムへの見直しなど労働市場改革を通じて、スキルアップと成長分野への労働移動を同時に強力に推進する

<施策例>
・リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業(経済産業省)
・人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」の創設(厚生労働省)

参考:経済対策等|経済財政政策 – 内閣府

国にとってのリスキリングの目的は構造的賃上げと成長力の強化であり、リスキリングを含めた人への投資に取り組む企業に対して、1兆円規模の支援パッケージを提供する構えです。

リスキリングの学習テーマ

デジタルスキル​

企業がリスキリングに取り組む背景には様々な事情があれども、傾向として多く見受けられるのはDXの推進です。そして、DXの推進にはデジタルスキルを持つ人材が欠かせません。それゆえ、リスキリングの学習テーマと言えば、一般的にデジタルスキル領域が挙げられます。

デジタルスキルと一口に言っても、その解釈は様々でありますが、参考情報としてIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が策定するDX推進スキル標準の5つの人材類型をご紹介します。

  • ビジネスアーキテクト
    DXの取組み(新規事業開発/既存事業の高度化/社内業務の高度化、効率化)において、目的設定から導入、導入後の効果検証までを、関係者をコーディネートしながら一気通貫して推進する人材
     
  • デザイナー
    ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材
     
  • データサイエンティスト
    DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材
     
  • ソフトウェアエンジニア
    DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材
      
  • サイバーセキュリティ
    業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材

参考:DX推進スキル標準(DSS-P)概要|デジタル人材の育成|IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

上記の人材類型には、ロール(人材類型を業務の違いによりさらに詳細に区分したもの)が定義されており、そのロール単位で「必要なスキル」が定められています。このDXスキル標準の情報を参考にしながら、自社のDX推進に必要な人材育成の取り組みを実行することをお勧めします。

参考:デジタルスキル標準 ver.1.0

デジタルスキル標準の活用例

  • スキル標準を参考に、DX推進に必要な人材のスキル・知識が自社でどれくらい足りていないかを可視化する
      
  • 必要な人材を育成するために、スキル項目や学習項目例を参考に自社の研修ラインナップの見直しを行う
     
  • 必要な人材を採用するために、ロールの定義やスキル項目、学習項目例を参考に職務記述書の作成を行う

その他の学習テーマ

リスキリングの学習テーマとしては、下記のような新しいトレンドに対応するための人材育成も視野に入れることが望まれます。

  • ChatGPTに代表されるAIツールの業務活用
  • サステナビリティの取り組みと事業活動との統合
  • GX(グリーントランスフォーメーション)の推進

<ご案内>
GX(グリーントランスフォーメーション)にご興味のある方は下記の記事をご覧ください。用語の意味や注目される背景、そして、GXに関する企業の取り組み事例をご紹介します。

リスキリングの類語

リスキリングの類語の意味を知ること。それは、リスキリングという言葉の意味を正しく捉える上での近道です。

リスキリングとリカレント教育との違い

リカレント教育とは「学び直し」を意味します。

社会人になってからも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくこと。それがリカレント教育です。リスキリングにも「学び直し」のニュアンスが含まれますが、両者の違いは2点あります。

1つ目の違いは学習内容。リスキリングは「特定の仕事・職務に移行するためのスキル習得」に特化する一方で、リカレント教育では学習内容(何を学ぶか)は個人の自由です。

2つ目の違いは学習の進め方。リスキリングは現職で働きながら学習を進める形になりますが、リカレント教育では退職(または休職)して、大学などの教育機関で学び直し、再度仕事に就くケースが一般的です。

リスキリングとアンラーニング(unlearning)との違い

アンラーニングとは「これまで学んできた知識や価値観・スキルの中で有効ではないものを捨てて、新しく学び直すこと」を意味します。

新しい組織に転職したタイミングや、新規事業に挑戦するタイミング、技術革新によって既存の知識やスキルが陳腐化している状況下など、これまで学んできた知識やスキルが重荷になる(邪魔になる)シチュエーションにおいて、アンラーニングは効力を発揮します。

リスキリングとの最も大きな違いは、学習内容です。

リスキリングは「特定の仕事・職務に移行するためのスキル習得」=新しいスキル獲得を目的としますが、アンラーニングでは、新しいスキル獲得に限らず、知識や価値観を取り込むこと(かつ、足枷になる古い知識や価値観を捨てること)を目的としています。

リスキリングとスキルアップ(upskilling)との違い

スキルアップとは「現在の仕事・職務のスキルを高めること(既存のスキルセットの充実)」を意味します。

リスキリングとの違いは、能力向上の方向性です。

スキルアップは既存のスキルセットを充実させていく=垂直方向の能力向上を目指す一方で、リスキリングは「特定の仕事・職務に移行するためのスキル習得」=新しいスキルセットを獲得する=横方向の能力向上を目指します。

リスキリングに関する企業の取り組み事例

AT&T

情報通信や映画・テレビなどのメディア事業を行うアメリカの巨大企業・AT&Tは、2020年までに10億ドルを投下して10万人の従業員のリスキリングを実施。

キャリア開発ツールや学習プラットフォームの提供、環境整備などで、社員が自律的にキャリアを描き、リスキリングに踏み出すよう側面支援を行いました。

“現在、社内の技術職の81%が社内異動によって充足されているという。またリスキリングのプログラムに参加する従業員は、そうでない従業員と比べ、年度末に1.1倍高い評価を受け、1.3倍多く表彰を受賞し、1.7倍昇進しており、離職率は1.6倍低い。リスキリングは、急速な変化を続ける通信業界で、必要なスキルを保有する人材を同社が確保し続ける基盤となっているのである”

参考:第4回 リスキリングの先駆者は何に取り組んだのか|研究プロジェクト|リクルートワークス研究所

日立製作所

日立製作所では、デジタルの力を使って業務や組織を変革するために「デジタル対応力を持つ人材の強化」を重点課題の1つとしています。

どんな業務に携わる人でも、“自分の業務領域ではデジタルで何ができるか” を構想できるようになる必要があると考え、日立製作所グループの人材育成を総合的に担う日立アカデミーと連携し、2020年度に「デジタルリテラシーエクササイズ」という基礎教育プログラムを開発しました。全社員16万人がオンラインで受講できます。

“「日本企業の人材育成投資は全然増えていません。OJTが中心だと言ってきましたが、そのOJTももはや機能していないのです。ここで再び、戦略実現のための人材育成投資は企業の責任だと自覚して、やるべきことをやっていきたいと思います」。リスキリングは、企業の責任なのだ”

参考:リスキリングする組織——デジタル社会を生き抜く企業と個人をつくる|Works Report|リクルートワークス研究所

NTTデータ

公共分野や法人向けのシステム構築事業を行うNTTデータでは、全社の戦略的方針として「デジタル技術の学び」を掲げています。

業務時間の一部を使い、デジタルやグローバルに関して学ぶ・組織の枠を超えてナレッジを共有する・デジタルを活用した働き方変革に取り組むことを推奨する施策「セルフ・イノベーションタイム」が2019年に創設されたことで、新しい領域の学びが推進しやすくなりました。

“2019年度の実績は59時間でしたが、2020年度には91時間を達成。自ら学び、リスキルに取り組む文化が浸透してきている手応えを感じています。実際、どういった取り組みが多いか調査も行いました。デジタル技術関連のセミナー受講が多く、技統本で主催しているクラウドやアジャイル開発のセミナーが上位に来ています。技統本がこの枠組みを活用し、リスキルする文化を全社に展開してくれているのは、ありがたく思っています。人事本部でも「いつでも、どこでも、誰でも」をモットーに、学びの民主化を進めているところです”

参考:デジタル人財化計画~#1 学び合いで全社員育成へ~|NTTデータ|DATA INSIGHT|NTTデータ – NTT DATA

Yahoo!

ヤフーでは、2023年度までの2年間で全社員を再教育し、社員8000人が業務で人工知能を活用できるようにします。

社内の様々な事業から得られたビッグデータを新サービス創出や業務の効率化に繋げ、ターゲティング広告の精度を高めるなど付加価値の高い事業にシフトすることが狙いです。デジタル化が加速する中、高スキル人材を厚くする戦略は日本企業の課題になっています。

“AIスキルを身につけるのは、専門職だけではありません。経理や人事といった間接業務に携わる社員にも身につけるべき最低ラインを設け、AIを実務で活用できるようにしてもらいます。社内にオンライン講座を開設し、斬新なアイデアや効果が高かった案件を手掛けた社員には、最大100万円を支給して士気を高めます”

参考:ヤフーが全社員にAIスキル教育、何を学ぶ? – 日本経済新聞

富士通

富士通グループでは、全社DXプロジェクト「Fujitsu Transformation(フジトラ)」を2020年にスタート。営業職の社員約8,000人を「ビジネスプロデューサー」へ変革するため、2021年3月期からデザイン思考やアジャイル開発など、DXに必須の知識やスキルセットを体系化した研修プログラムを用いてリスキリングを行いました。

“従業員のDX人材への進化も急ピッチで進めています。2022年4月には、従来日本では幹部社員のみに適用していたジョブ型人材マネジメントを国内グループの一般社員45,000人向けに拡大し、グローバルに統一された人事制度の確立に向けて大きなハードルを越えました。また、社員が自らの意思で別の仕事にチャレンジできるポスティング(社内公募)制度を拡大した結果、2022年3月末までに約2,700人の異動・再配置が実施され、グループ内の人材流動性が高まっています。チャレンジを支え、自律的なキャリア形成を支援するために、一人ひとりの社員による新たなスキルや知識の習得を促すFujitsu Learning EXperience をはじめとするプログラムも導入しています”

参考:富士通統合レポート2022

KDDI

KDDIでは、コア事業となるDX事業および社内DXの推進に向けて人財を育成するため、DXに特化した社内大学「KDDI DX University(KDU)」を2020年に設立しました。

大学のように知識やスキルを体系立てて学べるため、受講生が自らの業務と整合させ、今後のキャリアパスを描きやすいものになっています。

“今世の中ではDXが求められていますし、当社の事業戦略上においてもDXの推進は必須なものです。KDDIはKDUを中心とするDX人財育成を通じ、23年度末に全社で4,000名規模のDX人財を育成する予定です。会社は本気でDX人財の育成に取り組み、質の高いプログラムを今後も社員のみなさんに提供していきます”

参考:求む!未来のDX人財 「KDDI DX University」を設立したKDDIのDXに懸ける本気度

住友商事

住友商事グループは、2018年に専任組織「DXセンター」をデジタル事業本部に設置。幅広い産業分野に及ぶビジネスの現場で、それぞれの課題にデジタル技術を掛け合わせて新たな価値創造を図るDXや、産業横断で社会課題を解決するDXに取り組んでいます。

“こうした積極的な企業変革、事業基盤へのDXの浸透が評価され、経済産業省と東京証券取引所から「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」「DX注目企業2021」に選定され、同省が定める「DX認定制度」に基づく「DX認定取得事業者」にも選定されました。DXを通じて社会課題を解決し、人々が楽しく快適に暮らせるスマート社会の実現を目指し、全世界の住友商事グループ一丸となって挑戦していきます”

参考:最先端の技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進|住友商事

キヤノン

キヤノンでは、人生100年時代における自律的なキャリア形成を支援するため、3か月から6か月の研修で実務に必要な知識を習得し、新しい部署へ社内転職する「研修型キャリアマッチング制度」を実施。専門知識を身につける学び直しの機会を提供し、従業員が未経験の仕事にもチャレンジできる仕組みを構築しています。

“2018年には、研修施設「CIST(Canon Institute ofSoftware Technology)」を設立し、デジタル関連教育を拡充し、成長性の高い事業領域に人的リソースを移すために、研修と社内公募を合体させた「研修型キャリアマッチング制度」を実施するなど、幅広い人材のリスキリング(職業の能力の再開発・再教育)と社内転職を推進しています。従業員一人ひとりがキャリアを築き、活躍できる機会を創出することで「適材適所」を実現し、人的資本の最大活用を図っていきます”

参考:人材戦略|キヤノングローバル

ワークマン

ワークマンでは、2012年からデータ活用のためのエクセル研修を実施するリスキリングを実施。4年間のカリキュラムを通して、全社員が品揃えに対する売り上げ結果をエクセルで分析・検証し、改善に繋げられるようになりました。

“ワークマンプラスや#ワークマン女子など、新規事業への進出を検討する際も、このエクセル経営は生きた。こうした分析を多くの企業は外部に委託するが、「ワークマンはすべて自前で完結させる。社員の能力の限界=会社の成長の限界で構わない」と土屋氏。結果として、外注すれば年間数億円はかかるコストを削減できているという”

参考:ワークマンが駆使する「自作エクセル」を初公開 データ経営の要:日経クロストレンド

ボッシュ

100年に1度と言われる車業界の構造転換(EV化)により、欧州部品メーカーでは50万人、日本でも30万人の失業リスクが指摘されています。

ソフトウエアや電動化など新技術のリスキリングが急務であり、ボッシュではEVシフト前の2016年にIT教育機関を設立し、リスキリングを先行しています。再教育でEVやソフトウエアの技術者となった元エンジン技師は1,400人を超えました。

“自動車部品最大手の独ボッシュが、世界40万人の全社員のリスキリング(学び直し)に挑んでいる。仮想空間も駆使して、全員がソフトウエアに精通するデジタル集団を目指す。こうした教育に2026年までの10年間で、20億ユーロ(約2830億円)を投じる。電動化や自動運転など、ソフトウエアが車の優劣を決める競争軸の転換に対応する”

参考:独ボッシュ、世界40万人をリスキリング IT人材に転換: 日本経済新聞

ダイキン工業

ダイキン工業では、製品性能における省エネ化や地球温暖化係数が小さく安全な冷媒への転換など、あらゆる面で環境負荷の低減に取り組んでいます。

AI・IoTを活用・推進していく人材を育成するため、情報科学分野を中心に包括連携契約を締結している大阪大学の全面的な協力を得て、2017年12月に社内講座「ダイキン情報技術大学(DICT)」を開講。幅広い部門から選抜した従業員を対象に、独自のカリキュラムで研修を行っています。

“AI・IoT人材を育成し、生産工程のスマート化や機器の故障予知、業務の効率化などを推進することはもちろん、ダイキンのコア技術、製品・サービスと組み合わせることでイノベーションを創出し、エネルギー・環境問題の解決や産業・技術のさらなる発展に貢献します”

参考:特集:人材|特集|ダイキン工業株式会社

住友生命

住友生命では、総合キャリア職員を対象に実施する「マイキャリア(各職員が希望する業務エリアを自らの意思で選択・申告し、本人の希望を踏まえた職務・役割付与ならびに人事運用を行うキャリア開発)」を運営しています。

また、入社18年目を迎える総合キャリア職員を対象に実施するキャリアデザイン研修、55歳となる総合キャリア職員を対象に実施するキャリアサポート研修など、様々なリスキリング・学び直しの取り組みを実践しています。

参考:リスキル・学び直し|人的資本|統合報告書「REPORT SUMISEI 2022」|統合報告書・レポート

日立製作所×ソニーグループ

日立製作所とソニーグループでは、相互に社員の副業を受け入れる取り組みを2024年にスタートさせました。

“若手や中堅社員を、人工知能(AI)や半導体などの先端技術分野に派遣します。働き手は勤務先の仕事を継続しつつ、給料を得ながら交流先の企業で働きます。日立とソニーGの交流では、1週間のうち通常勤務時間外の3時間程度を副業に充てます。働き手が副業先での成果を持ち帰り、人材価値の向上や技術革新につなげる狙いがあります。「自社のイノベーション創出に」と、外部人材の活躍に期待する声もあります”

参考:日立・ソニーが相互に副業受け入れ、狙いは?|日本経済新聞

リコー

リコーでは、OAメーカーからの脱皮と、デジタルサービスの会社への変革に取り組みの一環として、デジタル人材の育成を加速するための「リコーデジタルアカデミー」を2022年4月1日に設立しました。

“リコーデジタルアカデミーは、全社員がデジタル人材を目指すために自律的にスキルを磨き続ける機会を提供する社内研修プラットフォームです。グループ各社・各組織から目的を持って選出されたメンバーを対象とする専門的能力強化研修と、グループ社員全員を対象とするデジタルナレッジ研修の二層構造で構成されています”

参考:リコーデジタルアカデミーを設立し、デジタル人材の育成を加速|リコー

リスキリングに関して個人にできること

ビズリーチが実施した調査(2023年実施)によると、現在リスキリングに取り組んでいるビジネスパーソンは67.6%。前年に実施した同内容の結果よりも12.8ポイント増加しています。

“リスキリングに取り組むビジネスパーソンは、前回の調査(2021年10月実施)より12.8ポイント増加し、67.6%となりました。一方で、現在リスキリングに取り組んでいると回答した企業は26.3%でした。また、95.0%のビジネスパーソンが「自身のスキルについて、将来的に新たなスキルを身につける必要がある」と感じていることが分かりました”

参考:67.6%の即戦力人材が「リスキリング」を実施 9割以上が、将来的にリスキリングの必要性を感じると回答 一方で、リスキリングに取り組む企業は26.3%にとどまる|Visionalのプレスリリース

このような状況を踏まえて、個人(一人ひとりのビジネスパーソン)は、具体的にどのようなスキルを身に付けるべきなのか。そのヒントとなる情報をご提供します(※)。

※「新しい仕事・職務に移行するためのスキル習得」という狭義のリスキリングではなくスキルアップやリカレント教育を含んだ広義のリスキリングの情報をご提供します。

デジタルスキルを学ぶ

業界業種を問わず注目されているDX(デジタルトランスフォーメンション)。このDXを推進する上では、デジタルスキルを持つ人材が欠かせません。

企業が率先して、デジタルスキルを習得するための機会を提供している側面もありますが、個人としても自らデジタルスキルを学んでいくことが推奨されます。

このデジタルスキルに関して、無料で学べるサイトをご紹介します。

マナビDX(デラックス)

社会人の必須スキルであるデジタルスキルに関するポータルサイト・マナビDXでは、無償の入門講座から有償の専門講座まで、幅広い情報を得ることができます。

“誰でも、デジタルスキルを学ぶことのできる学習コンテンツを紹介します。新しい知識やスキルを習得したいが、何をどのように学んだらよいか分からない方のため、経済産業省で策定した統一基準(DXリテラシー標準)も掲載しています。さらに、基礎的な知識・スキルを身につけた人向けに、より実践的な講座も掲載しています”

参考:マナビDX – あなたの学びに変革を!学んで身につくデジタルスキル​

日本リスキリングコンソーシアム

官民一体でリスキリング機会を創出する日本リスキリングコンソーシアムでは、イノベーションをもたらす人材の育成を目指してオンラインプログラムを提供しています。

“希望者はサイトに登録(無料)することにより、用意された200以上のトレーニングプログラムを受講できます。トレーニングプログラムは、ビジネスパーソンをはじめ、女性、シニア、経営者、求職者、学生、教育者などあらゆる方にご利用いただける内容になっており、学習のテーマはテレワークやAI、インターネットセキュリティなどデジタル技術や、マーケティング、学校教育など多岐にわたります。それぞれ初級者から上級者までに対応しており、ステップを踏んだ学びが可能です”

参考:「日本リスキリングコンソーシアム」を6月16日(木)に発足|日本リスキリングコンソーシアム

キャリアの棚卸をする

定期的に自身のキャリアの棚卸をすることを推奨します。

お勧めは、人材紹介会社(転職エージェント)との面談を通じて、転職市場の中で自分のスキルや経験がどのように評価されるのかを知り、今後どのようなキャリアの歩み方があるのかについてアドバイスをもらうことです。

自分が取り組むべきリスキリングのテーマを考える上で、良質なきっかけになり得ます。

学んだ知識・スキルを実践する

すでに自身の業務で実感されているように、知識やスキルというものは実践を通じて磨きをかけていく中で、価値が高まっていくものです。

そういった意味では、所属組織の中での機会(キャリア開発に関する制度)を活かす、あるいは新天地で挑戦する(転職先で新しい知識・スキルを実践する)など、主体的に実践の場に飛び込むことが大切です。

ちなみに、転職にリスクを感じる場合は、副業や社会人インターンなどの機会を活用することもお勧めです(デジタルスキル系であれば、Webサイトの構築や簡易的なアプリ開発など、個人的に研鑽できることがたくさんあります)。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

亀井 直人

鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム「2030SDGs」に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。活動を通じて関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。

  • 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
  • PMP(Project Management Professional)
  • NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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