パーパス経営とは?注目される背景と、企業の事例

パーパス経営とは何か。

パーパス経営の意味とパーパス経営が注目されている背景、そして、パーパス経営を行う企業の事例を分かりやすく解説します。

Contents(目次)

パーパス経営とは

パーパスとは、社会における自社の存在意義を明らかにし、社会にどのような貢献をするのかが明文化されたものです。

時代や価値観の変化に際して自分たちはどうあるべきなのかを問う内省的・内発的なプロセスを経て生まれるパーパスは「志(こころざし)」と表現されることもあります。

パーパス経営では、このパーパスを軸に経営を行います。

経営方針や戦略、事業内容や各事業部の活動、そして、一人ひとりの社員の業務に至るまで、組織のありとあらゆる取り組みをパーパスに統合させていくことで、パーパスを実現する推進力を高めます。

パーパス経営が注目される背景

事業環境の変化

VUCA時代(将来の予測が難しい時代)の今、技術革新や法制度の改正、原材料費の高騰や人材採用競争の激化など、企業の事業環境の変化には目を見張るものがあります。

この変化に対応するために企業が取り組むべきは、新規事業への挑戦や事業構造の見直し、戦略転換などの変革(トランスフォーメーション)であると言っても過言ではありません。

この変革を力強く進めていくための手法としてパーパス経営が注目を浴びています。

企業理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を今の時代に即した内容へとアップデートし、その内容(パーパスに位置付けられるもの)を共通言語とすることで組織の総力を結集し、変革に大きな推進力を持たせることができます。

サステナビリティの文脈

SDGsやESG、カーボンニュートラルにサーキュラーエコノミー。経営に求められることが経済価値の創出に留まらない時代に突入している中で、社会や環境にどのような価値貢献をできるのか?

このサステナビリティの文脈においてパーパス経営が注目されています。

社会に対する貢献を実践するパーパス経営を通じて、社会から選ばれる存在となる(様々なステークホルダーの共感・支持を集める)ことが、長期的な企業価値の向上に繋がると期待されています。

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サステナビリティにご興味のある方は下記の記事をご覧ください。カーボンニュートラルを軸に、サーキュラーエコノミーやSDGsなどの用語について分かりやすく解説します。

社員のエンゲージメント向上

パーパス経営にはステークホルダーに対するイメージアップやブランディングに繋がる側面がありつつも、その本質はパーパス経営のもとに日々の業務に邁進するひとり一人の社員のエンゲージメント(自発的な貢献意識)を向上させることにあります。

パーパスを介して自分の仕事と社会への影響に繋がりを感じられること。その実感を仲間と共有し合えること。それらは、仕事のやりがいや貢献意識に直接的に作用します(組織力の向上に直結します)。

ステークホルダーの視点から見える、パーパス経営の意味

消費者の視点

日本において、エシカル消費(社会問題の解決に繋がるような消費活動)に対する消費者の関心が高まりつつあります。

消費者が「この商品は誰がどのように作ったのだろう?」「この商品は環境や社会にとって良いものなのだろうか?」と、少し立ち止まって(考えて)商品を選ぶことが当たり前になった先に企業に求められることは何か。

それは、自社がいかに環境や社会のことを考えたビジネスをしているのかを示すアクションであり、パーパス経営の実践と符合します。

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エシカル消費についてご興味のある方は下記の記事をご覧ください(用語の意味や背景について解説をしつつ、具体的に私たちにできることについてご紹介します)。

取引先の視点

環境や社会への貢献という文脈において、B2Bの領域はB2Cビジネス(消費者市場)よりも、かなり敏感になっています。

例えば、Apple社では2021年3月に世界中の製造パートナー110社以上がApple製品の製造に使用する電力を100パーセント再生可能エネルギーに振り替えていくことを発表しました。これは一つの事例に過ぎないものの、取引先の環境対策に対応できない企業が選ばれなくなる流れはグローバル、かつ、不可逆的に進行しています。

この状況の中で、 社会や環境への約束を示すパーパスを実現していくことが、既存の取引先からの信用獲得と新規の取引先との関係構築にプラスの影響を与えるであろうことは想像に難くありません。

求職者の視点

今、日本の若者を中心に、企業選びの軸(企業を選ぶ際に重視すること)として、企業の社会貢献性が注目されています。

パーパス経営を行うことは、対外的に社会への貢献性をアピールすることにも繋がるため、社会への貢献を志向している会社として求職者の目に留まりやすくなります。

パーパスを浸透させる方法

パーパスを組織の隅々にまで浸透させてこそ、パーパス経営は真価を発揮します。

パーパス浸透のゴールは、社員がパーパスを自分ごと化できるようにすること。そのためには「どうやって社員に伝えていくか?/いかに社員を巻き込むか?」などのコミュニケーションデザインが必要になります。

パーパス策定段階にできること​

現場部門を巻き込む

社員がパーパスを自分ごと化する上では、パーパス策定段階から社員に関わってもらい、自分たちでパーパスを考えたのだという実感を持ってもらうことが有効です。

例えば、

  • 自身が関わる事業や業務がどのような社会的価値を発揮しているのか?
  • 自部門が、今後どのように社会へ貢献していける可能性があるか?

などについて現場部門に広く情報や意見を求めることは実効性のあるパーパスを考えることと同義であり、パーパス・ウォッシュ(パーパスを掲げているが実態が伴っていない状態)を避け、より意味のあるパーパスに到達するためにも重要です。

全社プロジェクトとして進める

パーパス策定は、特定のひとつの部門の中で進めるよりも、全社的(または部門横断的)に様々な部門の社員が参画するプロジェクトとして進める形がおすすめです。

それは、現場部門を巻き込むことが重要であるという理由のほか、パーパスの策定は全社的な協力体制が築けていないと推進が難しいという理由も含まれます。

経営企画室や社長室、広報部や人事部、ブランド戦略部やマーケティング部など、様々な部門が、それぞれの専門性の中で役割分担をしてパーパスの策定を進めていきましょうという座組みを整えておくことができるかどうか?

それによって、パーパス策定の推進スピードが大きく変わってきます。

パーパス浸透段階にできること​

多くの人が集まる場を活用する

全社的な集まりや階層別研修(新入社員研修や管理職研修)などの一度に多くの社員が集まる場は、パーパス浸透の絶好の機会になります。

  • 全社的な集まりの場でパーパスの理解を深めるワークショップをする
  • パーパス理解のための研修プログラムを実施する

多くの人が一緒にパーパス理解のための共通体験をすることは、パーパス浸透の時計の針を大きく前に進めることに繋がります(場の設計次第ですが、パーパスをより良い内容にブラッシュアップする機会にもなり得ます)。

個人目標(評価指標)とパーパスを連動させる

社員が自分ごと化している内容として真っ先に挙がるものは、評価に関わる個人目標です。だからこそ、この個人目標(評価指標)とパーパスを連動させることが有効です。

売上や利益などの既存の成果目標とは別に、パーパスの実践に関する行動目標を設定すること(評価の仕組みに組み込むこと)が推奨されます。

パーパスの浸透度を測る定量的な指標を活用する

定量的な指標をもとに、現状を評価し、改善を行う。このビジネス・仕事の常識はパーパス浸透の活動においても変わることはありません。

パーパス浸透の取り組みがどの程度上手く行っているのかを定量的に判断するための指標を設定し、定期的に評価を行い、改善アクションに繋げる。このサイクルの中でパーパス浸透を推進していくことが求められています。

パーパス経営を行う企業の事例

味の素

パーパス(志)

アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献します。

“昨今の、変化が非常に激しく予測が難しい事業環境下においては、私たちが拠り所とする志(パーパス)がますます重要になっています。このたび、味の素グループの「志」を、従来の「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題を解決」のその先を見つめ、「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」へと進化させました。この志には、経営層の思いだけでなく、当社グループの従業員から自発的に生まれた思いや、サステナビリティ諮問会議等をはじめとするマルチステークホルダーの皆様の期待に応えていくという決意が込められています。志の進化にともない、私たちの経営理念である”Our Philosophy”についても 進化をさせました

参考:トップメッセージ|ESG・サステナビリティ|味の素グループ

ネスレ

パーパス

食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます

“ネスレのパーパスは、「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」です。このパーパスに導かれて、私たちは食の持つ力で人とペットの生活に大きな違いをもたらすこと、環境を守り保全を強化すること、そしてネスレの株主をはじめとするステークホルダーの皆さまに大きな価値をもたらすことに、自らのエネルギーとリソースを集中します

参考:ネスレのパーパスと価値観|企業情報|ネスレ日本 企業サイト|Nestlé

ソニーグループ

Purpose(存在意義)

クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす

“ソニーグループは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことをPurpose(存在意義)として掲げています。この感動を創るのは「人」であり、感動する主体も「人」です。よって、クリエイターやユーザーという「人に近づく」ことを経営の方向性としています”

“我々がこれからも新たな価値を創出し続けるためには約11万人のソニーグループの社員とPurposeを共有していくことが極めて重要になります。現在のソニーはPurposeを企業文化として定着させつつあり、これは長期的な企業価値の向上に直結するものだと考えています”

参考:ソニーグループポータル|CEOメッセージ

東京海上グループ

パーパス

お客様や地域社会の“いざ”をお守りすること

“「お客様や地域社会の“いざ”をお守りすること」は当社の創業時からのパーパスであり、どのような時代にあっても決して変わることはありません。そしてこのパーパス以外に、変えてはならない領域はないとも考えています。

足元では、コロナ禍も契機に、事業環境が大きく、急速に変化しており、社会インフラである保険会社への期待は高まっています。そして、こうした難しい時代の中、従来型の保険ビジネスだけに拘っていると、変わりゆくお客様や社会の本当の期待に応え続けることが難しくなるのではないか、とも考えています。

例えば、激甚化する自然災害や増大するサイバーリスクに対して、有事において「保険金をお支払い」するだけで、パーパスを実現したと言えるのだろうか。言うまでもなく、「保険金のお支払い」は保険会社において最も重要な機能ですので、これを万全に実行することは大前提ですが、事故を未然に防ぐ、仮に事故が発生してもその負担を軽減する、そして早期に復旧し、再発を防止する。こうした事前・事後の安心、「保険金支払いに留まらない価値」を提供することもより一層重要になっていくと、当社は考えています。

そのために、当社はデジタルも徹底的に活用し、ヘルスケアや防災・減災、モビリティ、サイバー等の幅広い分野において、価値提供領域を飛躍的に拡大することで、当社のパーパスである「お客様の“いざ”という時」を支えるためにも、「“いつも”支えることができる存在」へと進化できるよう挑戦していきます

参考:東京海上グループの価値創造アプローチ|東京海上ホールディングス

日産自動車

パーパス(コーポレートパーパス)

人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける

“コーポレートパーパスは、私たちのあらゆる活動の中心となるものです。社会に存在する理由を明確にし、進むべき方向を明確にすることで従業員を結び付け、ステークホルダーの皆さまに対し、会社として一貫した価値をお届けするためのものです。

これは、すでに私たちの中にあり、行動するうえで認識している内容を改めて明文化したものです。

現在、事業構造改革計画「Nissan NEXT」を遂行していますが、あわせて、その次なるステージにおいて持続可能な成長を実現すべく、その準備を進めています。これは、長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の礎となるものであり、モビリティとその先の未来を切り拓き、そしてコーポレートパーパスの実現を目指します。

また本コーポレートパーパスには、自分たちの強みを再認識し、「人々の生活を豊かにする」ことに軸足を置くという私たちの願いも込められています。企業、組織、そして一人ひとりが共通の目的を共有することで、より優れたパフォーマンスを発揮することができるでしょう

参考:パーパス・ミッション・DNA|会社情報|日産自動車企業情報サイト

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

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