プロスポーツ界を参考にした人的資本経営の3つの取り組み(ビジネスゲーム開発日誌 Vol.47)

ビジネスゲームを作っていると、自分に問いを頻繁に立てるようになります。

「このものごとの本質は何だろう?」
「この問題はどのような構造で生じているのだろうか?」

最初から見えることもあれば、ゲームを作っていく中で、表現したいテーマの本質や問題構造が鮮明に見えてくることがあります。

それが創り手としては面白く、ゲームの参加者としては一種の “アハ体験” に繋がると感じています。

最近、人事の方と話していると必ず話題に上るのが、「人的資本経営」の話です。

「どのように従業員のリスキリングを行っていくか」
「人的資本の開示の義務化にどのように対応していくか」

経営者の関心が高いこともありますが、人的資本経営を表面的に捉えると、このような話になることが多いように感じます。

しかし、私自身は人的資本経営の本質を、次のような点にあると考えています。

「他社に比べて圧倒的な違いを作り出せる、あるいは株価を左右し得る “異能の人材” をどれだけ会社として確保し、育成し、維持できるか」

むしろ、そういった “異能の人材” の確保・育成・維持をゴールに定めてぶらさず取り組むからこそ、人的資本経営というワードが企業を動かす力になるのではないでしょうか。

ジョナサン・アイブがAppleを退職するときにAppleの時価総額が大きく減少したように、日本の企業にも他社との圧倒的な違いを作り出せる人たちがいます。

経営者で言うと、「孫正義」「柳井正」「永守重信」。

いずれも一代で会社を築いた、日本を代表する経営者です。この人たちが会社にいることが、会社にとって一番の差別化要因になります。

しかし、これらの経営者に共通しているのは、「後任の社長候補の育成が出来ていない」ことではないでしょうか。

一方、創業者ではないけれど、会社の中に株価を左右するぐらいの “異能” を抱える会社もあります。

パッと思いつくところでは、トヨタでプリウスの開発を主導し、世界に冠たる環境メーカーとしての地位を確立した「内山田竹志」、任天堂でスーパーマリオを始めとする数々のヒット作を生み出した「宮本茂」。

トヨタや任天堂がすごいのは “異能” と言われる人が次々と出てきて、そして経営を担い、一時代を築くところだと感じます。

これは、人材の確保に加え、育成や維持がうまく機能していることを示しています。

プロスポーツ界を参考にした人的資本経営の3つの取り組み

どうすれば、“異能” の人材を確保し(見出し)、育成し、維持することができるのでしょうか?

そのヒントは、プロフェッショナルの確保・育成・維持という観点で、既存の日本企業よりも遥かに進んでいる、プロスポーツの世界に見ることができます。

日本のサッカーを世界の水準に押し上げた “異能” 中田英寿は、ベルマーレ平塚という中堅以下のチームでキャリアをスタートし、そこからイタリアのペルージャというこれまた中堅以下のチームに移籍しました。

そこで結果を出し、ビッグクラブであるローマに移籍し、セリエAでのスクデット獲得(優勝)に貢献しました。

本田圭佑もVVVフェンロというオランダ二部リーグの主力として二部リーグの優勝に貢献した後、CSKAモスクワに移籍し、中心選手としてチャンピオンズリーグに出場。その後セリエAで10番を背負っています。

彼らに共通していることは、早くから自分が中心プレイヤーとなれるチームに移籍し、そこを足がかりにキャリアをアップさせていったことにあると思います。

おそらく、いきなり世界のビッグクラブに移籍していては、彼らほどの才能があっても潰されてしまったことでしょう。

同様のことは野球の大谷翔平にも言えます。自分を評価し、二刀流を許してくれるクラブでメジャーでのキャリアをスタートさせました。

もともと、高校を卒業したらメジャーに挑戦するつもりだったのが、日ハムの敏腕スカウトマンの「日本でキャリアをスタートさせたほうがメジャーで成功しやすい」というデータをもとにした説得に納得して、日本でキャリアをスタートすることを決意したと聞いています。

これらの話も参考に、日本企業にとって “異能” の人材の確保・育成・維持という視点で考えると、私たちは人的資本経営にどのように取り組むと良いでしょうか。

1つ目は、才能ある人材に早い段階で経営経験(一軍で中心選手として動く権利)を与えることでしょう。経営経験を与えないと彼らの力は伸ばせないし、異能の人材の確保も難しいと感じます。

 2つ目は、才能ある人材のチームに対する愛(貢献意欲)を育むことでしょう。愛(貢献意欲)は「機会提供」と「組織成長」で実現されます。

「機会提供」とはチームの中で活躍するための機会を提供することです。「組織成長」とは才能ある人材の成長を受け止められるように、チーム(組織)そのものを成長させることです。

才能ある人材は(中田や本田がチームを移籍したように)、自身が活きる環境を選ぶものです。自身の才能を活かせない・適切な評価をしてもらえないチームから、才能ある人材は離れていきます(※)。

※世界の一流選手の中には、ずっとひとつのトップチームにとどまる「ミスター◯◯」と言われる人たちがいます。彼らは、自分の才能を育ててくれたクラブへの愛はもちろんのこと、自身の力をそのチームが最も活かし、評価してくれる確信を持っています。

3つ目は、育成の体制をつくることです。現在のサッカーではユースチームからの昇格組が活躍できるチームが安定的に結果を残すようになってきていますが、企業も一緒です。

新卒を採用し、“異能の芽” が出てきた人に早い段階で経営経験を積ませ「自社が一番自分の才能を伸ばし、活かしてくれる」感覚を持ってもらうことが大切と感じます。

  1. 才能ある人材に早い段階で経営経験を与える
  2. チームに対する愛(貢献意欲)を育む
  3. 育成の体制をつくる

上記3つのことをやるにあたって、みなさんの会社の「人事制度」や「人材の採用・抜擢・育成」方針は適切なものでしょうか。

例えばリスキリングというワードが、「異能を見出し育てる」ために使われるのではなく、「弱者の福利厚生」のように使われる危険はないでしょうか。また、会社にとってチームワークはとても大切ですが、「チームワークを重視するあまり、人事評価も横並びの評価から抜け出せていない」ということはないでしょうか。

人的資本経営に関して、いま経営トップの注目が集まっています。

人事責任者、人事担当役員にとっては間違いなく、ヒトの面から会社を創り直せる未曾有のチャンスといって良いでしょう。

この機会を活かすことができる、“異能” の人事担当者が求められていると感じます。

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執筆者プロフィール

福井 信英

富山県立富山中部高等学校卒業、私立慶應義塾大学商学部卒業。 コンサルティング会社勤務、ベンチャー企業での営業部長経験を経て富山にUターン。2010年、世界が抱える多くの社会課題を解決するために、プロジェクト(事業)をデザインし自ら実行する人を増やす。というビジョンのもと、株式会社プロジェクトデザインを設立。現在は、ビジネスゲームの制作・提供を通じ、人材育成・組織開発・社会課題解決に取り組む。開発したビジネスゲームは国内外の企業・公的機関に広く利用され、英語版、中国語版、ベトナム語版等多国語に翻訳されている。課題先進国日本の社会課題解決の実践者として、地方から世界に売れるコンテンツを産み出し、広めることを目指す。 1977年生まれ。家では3人の娘のパパ。

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