SDGsの認知が拡大する中で、企業がSDGsに取り組むことのインパクトは増加し続けています。
SDGsに取り組むことは効果的なPRであり、リスク対策(SDGsに取り組まないことによって起きる悪影響への対策)です。企業にとって、SDGsに取り組むことが必然となりつつある今、時に、自社のSDGsの取り組みが、意図せずにSDGsウォッシュになってしまっていることも起こり得ます。
そこで、本稿では、SDGsに誠実に取り組んでいく意思のある企業が、SDGsウォッシュを避けるためのヒントをお届けします。
SDGsウォッシュとは
SDGsウォッシュとは、SDGsとWhitewash(ごまかし・粉飾)を組み合わせた造語であり、実態が伴っていないSDGsの取り組みを意味します。
具体的には、下記のような場合において、企業はSDGsウォッシュであると見なされます。
- 実態がないにも関わらず、SDGsに取り組んでいるようにPRすること
- SDGsに本気で取り組むつもりがない中で、自社の既存の取り組み(事業内容)とSDGs17の目標を無理やり関連付けること
- SDGsの取り組みをしているが、それと逆行することをビジネスとして行っていること
よくあるSDGsウォッシュの事例は、自社単独ではSDGsの取り組みを実践できているものの、サプライチェーン全体(調達→生産→販売→消費の一連のプロセス)で見ると矛盾が生じているケースです。
- 脱炭素の取り組みを宣言し、社内では実際にその取り組みを進めているが、部品の調達先であるサプライヤー側では脱炭素と逆行する動きが見られるケース
- 環境に配慮した製品を提供している一方で、原料の生産・調達過程で児童労働や強制労働、環境破壊の問題に関わっているケース
SDGsウォッシュが企業に与える影響とは
SDGsウォッシュであるという批判を受けた際に、企業にはどのような影響があるのか。それは「信用を失う」という言葉に集約されます。
- 消費者の信用を失う=不買運動につながる、ブランドイメージが棄損される
- 求職者の信用を失う=採用ブランドが棄損される(中長期的に人気を失う)
- 投資家の信用を失う=ESG投資を受けられなくなる、融資の条件が厳しくなる
- 取引先の信用を失う=取引先を失う、取引の条件が厳しくなる
※上記は一般論としての話です。現実的にどのような影響が生じるかは、自社の社会への影響度やSDGsウォッシュの程度次第です。
SDGsウォッシュを回避するための2つのキーワード
1. アウトサイド・イン・アプローチ
アウトサイド・イン・アプローチでは、社会(アウトサイド)の未来から目標を設定し、その目標と現在のギャップを埋めるための戦略を逆算して考えます。
企業の内部(インサイド)の過去と現在の業績を分析し、未来の目標を設定するインサイド・アウト・アプローチを取る今日的なあり方では世界的な課題に十分に対処できないと言われている中、このアウトサイド・イン・アプローチの重要性が説かれています。
つまりは…
「フォアキャスティング的に既存の事業活動の延長線上にSDGsの目標設定をしても、SDGsの目標達成とのギャップが大きくなるから良くない。そうではなくて、バックキャスティング的にSDGsの目標から、今何をすべきかを考えるべきだ」ということであり、目標設定を考える際の“起点”が重要なのだと解釈できます。
2. パートナーシップ
SDGsの17の目標はどれもとても大きな目標であり、1社単独で推進するには無理があることは、過去を辿れば明らかです。
2014年に実施されたある調査によれば、調査対象となった3万8,000人の企業の役員・管理職およびオピニオンリーダーのうち、90%が持続可能性の課題は企業単独では効果的に対処することはできないと回答した。
参考:SDG Compass|SDGsの企業行動指針 P24
より大きなインパクトを出すために、よりゴール達成に近づくためには、行政や民間の垣根のない多様なステークホルダーによるパートナーシップが必要であると考えるべきです(バリューチェーン全体でSDGsの取り組みの歩調を揃えていく上でも、パートナーシップの考え方が重要です)。
このパートナーシップの例としては、文京区の「こども宅食プロジェクト」が挙げられます。
駒崎:「こども宅食」は、コレクティブ・インパクトと呼ばれる、立場の異なる組織(行政、企業、NPO、財団、有志団体など)が協働する手法で社会課題の解決を目指します。これは、行政として非常に珍しい形での運営になりますよね。このような手法を取ろうと決断した理由はなんですか?
成澤:色々な組織がそれぞれの強みを活かして協働することによって、初めて課題が解決できると思っているからです。
参考:文京区長が「こども宅食」でNPOとの協働を決断した理由とは|子供宅食
この「こども宅食プロジェクト」では、
・特定非営利活動法人フローレンス
・特定非営利活動法人キッズドア
・一般社団法人RCF
・特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会
・一般財団法人村上財団
・セイノーホールディングス株式会社
・文京区
という具合に、区とNPO団体や企業が対等な関係でパートナーシップを組み、事業に取り組むコンソーシアム(共同体)形式を採用しています。平成29年度から令和元年9月15日時点において、寄付金の総額は累計1億5000万円以上(寄付件数3613件)と、大きなインパクトが生まれています。
SDGsウォッシュを回避するヒントになる企業事例
Apple
Appleは2020年7月に、サプライチェーンの 100%カーボンニュートラル達成を約束を発表しました。
“Appleは本日、事業全体、製造サプライチェーン、製品ライフサイクルのすべてを通じて、2030年までに気候への影響をネットゼロにすることを目指します。Appleは今日の段階でグローバルな企業運営において既にカーボンニュートラルを達成していますが、今回の新たな目標では、販売されるすべてのAppleのデバイスについても、2030年までに気候への影響をネットゼロにすることを目指します”
参考:Apple、2030年までにサプライチェーンの 100%カーボンニュートラル達成を約束 – Apple (日本)
その後、日本を含めたグローバルサプライチェーンに対して協力を要請し、計画を力強く推進する様子は、まさにアウトサイド・イン・アプローチの好事例です。
有楽製菓
ブラックサンダー(チョコレートのお菓子)で有名な有楽製菓では、ガーナ共和国における教育支援を続けている他、カカオ豆の生産における児童労働問題の解決に向けて「スマイルカカオプロジェクト」に取り組んでいます。
“2022 年内にブラックサンダーに使用するカカオ原料を、児童労働撤廃につながる「スマイルカカオ」に切り替えます。また、2025 年までに弊社で使用するカカオ原料を全て「スマイルカカオ」へ切り替えることを目指します”
参考:スマイルカカオ|有楽製菓
同社の取り組みは、Cocoa Horizon(ココアホライズン)や不二製油(株)サステナブル・オリジンなどのプログラムとの連携によって実現している点がポイントです。
チョコレートに限らずに、様々な原料において海外の現地生産者を支援するプログラムやサステナブルな生産を支援するプログラムが存在します。そして、そういったプログラムとパートナーシップを築くことで、自社だけでは成し得ないことも実現できる可能性が生まれます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回ご紹介した「アウトサイド・イン・アプローチ」と「パートナーシップ」の2つのキーワードを意識いただくことで、また、企業事例を参考にしていただくことで、SDGsウォッシュの批判とは無縁な本質的なSDGsの取り組みが増えることを願います。
最後に、企業のSDGsの取り組み事例をまとめた記事をご紹介させていただきます。貴社のSDGsの取り組みを進めていく上で参考になる情報があれば何よりです。
監修者プロフィール

長瀬 めぐみ
岐阜県高山市出身、富山県滑川市在住。実家が100年以上続くお菓子屋を営んでおり、幼少期より観光や地域産業が身近な環境で育つ。高校時代、同級生が家業を知らない現実にショックを覚え、地域創生に関心を持ち始める。短大卒業後、すぐにUターン。まちづくりのNPOで子どもの教育支援や大学のない中山間地域へ若者を誘致するインターンシップ、農業支援などの取り組みで4年間で延べ600人以上の学生と関わる。様々な活動の中で、地域が元気になるためには、地元の若者が育つ仕組みと地域の大人が楽しんで地域に参画する土壌づくりの必要性を感じ、公立高校で学校と地域をつなぐコーディネーターなども務めた。体験から気づき、意識・行動変革をもたらすゲームコンテンツに魅力を感じ、全国に広めたい!とプロジェクトデザインに参画。地元飛騨が大好き。