突然ですが、問題です。仕事の中で自分1人では解決できない問題に直面した際、心理的安全性が高い状態の人の行動を表すものとして、正しいものは次の選択肢のどれでしょうか?
<選択肢>
- チームメンバーに自分の状況を打ち明け、助言を求める
- チームメンバーに話さず、自分の胸に留める
- チームメンバーから疎外感を覚えているため、自力での解決を目指す

<正解>
選択肢1の「チームメンバーに自分の状況を打ち明け、助言を求める」が正解です。
心理的安全性の高い状態とは、対人関係において「こんなことを言ったらダメなやつだと思われるかもしれない」「否定される・バカにされる・叱られるかもしれない」という不安がなく、自分の考えや意見を安心して話せる状態を指します。
心理的安全性の高いチームはメンバー同士が認め合い、尊重し合うことで率直に意見を伝え合うことができ、応援・協力・相談・助言・情報交換がしやすくなります。そうしてチームとしてうまく機能し、生産性が向上します。
一方、選択肢2の「チームメンバーに話さず、自分の胸に留める」はチームメンバーを信頼できず萎縮している状態、もしくはチームメンバーに心配や迷惑をかけないようにしている状態とも考えられます。
選択肢3の「チームメンバーから疎外感を覚えているため、自力での解決を目指す」は仲間意識が薄れ、孤軍奮闘している状態です。どちらも心理的安全性が低い状態で、このまま放置していれば他のメンバーにも影響し、チームがバラバラになってしまいます。
このように、チームでの活動には、個々のスキルや能力のほかに心理的安全性が重要な役割を果たすと言えます。
心理的安全性とは
心理的安全性(psychological safety:サイコロジカル・セーフティ)とは、「対人関係(特にチーム)においてリスクのある行動をとっても大丈夫だ」と思える心理状態を表します。
リスクのある行動とは、無知・無能・ネガティブ・邪魔だと思われるかもしれない行動のことです。
言い換えると、チームでの心理的安全性とは次のようにも表現できます。
- メンバーを信頼し、分からないことを質問する・新しいアイデアを出すなど、ポジティブなこともネガティブなことも安心してさらけ出せる状態
- 自分の考えや意見、感じたこと・思ったことをメンバーの誰とでも率直に言い合える状態
- 話し合いにおける不安や不快感がなく、組織の成長の実現のために安心してリスクを取り行動できる状態
心理的安全性は、チームビルディングやリーダーシップ、メンタルケアの観点からも重要なキーワードです。Googleトレンドによると、2016年ごろから日本で心理的安全性というキーワードへの関心が高まり始めたことが分かります。
心理的安全性の効果
心理的安全性は、円滑なコミュニケーションの土壌づくりに直結します。心理的安全性が高い状態であれば情報共有が進み、安心して積極的に行動・挑戦できるため、チームのパフォーマンス向上にもつながります。
実際にGoogleが行った調査データからは、生産性の高いチームがもつ要素の中で圧倒的に「心理的安全性が重要である」という結果が出ています。
“リサーチ結果によると、心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が2倍多い、という特徴がありました”
参考:Google re:Work – ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る
もちろん、心理的安全性の高さがチームの成功を約束するものではありません。しかし、成功は失敗の延長戦上にあるものと捉えると、失敗を許容する(または歓迎する)チームは、推進力のある強いチームであると言えます。
職場の心理的安全性を測る7つの質問
あなたやあなたのチームは、心理的安全性が高い状態だと言えるでしょうか?
「チームの心理的安全性」を提唱した、組織行動学研究者のエイミー・エドモンドソン教授(ハーバード大学)は、チームの心理的安全性を測る際に7つの質問を投げかけます。
- チームの中でミスをしても、非難されない
- チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える
- チームのメンバーは、自分と異なることを理由に他者を拒絶することがない
- チームに対してリスクのある行動をしても安全である
- チームの他のメンバーに助けを求めることができる
- チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない
- チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる
※1・3・5は逆の表現だったため、回答・集計しやすいよう文末を変えてあります。
この7つの質問に、5段階(5:強く当てはまる、4:当てはまる、3:どちらとも言えない、2:あまり当てはまらない、1:全く当てはまらない)で答えることをお勧めします(点数が高いと心理的安全性が高い状態と言えます)。
メンバー全員が回答することで、チームの心理的安全性の状態を定量的に把握することができます。心理的安全性の低いメンバーがいれば重点的に気にかけ、低い項目を上げるようにするなど、心理的安全性を高めるアプローチをお勧めします。
心理的安全性を高める研修・ゲーム
心理的安全性を高めるゲーム型研修
心理的安全性を高めるアプローチにはチームのコミュニケーション改善が有効ですが、日々の積み重ねには時間がかかります。そこで、比較的短時間で心理的安全性の醸成に繋がる研修をお勧めします。
心理的安全性を高める研修には、コミュニケーション研修やチームビルディング研修があります(研修には、チームメンバー全員で一緒に参加する形が推奨されます)。
コミュニケーション研修では、目標に向かって協働する組織に欠かせないコミュニケーション(対人関係における情報や感情のやり取り)を重視し、コミュニケーションが円滑な健全な組織を目指します。
職場の人間関係を改善するためのコミュニケーションスキルを学ぶとともに、1人1人の意識を変えることで心理的安全性を高めていく行動に結びつけます。
チームビルディング研修では、目標に向かって協働するための関係を構築することが重要です。そのためにはメンバー同士が交流し、楽しい時間を共有することも大切ですが、それ以上に、相互に信頼し合える関係作りを意識する必要があります。
互いの状況やビジョンを知り、応援・サポートし合うことで心理的安全性の高い働きやすいチームを目指します。
一般的な座学研修では、知識(理論や原理)を学んでも、自身の経験が足りないと理解・腹落ちしにくいデメリットがあり、チームで一緒に参加しても得られる学びには個人差があります。
一方、「ビジネスゲーム」を用いた研修では、現実世界を模したゲームの世界でシミュレーション(模擬実験)した後にふり返りを行うため、体感を通して自身の行動やメンタルモデルに気付き、腹落ちできます(自己変容に結びつきやすくなります)。
また、チームで同じ体験・経験を得ることで仲間意識の醸成にも繋がり、通常の座学研修よりも心理的安全性が高まります(心の距離が縮まり、仲良くなります)。
そのため、ビジネスゲーム型の研修をお勧めします。
コミュニケーション研修
「チームのパフォーマンスが相対的に低い」「チームの雰囲気が目に見えて悪い」「チームメンバーが委縮している」などの問題を改善したい場合は、そのチームに所属するメンバーの心理的安全性を高めるコミュニケーション研修が有効です。
現実を模しているビジネスゲームは閉じられた環境の中で行われる経験であるため、アイデアを話しやすく、失敗からの教訓を抽出しやすいというメリットがあります。
ゲーム中に自らの意見を伝えることで生まれていく変化を観察することで、現実の話し合いにおいても主体的に発言する姿勢を後押しします。
参考:https://www.projectdesign.co.jp/knowledge/communication-training-manual/
チームビルディング研修
ビジネスゲームの中では現実社会での役職から開放され、社長も部長も新入社員も同じ立場の参加者としてチームを組みます。
参加者は、チームの中で自分の存在が脅かされないことを実感できると「自分はチームのために何をすべきなのか」を考えられるようになり、自然に自身の長所を活かした役割・ポジションを発見します。
ビジネスゲームというシミュレーションの場では、「失敗しても良い」と感じられることで日常時よりも心理的安全性が高い状態となり、果敢な挑戦が生まれやすくなります。
参考:https://www.projectdesign.co.jp/blog/team-building-training/
心理的安全性を高めるゲーム
楽しみながら取り組めるゲームコンテンツは、アイスブレイク(場の緊張をほぐすこと)や関係構築効果を狙う上で有効な手法です。
目的に沿ったふり返りをするビジネスゲーム研修と異なり、ゲーム単体で行うと「楽しかった」で終わるためその場限りの効果となりますが、ファーストステップとして取り組みやすい点はお勧めです。
一般的な研修の場でも、導入部分にゲームを行うことで参加者同士で打ち解けやすくなり、「自分はここにいていいんだ」と安心して研修に臨むことができます。
手軽にできるゲームの中で代表的なものとしては、「Good&New(グッドアンドニュー)」や「共通点探しゲーム」がお勧めです。
“Good&New(グッドアンドニュー)とは、最近自分の身の周りで起きた、新しい・良い出来事を話すゲームです。道具が不要で手軽に行えるため、多くの企業で取り入れられており、互いの価値観や考え方を知るきっかけになります”
“共通点探しゲームとは、仲間同士が対話を通して時間内に同じチームの仲間との共通点を見つけ出すゲームです。目的は、共通点そのものを知ることより、仲間同士で一体感を得て相手の特徴をより知ること。仲良くなるのにおすすめです”
参考:内定者研修・内定者懇親会に使える面白いゲーム7選 | 株式会社プロジェクトデザイン
日々の業務内で心理的安全性を高めるヒント
心理的安全性を高める上では、研修やゲームをお勧めしますが、日々の業務におけるコミュニケーションを改善することでも心理的安全性を高めることができます。
心理的安全性を高めるために、管理職・上司が行うべきこと、メンバー・部下が行うべきことに分けてご紹介します。
管理職・上司が心理的安全性を高める方法
心理的安全性はチーム内で尊重されるべきものです。
リーダーである管理職や上司の立場にいる人は、自らが率先してチームの心理的安全性を高めていくために、次のようなアプローチをお勧めします。
- メンバー全員に平等な発言機会を与える
- 部下から出た意見やミスの報告を頭ごなしに否定したり怒ったりせず、「意見を出してくれてありがとう」「迅速に報告してくれて良かった」と一旦受け止める
- 部下が話しやすいように、自分の経験や失敗を交えて自己開示する
- 定期的に1on1を行い、部下の本音を聞ける場を作る
- 長い目で見て、相手の成長のためになると思うことを伝える
- コーチングを取り入れる
- 人を傷つけない笑いとユーモアのセンスを磨く
その他、具体的なノウハウに関しては「Google re:Work」のサイトでダウンロードできる「心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること」という資料が参考になります。
“心理的安全性を高めるためにマネージャーにできること
このガイドでは、チームの心理的安全性をモデル化、強化するための考え方を紹介しています。調査研究に基づく、マネージャーとチームメンバー向けの具体的なアドバイスに従うことで、メンバー全員が貢献できるチーム環境を実現できます”
参考:Google re:Work – ガイド: 「効果的なチームとは何か」を知る
メンバー・部下が心理的安全性を高める方法
メンバー・部下の立場にいる人は、「職場での心理的安全性が低い」と嘆いていないでしょうか?
心理的安全性を作るのは、上の立場にいる人だけの責任ではありません。チームメンバー1人1人の意識と行動が大切です。自分にできることで心理的安全性を高められるよう、意識や行動を変えてみることをお勧めします。
心理的安全性を高めるために主体的に行動すること自体がチームに良い影響を生み出し、より自身の心理的安全性を高めることに繋がります。
- 自分以外の誰かや何かのせいにせず、心理的安全性を高めるためにどのような行動を取ればいいか考える
- 「心理的安全性が低い」と感じるのはなぜか自己分析し、理想とする形を描いてそこに近づく方法を探る
- 仕事の会話以外に他愛のない会話(雑談)のできる話しやすい雰囲気をつくる
- 話しやすい話題から会話を始め、少しずつ自己開示していく
- トークストレート(相手を信じて臆さず率直に話す・言い訳や駆け引きをせず端的に話すこと)を心がける(※相手を傷つける言葉になっていないか注意)
- アサーティブコミュニケーション(自他ともに尊重し、相手と対等に向き合う姿勢で成長や改善を願い率直に伝えること)を意識する
- 自分の心身のケアや感情のコントロールを行い、レジリエンス(精神的回復力)を高める
心理的安全性の向上に取り組む企業の事例
心理的安全性を重視し、自社の施策に取り入れている企業をご紹介します。
サッポロホールディングス
サッポロホールディングスではコアメンバーが心理的安全性の学習を深め、研修を受けた人が「心理的安全性をメンバーに伝えるファシリテーター」となって組織浸透を図りました。
その結果、全従業員2,000人に心理的安全性を浸透・拡大し、会議の前には心理的安全性を確認してから開始する習慣付けや、現場主導でのポスター作成などに取り組んでいます。
“コミュニケーションを活性化するために1on1ミーティング(上司と部下)を実施しており、人財育成と組織活性化に資する1on1ミーティングの実施・活用に向け、管理職に向けたセミナーを実施しています。2021年、2022年は心理的安全性に関するセミナーを実施しました。また、オンライン環境下ではミーティング以外に、日常的な会話から組織横断的コミュニケーションまで、チャット機能、通話機能をはじめとしたITツールを積極的に活用・推奨し、感謝を伝え合うサンクスポイント、および日常の体調を報告するパルスサーベイを導入しました。優れた取り組みはイントラネット上で公開し水平展開しています”
参考:安心して働ける職場環境づくり|個性かがやく人財の輩出|サッポロホールディングス
吉積情報
吉積情報では、「仕事をする上でチーム・個人で大事にしていきたい考え方」として、コアマインド「HTTPS(正直でいよう、感謝の気持ちを持とう、チームで信頼を得よう、前向きに取り組もう、賢くあろう)」があります。
このコアマインドの醸成のため、全社的なプロジェクトとして心理的安全性の実現に取り組んでいます。
“心理的安全性を吉積ホールディングス全体に浸透させるために、「ピアボーナス制度の導入」「1on1ミーティングの定期的な実施」「評価制度のアップデート」等、様々な施策を実行しています。私たちが目指しているのは、一時的なスコア達成ではなく、文化としての心理的安全性の定着です。それを考えると、これまでの成果はまだまだ道半ばかもしれません。しかし、少しずつではありますが、社内の変化も実感することができています。いつか、私たちが目指す世界が世の中のモデルケースになり、企業だけでなく、世の中の働き手の労働環境の改善に繋がれば、それ以上に嬉しいことはありません”
参考:吉積ホールディングスは、なぜ心理的安全性を重要視するのか|吉積情報株式会社
ナラティブベース
業務委託・BPO事業などを行うナラティブベースは、「自律・多面性・相互成長・フラット・持続可能」の要素をもったフェアな関係性を大切にしています。
そのため、組織が成長する循環に欠かせない「心理的安全性=心的にフラットであること」を重視し、「対話型会議」「パターンランゲージ」などを取り入れています。
“ナラティブベースはもともとプロジェクトベースで人がアサインされ、チームが上下関係や評価制度を持たない組織のため心的にフラットな状態が作りやすい環境にありました。その分、マネジメントのし辛さやアウトプットクオリティの担保が大変な時期もありましたが、この「フラットであること」を武器に、成果に直結するコミュニケーションのクオリティをどう上げていくかにこだわり続けてきました”
参考:「ゆるい組織」に陥らず、心理的安全性を確保するには|江頭 春可 / ナラティブベース代表
タムラ製作所
タムラ製作所は、不確実で変化の激しい事業環境において一部の管理者だけが意思決定し上意下達で指示を出す従来のやり方ではなく、各現場が柔軟に意思決定・チャレンジして自律的に迅速に対応する必要があるとして「地位や経験に関わらず、組織・チームの誰もが率直に意見を言える」心理的安全性が確保された職場づくりに取り組んでいます。
“2019年より取り組みを開始し、日本国内にて研修、定期サーベイの実施などを行っています。2021年度は、人事評価制度への心理的安全性の概念の導入や360度評価の実施など、管理職層の高いマネジメント力の発揮と従業員が安心して活躍できる環境づくりを期待し、チーム力の発揮に重点を置いた施策を推進しています。さらに2022年4月より、「働きがい改革プロジェクト」の重点施策の一つとして、各事業所からの選抜メンバーによる「心理的安全性浸透チーム」を結成、心理的安全性を各職場で実践し、全社に浸透させる取り組みを行っています”
参考:人権・労働|タムラ製作所
3分でわかる!研修・人材育成用語クイズとは
研修担当者や研修受講者の方々が「そういえば、この用語の意味って何だっけ?」と思った際に、短時間で分かりやすく用語の意味を知ることのできるコンテンツ。
それが「3分でわかる!研修・人材育成用語クイズ」です。
用語の意味を理解するに留まらず、その用語を “活きた知識” へと昇華するためのクイズコンテンツをご提供します。
監修者プロフィール

亀井 直人
鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム”2030SDGs”に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。博多駅前”fabbit hakata ekimae”に福岡オフィスを構え、関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。
- 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
- PMP(Project Management Professional)
- NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
- Facebookアカウントはこちら