SDGs14「海の豊かさを守ろう」の企業の取り組み事例・私たちにできること

  • SDGs14「海の豊かさを守ろう」
    持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する(Conserve and sustainably use the oceans, seas and marine resources for sustainable development)

本稿では、このSDGs14の理解を深め、実際に企業が取り組みを進めている事例を知り、私たちにできることを考えていきます。

Contents(目次)

SDGsとは?

SDGs(Sustainable Development Goals|持続可能な開発目標)とは2015年9月の国連サミットで採択された国際目標です。

誰一人取り残さない(leave no one behind)のスローガンのもとに、193か国の国連加盟国が2016年~2030年の15年間でSDGsの17の目標と169のターゲットの達成を目指しています。

SDGsのことについて、詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

SDGsが必要とされる背景と歴史、SDGsの原則。そして、人(私たち一人ひとりの個人)と組織(企業や自治体)がSDGsを自分事として捉えるきっかけとなるような情報をお届けします。

SDGs14「海の豊かさを守ろう」とは?

地球の表面積の7割を占める海。人は広大な海の恵みを受け取る一方で、海の豊かさを脅かす深刻な問題を引き起こしています。

海洋酸性化の問題

気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)の第5次報告書(2013年)では、海洋酸性化が進行する予測を発表しています。

“海洋は人為起源の二酸化炭素の約30%を吸収して、海洋酸性化を引き起こしていると記述、また海洋のPHは工業化初期以降、0.1減少したと発表しています。気候変動は大気中の二酸化炭素の増加を増幅させる形で炭素循環に影響を及ぼす確信度が高いと記述、さらに炭素が取り込まれることで海洋酸性化が進行するだろうと発表しています”

参考:第1WG|IPCC 第5次評価報告書 特設ページ

そして、海洋酸性化が進行することによって、多くの海洋の生態系に深刻な影響を及ぼす怖れがある点が問題視されています。

“海洋酸性化の進行によって食物連鎖の下位に属する植物プランクトンや小さな動物プランクトンが生息、繁殖しにくい環境になると、上位に属する生物にも影響が及ぶ可能性があります。この結果、有用な水産資源の量に左右される水産業や、サンゴ礁等の海洋観光資源に依存する観光業などへの影響も懸念されます”

参考:気象庁|海洋酸性化の知識 海洋酸性化の影響

過剰漁業の問題

「魚離れ」が進む日本をよそに世界の魚の消費量(粗食料ベース:廃棄される部分も含んだ食用魚介類の数量)は増加し続けています。

図:水産庁の開示するデータをもとに作成

1961年と2013年を比べると約2倍に増えているわけですが、もちろん、海洋水産資源には限りがあります。事実、持続可能なレベルで漁獲されている状態の資源の割合は漸減傾向にある言われています。

“昭和49(1974)年には90%の水産資源が適正レベル又はそれ以下のレベルで利用されていましたが、平成29(2017)年にはその割合は66%まで下がってきています。これにより、過剰に漁獲されている状態の資源の割合は、10%から34%まで増加しています。また、世界の資源のうち、適正レベルの上限まで漁獲されている状態の資源は60%、適正レベルまで漁獲されておらず生産量を増大させる余地のある資源は6%に留まっています”

参考:世界の漁業・養殖業生産:水産庁

通常、漁業は魚を獲り過ぎないルールのもとに行われます。しかし、過剰漁獲や乱獲行為とも言われる過剰漁業は「違法・無報告・無規制」のIUU漁業と言われ、国際問題になっています。

※IUU:Illegal, Unreported and Unregulated

海洋ごみ問題

海洋ごみはどこからやって来るのでしょうか。

海洋ごみという名称からは、海に直接捨てられたごみのイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれませんが現実は違います。海洋プラスチックごみの約8割が陸域からの流入となっているのです。街中でポイ捨て・投棄されたプラスチック製品のごみが、雨や風によって排水溝に入り、河川をつたい、海へと流れ出ています。

2016年、世界経済フォーラム(ダボス会議)において、毎年800万トン超ものプラスチックが海に流出していること、そして、2050年までに海洋プラスチックが魚の総重量を超える試算が発表されました。

<ご案内>
海洋ごみ問題に興味の有る方は下記の記事をご覧ください(海洋ごみ問題に関する基礎知識や、企業の取り組み事例ご紹介します)。

SDGs14「海の豊かさを守ろう」のターゲット

14.1|2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。

14.2|2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。

14.3|あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する。

14.4|水産資源を、実現可能な最短期間で少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる最大持続生産量のレベルまで回復させるため、2020年までに、漁獲を効果的に規制し、過剰漁業や違法・無報告・無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を終了し、科学的な管理計画を実施する。

14.5|2020年までに、国内法及び国際法に則り、最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全する。

14.6|開発途上国及び後発開発途上国に対する適切かつ効果的な、特別かつ異なる待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃し、同様の新たな補助金の導入を抑制する。

14.7|2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる。

14.a|海洋の健全性の改善と、開発途上国、特に小島嶼開発途上国および後発開発途上国の開発における海洋生物多様性の寄与向上のために、海洋技術の移転に関するユネスコ政府間海洋学委員会の基準・ガイドラインを勘案しつつ、科学的知識の増進、研究能力の向上、及び海洋技術の移転を行う。

14.b|小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する。

14.c|「我々の求める未来」のパラ158において想起されるとおり、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用のための法的枠組みを規定する海洋法に関する国際連合条約(UNCLOS)に反映されている国際法を実施することにより、海洋及び海洋資源の保全及び持続可能な利用を強化する。

SDGs14「海の豊かさを守ろう」の日本における達成状況

SDGsの達成・進捗状況を知る上では、Sustainable Development Report 2023 のデータが参考になります。

本レポートによると、SDGs14の日本における達成状況は「Major challenges remain(より重要な課題が残る)」、進捗状況は「Stagnating(停滞している)」です。

<SDGs14の達成状況>

  • Dashboards:Major challenges remain
  • Trends:Stagnating

参考:Sustainable Development Report 2023

具体的には、下記の指標において「Major challenges remain」と評価されている状況です。

  • Ocean Health Index: Clean Waters score(海洋健全度指数)
  • Fish caught from overexploited or collapsed stocks(排他的経済水域内での国の総漁獲量のうち、乱獲または崩壊している種で構成される割合)
  • Marine biodiversity threats embodied in imports(輸入品の中における海洋生物多様性の脅威)

SDGs14「海の豊かさを守ろう」の企業の取り組み事例

商船三井

商船三井グループでは、事業による海洋環境及び生態系への影響を認識し、事業活動の場であり世界万人の共有財産である海洋環境及び生物多様性への影響を最小化するための取り組みを積極的に推進しています。

具体的な活動は、環境省主催の「プラスチック・スマート」フォーラムへの参加や国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が行う海洋プラスチック汚染に関わる科学的調査への協力、海洋生態系に対して影響を与えるおそれがある「バラスト水」の処理装置の開発など多岐に渡ります。

参考:海洋環境保全|商船三井

パナソニック

パナソニックは、資源管理や環境・社会にも配慮した持続可能な方法で生産(漁獲・養殖)された水産物「サステナブル・シーフード」の社員食堂導入により、MSCとASC認証の認知拡大、消費者である社員の消費行動の意識変革を促し、周囲への影響拡大を目指すことでSDGS14の目標達成へ貢献していきます。

“当社は約20年にわたり、WWFジャパンとの協業を通じて「海の豊かさを守る」活動を行っています。2018年3月から本社を含む2拠点の社員食堂でMSC及びASC認証を取得した持続可能な水産物(サステナブル・シーフード)をWWFジャパンやサプライヤー企業の協力を得て導入しました。2021年3月時点で、当社社員食堂への導入数は50拠点を超え、他企業にも導入が広がってきています”

参考:『海を守る選択!』サステナブル・シーフードを社員食堂から拡げる – サステナビリティ – パナソニック ホールディングス

プロジェクトデザイン

プロジェクトデザインは海洋ゴミ問題について考えるゲーム型のアクティブラーニング学習教材「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームを開発しています。

“「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームは海洋ゴミ問題について考えるゲーム型のアクティブラーニング学習教材です。小学生高学年から中学生向けの授業でご利用いただけます。海洋ゴミ問題は遠い未来の話ではなく私たちのすぐ身近に迫っています。けれども、このような大きな社会課題を前にすると、自分1人でやれることは小さく感じられ、なかなか行動に移せないものです。本ゲームを通して海洋ゴミ問題を自分事として理解することが、海洋ゴミを減らす行動の第一歩となれば幸いです

参考:「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームとは|株式会社プロジェクトデザイン

ニッスイ

ニッスイでは、同社およびグループ会社が取引した天然魚の実績をもとに資源調査を実施し、天然水産資源の持続的な利用に取り組んでいます。

“世界の水産資源は枯渇化が進んでおり、2022年の国連食糧農業機関(FAO)の報告書によると、世界の海洋水産資源は資源安定状態が7%、満限利用の状態が57%、過剰漁獲状態が36%とされています。水産資源の状態は、海の恵みを受けて事業を営むニッスイグループにとって、中長期的な事業のリスクやチャンスに関わる非常に重要なものであると考えています。

そのため、調達品の資源状況の把握と、対応すべき課題の特定を目的に、ニッスイグループ全体で調達した水産資源状態について調査を行っているほか、グループ全体で持続的な水産資源の利用のための取り組みを推進しています

参考:天然水産資源の持続的な利用|環境|サステナビリティ|ニッスイ

フィッシュ・バイオテック

フィッシュ・バイオテックは、持続可能な「サバの陸上養殖」の研究と開発を行い、発展と普及に貢献するプラットフォームカンパニーです。

“全人工孵化で6世代選抜育種によるトップクラスの種苗からの完全陸上養殖でアニサキスキャリアの心配がなく生で食べることができます。アニサキスを抑制する飼料の開発にも取り組んでいます。私たちの養殖するサバからアニサキスが発見されたことは5年間一度もありません”

参考:FIOTEC|次世代養殖の創造|フィッシュ・バイオテック株式会社

参考情報

本稿ではSDGs14「海の豊かさを守ろう」の事例をお届けしてまいりました。もっと多くの事例を知りたい方、SDGs17の目標単位で様々な事例を知りたい方は下記の記事をご覧ください。

SDGs14「海の豊かさを守ろう」について私たちにできること

3R活動に取り組む

Reduce(リデュース)・Reuse(リユース)・Recycle(リサイクル)の3R活動を推進することにはプラスティックゴミを減らす観点で大きな意味があります。以下に幾つかの取り組み内容をご紹介します(気軽に取り組めるものから小さく始めてみることをお勧めします)。

  • 買い物はエコバックを使う
  • マイ箸・マイスプーンを持参する
  • 外出中に出たゴミは持ち帰る
  • エシカル消費(※)を実践する

※エシカルとは「倫理的な」「道徳的に正しい」という意味を持つ言葉です。エシカル消費とは人や社会、地球環境に配慮した消費行動を指しています。

パートナーシップの輪を広げる

SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」の観点で自分が起点・ハブとなり、自身が所属する会社や団体・地域コミュニティとパートナーシップ(協力関係)を築き、SDGsの取り組みを進める。

これも私たちにできることの一つです。

例えば、私たちプロジェクトデザインでは「SDGsについての理解・実践」を支援するツールとして様々なSDGsゲームをご提供しています。これらのゲームを活用することであなたの所属先やコミュニティでSDGsの取り組みを進めやすくなります。

・参考:SDGsゲーム

SDGsクイズ:「海の豊かさを守ろう」編

【問1】 海洋酸性化の影響とは?

“あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する”

これはSDGs14のターゲット14.3の内容ですが、この「海洋酸性化の影響」を説明する内容として正しいものは次の選択肢のどれでしょうか?

<選択肢>

  • 海洋の二酸化炭素を吸収する能力が低下する
  • 地球温暖化が加速する
  • 海洋生物の成長や繁殖に影響が及ぶ

正解は「全ての選択肢」です。

“海洋酸性化が進むと、海水中の炭酸系の化学的な性質が変化し、そのために海洋の二酸化炭素を吸収する能力が低下すると指摘されています(IPCC, 2013)。海洋が大気から二酸化炭素を吸収する能力が低下すると、大気中に残る二酸化炭素の割合が増えるため地球温暖化が加速することが懸念されています(Raven et al., 2005)。また、海洋が酸性化すると、植物プランクトン、動物プランクトン、サンゴ、貝類や甲殻類など、さまざまな海洋生物の成長や繁殖に影響が及び、海洋の生態系に大きな変化が起きる怖れがあります(IPCC, 2013)”

参考:気象庁|海洋酸性化の知識 海洋酸性化の影響

【問2】小島嶼開発途上国とは

“2030年までに、漁業、水産養殖及び観光の持続可能な管理などを通じ、小島嶼開発途上国及び後発開発途上国の海洋資源の持続的な利用による経済的便益を増大させる”

このSDGs14のターゲット14.7の内容にある「小島嶼開発途上国」に当てはまる国として、正しいものは次の選択肢のどれでしょうか?

<選択肢>

  • 日本
  • シンガポール
  • イギリス
  • ニュージーランド

正解は「シンガポール」です。

小島嶼開発途上国(SIDS:Small Island Developing States)とは、小さな島で国土が構成される開発途上国を指します。小島嶼開発途上国は、地球温暖化による海面上昇の被害を受けやすく、島国固有の問題(少人口・遠隔性・自然災害等)による脆弱性のために持続可能な開発が困難であると言われています。

参考:小島嶼開発途上国(SIDS)|外務省

この記事の著者について​​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

大槻 拓美(おおつき たくみ)

長野県伊那市出身、2001年4月伊那市役所入庁。徴税業務、結婚支援業務、地方創生担業務などを担当。プライベートでは高校生や大学生が地域と関わる活動の支援や、地区の交通安全協会会長を担うなど幅広く地域活動に参加。また、5,000人以上が参画する公務員限定SNSコミュニティ「オンライン市役所」で、LIVE配信 “庁内放送” のパーソナリティを務めた。カードゲームのファシリテーターとして高校や大学、企業などの研修会にも多数登壇。こうした活動を通じてゲーム開発元の (株)プロジェクトデザインの経営理念に共感し、2022年4月に同社へ転職。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームなどのファシリテーターを務める。

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