ブルーカーボンとは何か?その意味と背景、国・自治体・企業の取り組み事例
- 最終更新日:2024-11-22
ブルーカーボンとは何か? その意味と注目される背景、国や自治体、企業のブルーカーボンの取り組み事例を分かりやすくご紹介します。
ブルーカーボンとは
ブルーカーボンとは、藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素を意味する言葉です。2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書の中で命名された言葉として知られています。
ブルーカーボン⽣態系
海草藻場、海藻藻場、干潟や塩性湿地、マングローブ林など生産性の高い豊かな沿岸海域は、ブルーカーボン生態系と呼ばれており、重要なCO2吸収源として注目されています。
ブルーカーボン生態系の種類
・海草藻場(うみくさもば)
海中で花を咲かせ種⼦によって繁殖し、海中で⼀⽣を過ごすアマモなどの海産種⼦植物が生育している場所。
・海藻藻場(かいそうもば)
コンブやワカメ等の胞⼦によって繁殖する藻類が生育している場所。
・干潟(ひがた)
潮の満ち引きによって海面下から現れる砂泥地。海と陸の中間に位置する場所。
・塩性湿地
干潟の陸に近い場所に発達するヨシやシオクグが茂る湿地帯。魚類や鳥類の生息地。
・マングローブ林
熱帯や亜熱帯の河⼝付近など、河川⽔と海⽔が混じりあう汽⽔域(河口付近や海につながる湖沼)に⽣息する樹⽊。
ブルーカーボンとグリーンカーボン
ブルーカーボンは海洋生態系が吸収する炭素(CO2)であるのに対して、グリーンカーボンは森林や山林、熱帯雨林や草原などの陸上生態系が吸収する炭素を指しています。
ブルーカーボン | グリーンカーボン | |
CO2の吸収源 | 海洋生態系(海草藻場や海藻藻場、干潟や塩性湿地、マングローブ林など) | 陸上生態系(森林や山林、熱帯雨林や草原など) |
表. ブルーカーボンとグリーンカーボンの違い
ブルーカーボンが注目される背景
カーボンニュートラルの潮流
2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
カーボンニュートラルが国を挙げてのプロジェクトして位置付けられたことにより、CO2を吸収・貯留するブルーカーボンが注目を浴びています。事実、2021年6月に策定された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中でも、ブルーカーボンに関する積極的な取り組みの意思が明示されています。
“ブルーカーボンについては、2023年度までに海藻藻場によるCO2の吸収・貯留量の計測方法を確立し、国連気候変動枠組条約等への反映を目指すとともに、産・官・学による藻場・干潟の造成・再生・保全の一層の取組を推進する。このことは、沿岸域での生物多様性の回復にも寄与する。また、新たなCO2吸収源として、水素酸化細菌の大量培養技術等の革新的な技術開発を推進する。さらに、海藻や水素酸化細菌の商業利用を進めるとともに、カーボンオフセット制度を利用した収益化を図り、CO2吸収を自律的に推進する”
参考情報のご案内
カーボンニュートラルに関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの基礎知識と企業の取り組み事例・私たちにできることをご紹介します)。
海の生態系の維持(SDGs14のゴール達成への貢献)
「海のゆりかご」とも呼ばれる藻場(海藻が茂る場所)は稚魚の育成場や餌場として水産資源を育む場所です。また、水中の有機物を分解し、栄養塩類や炭酸ガスを吸収し、酸素を供給するなど、海水の浄化に大きな役割を果たしています。
藻場の役割
1.水質の浄化
チッソ・リンの吸収による富栄養化の防止、透明度の増加と懸濁防止、生物の生存に不可欠な酸素の供給
2.生物多様性の維持
多様な生物種の保全(葉上・葉間・海底)、産卵場の提供、幼稚仔の保育場の提供、流れ藻として産卵・保育場を提供、希少生物への餌の提供
3.海岸線の保全(波浪の抑制と底質の安定)
4.環境学習
5.保養(シュノーケリングやダイビング)
参考:藻場の働きと現状|水産庁
このように様々な役割を担っている藻場ですが、高度成長期の沿岸域の開発などによって大幅に減少し、また、海流の変化による水温の上昇、魚類やウニなどによる食害などの原因による磯焼け(藻場が凋落する現象)も問題視されています。
このような状況の中、藻場を回復させるブルーカーボンの取り組みが注目されています。これはSDGsのゴールの14番にある「海の豊かさを守ろう」の実現にも貢献する取り組みと言えるものです(特に、下記の14.2のターゲットの内容に合致します)。
14.2|2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。
参考情報のご案内
SDGs14「海の豊かさを守ろう」に関して興味の有る方は下記の記事をご覧ください(記事ではSDGs14の理解を深め、実際に企業が取り組みを進めている事例を知り、私たちにできることを考えていきます)。
ブルーカーボンに関する国・自治体・企業の取り組み事例
環境省
環境省では、瀬⼾内海をはじめとした閉鎖性海域を中⼼とした⽇本の沿岸域において、⽔質規制等の取り組みのみならず、⽣物多様性や⽣物⽣産性(豊かな漁業資源の確保)に資する藻場・⼲潟等の保全・再⽣・創出に向けた取り組み(⾥海づくり)を推進しています。
特に、令和4年度からは「令和の⾥海づくり」モデル事業として、地域の取り組みを⽀援しています。
“里海(さとうみ)とは、人の暮らしと自然の営みがともにある海辺のこと。海にほどよく人の手や営みが加わることで高い生産性と独自の生態系が生まれ、そこから水産資源など豊かな恵みがもたらされます。 私たちは古くから、海との「ちょうどいい」関係を築き、心豊かな暮らしと文化をはぐくんできました。いま、私たちと里海との関わりが失われつつあります。埋め立てが進んだ海辺からは藻場や干潟が姿を消し、人は海を感じなくなってきました。大きくなった人の営みによって、かつてはちょうどよかったそのバランスが崩れ、海には温暖化や海ごみが影をおとし、その豊かな恵みにかげりが生まれています。里海とともにある心豊かな暮らしを、未来に引き継いでいきませんか”
国土交通省
国土交通省では、温室効果ガス吸収源の拡大によるカーボンニュートラルの実現への貢献や生物多様性による豊かな海の実現を目指し、ブルーカーボンの活用を推進しています。
令和5年度、国土交通省と国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所は、日本の沿岸域における藻場の繁茂面積の推計手法を開発しました。この推計手法に加え、農林水産省が開発した藻場タイプ別の吸収係数も活用して、2022年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量において、藻場による吸収量を合計約35万トンと算定しました。
“国連気候変動枠組条約の締約国は、毎年4月に各国の温室効果ガス排出・吸収量を国連に報告することとなっています。
本年4月の報告において、ブルーカーボン生態系の一つである海草藻場及び海藻藻場による吸収量を我が国として初めて盛り込みました。このうち、海藻藻場については締約国の中で初めて報告したこととなり、世界初の取組になります”
参考:報道発表資料|我が国の沿岸域に生息する海洋植物による二酸化炭素の吸収量(約35万トン)が国連に報告されました~海藻藻場による二酸化炭素の吸収量の報告は世界初~| 国土交通省
福岡県・福岡県ブルーカーボン推進協議会
福岡県では、平成22年(西暦2010年)度より、北九州から糸島に至る筑前海の20地先で、沿海市町と共に、ウニ除去や母藻投入等の漁業者が取り組む藻場保全活動に対して支援を行ってきました。また、藻場保全活動に加え、除去したウニに地元産野菜を餌として与えて養殖し、商品化する取り組みやブルーカーボンのクレジット化も進めています。
そして、令和6年4月にはブルーカーボン創出の取組を幅広い分野で協働するべく「福岡県ブルーカーボン推進協議会」を設立。漁業関係者や九州大学、藻場の保全活動に関心のある地元企業、筑前海沿岸の8市町等が参画し、産学官連携でブルーカーボン創出を推進しています。
鹿島建設
鹿島建設では、同社がメンバーとして活動している「葉山アマモ協議会」が、昨年度に引き続き、Jブルークレジット®を取得したことを発表しています。
“鹿島は、葉山アマモ協議会のメンバーとして、2006年から地域連携による積極的な藻場再生活動を行ってきました。今回は、当社が独自に開発した藻場再生技術の活用を含め、カジメ場、ワカメ場、ヒジキ場で合計49.7t-CO2/年のJブルークレジット取得に貢献しました”
日立製作所
日立製作所では、下水道による豊かな海への貢献と脱炭素への貢献を同時に実現することをめざす「下水道ブルーカーボン構想」を立ち上げ、推進しています。
“大気中のCO2を除去するネガティブエミッション技術活用の新たな施策として「下水道ブルーカーボン構想」を提案し、その実現に向けた取り組みを2022年から行っています。本構想では、下水処理水質制御技術によって栄養塩類の適切な供給管理を実現し、海洋生態系によるCO2吸収・貯留を促進することをめざします”
“光合成によって藻場(海藻が茂る場所)などで海洋生態系に取り込まれた炭素(ブルーカーボン)は、海草や海藻由来の有機物として海底土壌に堆積したり深海に沈降したりするほか、海草や海藻から放出される難分解性の有機炭素として海水中にも蓄積します。ブルーカーボンは数百年~数千年の長期間貯留されるため、CO2に戻るリスクも低いという特長があります。日立は本構想において、ブルーカーボン管理・制御技術を開発中です。対象海域データを管理・評価することで適切な栄養塩類の供給量を設定し、これに見合った下水処理水質制御を行うものです。これにより、ブルーカーボン生態系(海草・海藻藻場など)の維持拡大に寄与することが期待されます”
参考:「下水道展’24東京」と「Hitachi Social Innovation Forum 2024 JAPAN」で、「下水道ブルーカーボン構想」の取り組みを紹介します|日立
日本製鉄
日本製鉄では、「ビバリー®シリーズ」「鉄鋼スラグ水和固化体」「カルシア改質土」などの鉄鋼スラグを活用した海洋利用技術の開発を通して、藻場によるCO2吸収の促進を一層推進し、ブルーカーボンに寄与しています。
“海藻類が失われ海底が不毛となる磯焼け現象の一因とされる鉄分の供給不足解消のため、当社は東京大学との共同研究を通じて鉄分供給資材「ビバリー®ユニット」を開発し、失われた海の藻場再生に取り組んでいます。この技術は森林土壌中で「鉄イオン」と「腐植酸」が結合して生まれる腐植酸鉄を、鉄鋼スラグと廃木材由来の腐植物質を利用して人工的に生成・供給するものです”
ウミトロン
ウミトロンは、玄界灘(日本海)に繋がる海域を持つ宗像市をモデルとして、衛星データを用いた藻場のポテンシャル推計を実施し、衛星データを活用したポテンシャル推計の精度や課題の整理等を行います。
同社は、成長を続ける水産養殖にテクノロジーを用いることで将来人類が直面する食料問題と環境問題の解決に取り組むスタートアップ企業です。シンガポールと日本に拠点を持ち、IoT、衛星リモートセンシング、機械学習をはじめとした技術を用い、持続可能な水産養殖のコンピュータモデルを開発しています。
“福岡県宗像市におけるブルーカーボンに関する重点調査において、衛星画像データ及び教師データを活用し、画像解析することで藻場マップを作成。藻場の有無、藻の種類、面積、CO2吸収量等の推計、藻場マップ作成手順書等の作成を行います。現地調査を不要とした、安価で安定的に二酸化炭素の吸収・固定のポテンシャル量推計を可能とする方法の確立へ貢献します”
監修者プロフィール
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営(マーケティング)を経て、2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
塩原 康太
富山県立富山中部高等学校卒業、新潟大学法学部卒業、東北大学公共政策大学院修了。地元の活性化に貢献したく、富山のインフラ企業にて、購買業務(燃料・資材・土地)、需要想定業務、新サービス拡充などを担当。プライベートでは、地球温暖化防止活動推進委員、地元プロサッカーチームのボランティアなどにも携わる。中堅・中小企業の企業価値向上支援を通した地域活性化に関心もあり、MBA(早稲田大学ビジネススクール)および中小企業診断士を取得。プロジェクトデザインが目指す社会や取組みに共感し、2024年9月に参画。富山県富山市在住。