SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の企業の取り組み事例・私たちにできること

  • SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
    強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る(Build resilient infrastructure, promote inclusive and sustainable industrialization and foster innovation)

本稿では、このSDGs9の理解を深め、実際に企業が取り組みを進めている事例を知り、私たちにできることを考えていきます。

Contents(目次)

SDGsとは?

SDGs(Sustainable Development Goals|持続可能な開発目標)とは2015年9月の国連サミットで採択された国際目標です。

誰一人取り残さない(leave no one behind)のスローガンのもとに、193か国の国連加盟国が2016年~2030年の15年間でSDGsの17の目標と169のターゲットの達成を目指しています。

SDGsのことについて、詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。

SDGsが必要とされる背景と歴史、SDGsの原則。そして、人(私たち一人ひとりの個人)と組織(企業や自治体)がSDGsを自分事として捉えるきっかけとなるような情報をお届けします。

SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とは?

産業と技術革新の基盤をつくることは経済成長に繋がり、その経済成長の過程で多くの社会課題を解決することが可能になります。

“経済成長の過程で、働く人の雇用や収入が増え、教育・医療・交通・エネルギーなどの社会インフラが充実し、生活を豊かにするモノやサービスの普及が加速していくからです。先進国の人々がそうであるように、発展途上国にも経済成長の恩恵を行き渡らせることで、貧困や教育、健康・福祉などの多くの社会課題の解決に貢献することができます”

参考:SDGs8「働きがいも経済成長も」の企業の取り組み事例・私たちにできること|株式会社プロジェクトデザイン

経済成長を実現する上で、SDGs8「働きがいも経済成長も」では雇用や労働の問題を解決することを志向しているのに対して、SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」ではインフラ開発や工業化・イノベーションの促進を志向しています。

工業化と経済成長の関係性

かつて、日本がものづくり(工業・製造業に代表される第二次産業)によって経済成長を果たしてきたように、工業化と経済成長は密接に関係しています。

事実、製造業のGDPに占める付加価値額は国の経済レベルとの相関を示しています。

“製造業のGDPに占める付加価値額を見ると、低所得国の平均は 9%、低位中所得国では 18%、高位中所得国では 26%と、経済レベルの向上にしたがって増加している。経済成長を加速するため、アジアでは基幹産業の確立や高付加価値化のためのイノベーションが求められている一方、アフリカでは製造業付加価値額の全世界に占めるシェアが 1.5%に過ぎずビジネスの創出を経ての第二次産業の出現がまずは必要な状況である”

参考:ゴール 9の達成に向けた JICA の取組方針 

GDPに占める製造業付加価値を高めること(工業化の促進)の重要性は、SDGs9のターゲット9.2の中のグローバル指標で「GDPに占める製造業付加価値の割合及び一人当たり製造業付加価値」が設定されていることからも明らかです。

工業化の促進に欠かすことのできない、インフラ開発

工業化を促進していくには、工場の稼働を支える電力供給のインフラや道路や港湾などの流通のインフラの開発が欠かせません。

そして、多くの開発途上国では電力や水道などの基礎インフラが整備されていないのが現状です(開発途上国にとってのインフラ開発は工業化の文脈以前に、そこに住む人々の暮らしを良くすることにも直結します)。

“世界人口の13%は、依然として現代的電力を利用できません。30億人が薪、石炭、木炭、または動物の排せつ物を調理や暖房に用いています”

参考:持続可能な開発目標(SDGs)- 事実と数字|国連広報センター

“4.35億人が改善されていない給水サービスを利用し、1.44億人は依然として給水サービスのない湧き水や地表水を利用しています”

参考:水道分野の国際協力等|厚生労働省

そして、インフラには強靱さ(レジリエント)が求められます。近年では気候変動に伴う大規模災害が問題視されていますが、そういった災害リスクを考慮した強いインフラ(災害に耐えるインフラ、災害の被害から早期復旧できるインフラ)が必要とされています。

これは日本を含む先進国にとっても大きな課題です(先進国ではインフラは整備されている一方で、水道や道路などの基礎インフラの老朽化が問題視されています)。

技術革新(イノベーション)を支える研究開発従事者

SDGs9では技術革新(イノベーション)についても触れられています。

具体的には、ターゲット9.5の中で「2030年までにイノベーションを促進させることや100万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとする全ての国々の産業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる」と述べられています。

100万人あたりの研究開発従事者数は、世界・人口100万人あたりの研究開発に従事する研究者数ランキング – 世界ランキング(参考)にあるように、国の経済レベルと一定の相関関係にあることが読み取れます。

※ G7・中国・韓国及びロシアのデータに限定されますが、総務省が発表している「 2019年(令和元年)科学技術研究調査結果」も併せてご覧ください(こちらのデータの方が新しいです)。

※企業の研究者数は製造業で多い傾向にあります。

SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」のターゲット​

9.1|全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する。

9.2|包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030年までに各国の状況に応じて雇用及びGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる。

9.3|特に開発途上国における小規模の製造業その他の企業の、安価な資金貸付などの金融サービスやバリューチェーン及び市場への統合へのアクセスを拡大する。

9.4|2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。

9.5|2030年までにイノベーションを促進させることや100万人当たりの研究開発従事者数を大幅に増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとする全ての国々の産業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる。

9.a|アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラ開発を促進する。

9.b|産業の多様化や商品への付加価値創造などに資する政策環境の確保などを通じて、開発途上国の国内における技術開発、研究及びイノベーションを支援する。

9.c|後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020年までに普遍的かつ安価なインターネットアクセスを提供できるよう図る。

SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の日本における達成状況

SDGsの達成・進捗状況を知る上では、Sustainable Development Report 2023 のデータが参考になります。

本レポートによると、SDGs9の日本における達成状況は「SDG achieved(SDGs達成)」、進捗状況は「Moderately improving(適度に改善している)」です。

<SDGs9の達成状況>

  • Dashboards:SDG achieved
  • Trends:Moderately improving

参考:Sustainable Development Report 2023

技術立国と評される日本。その実際は、SDGsの指標の観点でも高く評価されています。

SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の企業の取り組み事例

東日本高速道路(NEXCO東日本)

東日本高速道路(NEXCO東日本)​はODAコンサルティングや海外への技術専門家の派遣などの国際協力の取り組みを通じて世界の道路インフラ開発に貢献しています。

“当社が長年培った高速道路事業の技術やノウハウを活用して開発途上国を対象にODAコンサルティング業務を実施しています。現地省庁への技術協力を目的として、インドでは持続可能な山岳道路開発のための能力強化プロジェクトを、ミャンマーでは道路橋梁維持管理能力強化プロジェクトを行っています”

“開発途上国に(独)国際協力機構(JICA)を通じて高速道路の建設・維持管理に関する技術的な専門家を派遣し、各国の道路諸問題の解決に貢献しています。また、開発途上国の技術者に対し、研修の受入れも行っています”

参考:高速道路事業の海外展開|NEXCO東日本

富士フイルム

富士フイルムでは橋梁やトンネルなどの社会インフラの点検業務をサポートする、社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」を2018年4月に開発しました。

“日本の橋梁やトンネルなどの多くは、1950~60年代の高度成長期に建設されたもので、老朽化が進んでいます。さらに、2012年に発生した中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を契機に、省令で橋梁とトンネルについて「5年に1回の近接目視による点検」が義務付けられました。対象となる橋梁は全国で約70万橋、トンネルは約1万本もあります。しかし、高度な点検技術をもつ専門家の高齢化や人手不足が問題となり、点検関連業界への負担の増加が大きな課題となっています。
富士フイルムはその課題を解決するために、AIを活用したクラウド型の社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」を開発しました。「ひびみっけ」は、富士フイルムが培ってきた医療用画像診断技術を応用したものです。CTスキャンなどのモノクロ画像から、血管だけを自動的に浮かび上がらせる技術を活用して、点検者がデジタルカメラで撮影した画像からコンクリートのひびを検出します。その精度は、髪の毛1本分の幅0.1mmという微細なひびも見つけるほど”

参考:What’s this?:先進の「画像解析AI技術」で社会インフラと人の生活を守る。|Future CLIP/富士フイルム

Whole Earth Foundation

Whole Earth Foundationは、市民でも気軽にインフラの状態を投稿できる、位置ゲーム×社会貢献アプリ「鉄とコンクリートの守り人」をリリース。定期的に「マンホール聖戦」というイベントの開催を通じてインフラを守っています。

“わたしたちは、エコバッグを使い、プラ製品を排除し、電気自動車に乗る。それが今流行のSDGsだと思い込まされている。でも、それだけで地球環境は守れない。人の暮らしは維持できない。自然だけじゃない、人が作り出したインフラすべても地球そのもの。空が澄み渡り、緑があふれ、海が浄化されるのと同じように、地球上のインフラを整備してこそ、地球は守られ、人の暮らしは豊かになっていく。インフラを、市民の手で進化させる。まさに自然環境と同じように浄化し更新していく。市民の手によって、インフラという、もうひとつの地球環境を守る。まずは、日本のマンホールだ。マンホールも、まさに地球そのものなんだ。さあ、ゲームのはじまりだ”

参考:ホール・アース・ファウンデーション

三井不動産

三井不動産では、イノベーションを促進させる様々な取り組みを通じてSDGs9の目標達成に貢献しています。

  <三井不動産グループの取り組み内容>

  • 31VENTURES等によるベンチャー企業の育成支援
  • TXアントレプレナーパートナーズへの参画
  • 柏の葉オープンイノベーションラボ(KOIL)
  • Tokyo Midtown Awardの開催

参考:SDGsへの取り組み事例|ESG/サステナビリティ|三井不動産

トヨタ自動車

トヨタ自動車では、一過性ではない持続的な復興支援に取り組んでいます。

“2011年の震災直後、トヨタはひとつの大きな決断をしました。それは東北を、中部、九州に次ぐ第3の国内生産拠点にするというもの。震災から4カ月後にはトヨタ車の生産を請け負う3社を合併して「トヨタ自動車東日本」を設立。2年後には人材育成のための学校を東北に開校しました。

その結果、年間出荷額は300億円(2011年)から8,000億円(2019年)に拡大。従業員数は4,500人(2019年)となり、関係仕入れ先やその従業員数も着実に増えています。東北の地に継続したモノづくりを根付かせ、一過性では終わらない持続的な復興支援を目指すトヨタにとって、現状はまだまだ通過点。日本の未来をリードする拠点を目指し、さらに取り組みを進めます”

参考:SDGsへの取り組み |サステナビリティ|トヨタ自動車株式会社

参考情報

本稿ではSDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の事例をお届けしてまいりました。より多くの事例・SDGs17の目標単位で様々な事例を知りたい方は下記の記事をご覧ください。

SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」について私たちにできること

募金・寄付をする

日々の生活に余裕のある人は、募金や寄付をすることで開発途上国のインフラ開発(災害の復興支援なども含む)に貢献することができます。

  • JICA(独立行政法人国際協力機構)
    「世界の人びとのためのJICA基金」では、日本国内の特定非営利活動法人もしくは公益法人が実施する開発途上国・地域の人びとの貧困削減や生活改善・向上に貢献する活動の支援に、寄附金を役立てています。

パートナーシップの輪を広げる

SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」の観点で自分が起点・ハブとなり、自身が所属する会社や団体・地域コミュニティとパートナーシップ(協力関係)を築き、SDGsの取り組みを進める。

これも私たちにできることの一つです。

例えば、私たちプロジェクトデザインでは「SDGsについての理解・実践」を支援するツールとして様々なSDGsゲームをご提供しています。これらのゲームを活用することであなたの所属先やコミュニティでSDGsの取り組みを進めやすくなります。

・参考:SDGsゲーム

SDGsクイズ:「産業と技術革新の基盤をつくろう」編

【問1】 強靱(レジリエント)の意味

“全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために、地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発する”

これはSDGs9のターゲット1の内容です。文中にある「強靱(レジリエント)」の意味として適切なものは次の選択肢のどれでしょうか?

<選択肢>

  • しなやかで強い
  • 屈強で頼りがいがある
  • 強くてたくましい

正解は「しなやかで強い」です。他にも「弾力のある」「回復力がある」などの意味も含まれています。まさに “竹” のイメージですね。

近年では、個人や組織における「レジリエンス」が重要であると言われていますが、この場合のレジリエンスは「適応力」を指しています。

【問2】アフリカのインターネット普及率

“後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020年までに普遍的かつ安価なインターネットアクセスを提供できるよう図る”

これはSDGs9のターゲットc の内容です。ここで問題です。後発開発途上国が多いアフリカにおけるインターネット普及率の変化として正しいものは次の選択肢のどれでしょうか?

<選択肢>

  • 2.1%(2005年)→6.1%(2018年)
  • 2.1%(2005年)→12.2%(2018年)
  • 2.1%(2005年)→24.4%(2018年)
  • 2.1%(2005年)→36.6%(2018年)
  • 2.1%(2005年)→48.8%(2018年)

正解は「2.1%(2005年)→24.4%(2018年)」です。

“2018年12月に公表されたITU(国際電気通信連合)の調査によれば、世界人口の約51.2%に相当する約39億人の人々が2018年内にインターネットを使用することになるという。世界のインターネット(人口)普及率は発展途上国において2005年の7.7%から2018年には45.3%に達すると予測され、途上国における普及拡大により、初めて世界人口の半数以上がオンラインに接続される状況となった。地域別に見ると、アフリカではインターネット普及率が2005年の2.1%から2018年には24.4%に増加しており、最も急速に普及が拡大している。一方、先進国の普及率は緩やかに増加しており、2005年の51.3%から2018年末には80.9%となった。また、アラブ諸国では2018年に54.7%、アジア太平洋地域では47%にまで普及率が増加している。なお、欧州では79.6%、米州では69.6%と普及率自体は高水準であるが、その成長は停滞しているとされる”

参考:アーカイブ|ICTグローバルトレンド|マルチメディア振興センター

この記事の著者について​​

執筆者プロフィール​

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

亀井 直人

鳥取県立鳥取東高等学校卒業、福岡工業大学情報工学部情報通信工学科卒業。SE(インフラエンジニア)として長く経験を積む。プロジェクト遂行におけるチームのパフォーマンスを引き出すためにファシリテーション技術の習得・実践を続ける。特定非営利活動法人日本ファシリテーション協会では役員(2016年~2021年理事、2019年~2021年副会長)を務める。富士ゼロックス福岡在籍中にSDGsとビジネスゲーム「2030SDGs」に出会う。ビジネスゲームが持つ力の素晴らしさに触れ、2020年に研修部マネージャーとしてプロジェクトデザインに合流する。活動を通じて関わり合う方々との対話を楽しみにしている。鳥取県鳥取市出身。蟹と麦チョコが大好き。

  • 経済産業省認定情報セキュリティスペシャリスト
  • PMP(Project Management Professional)
  • NPO法人 SDGs Association 熊本 監事
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