服の「履歴書」から読み解く、私たちとファッション、地球環境との意外なつながり

私たちは、普段何も気にせずにお気に入りの服を着用しているわけですが、その服が私たちの手元に届くまでの旅路に思いを馳せたことはありますか?

服の原材料となる綿花はどの場所で育ち、どうやって生地になり、どんな輸送ルートで貴方の手元に届いたのか。そして、服を洗濯する際に何が起きているのか。服に「履歴書」があるならば、そこには驚くべき移動距離と私たちが普段意識することのない見えないコストがびっしりと書き込まれているはずです。

今回は、そんな服の「履歴書」を読み解きながら、製造から廃棄まで、私たちとファッション、そして地球環境の意外なつながりについて考えてみたいと思います。

Contents(目次)

服をつくるだけで環境負荷がかかる?

服が私たちの手元に届くまでの旅路の話をする前に、まずは工場で「服が生まれる瞬間」に目を向けてみましょう。

みなさんは、服が1着作られるときに、どれくらいの環境負荷がかかっているか想像できますか? 私自身も詳しくはないので情報を調べてみました。環境省の調査[1]によると、服1着を製造する際に排出されるCO2の量は、推計約25.5kg。たった1枚の服を作るために、これほど多くのCO2が排出されています。

さらに驚くべきは「水」の消費量です。

服1着を作るのに必要な水の量は約2,300リットルと言われています。これは一般的な家庭の浴槽(約200リットル)に換算すると約11杯分以上。私たちが飲み水や生活用水として大切に使っている水が、服をつくるために大量に飲み込まれています。

そして、その水はただ使われるだけではありません。 生地を鮮やかに染め上げる染色・仕上げの工程は大量の化学物質やエネルギーを使用するため、環境負荷の大きなホットスポットとなっています。世界中で工場から排出される産業排水の約20%が繊維産業によるものだ!そんな指摘もあるほど、色鮮やかなファッションの裏側には水質汚染という重い代償が潜んでいます[2]。

ここまでの話を踏まえて、「どのような素材なら環境に良いの?」と疑問に思われる方もいるかもしれません。しかし、環境に優しい素材については非常に悩ましいジレンマがあります。

例えば、天然素材の代表であるコットン(綿)。肌触りが良くナチュラルなイメージがありますが、実は栽培時に大量の水を消費します。さらに、世界の耕地面積のわずか2.5%でしか栽培されていないにも関わらず、世界で使用される殺虫剤の約16%、農薬の約4%が綿花栽培に使われているというデータもあります[3]。

一方、速乾性に優れ安価なポリエステルなどの合成繊維は、水の使用量は比較的少ないものの、原料は石油などの化石燃料です。製造プロセスでのエネルギー消費が大きく、CO2排出や資源枯渇の要因となっています。「天然なら安心」「化学繊維だからダメ」と単純に割り切れないのが、素材選びの難しいところだと感じます。

【余談】衝撃の数字:世界のCO2の4%〜8%

国連環境計画(UNEP)調査によると、アパレル・繊維産業は、毎年世界全体の排出量の2%から8%に相当する温室効果ガスを排出していると推計されています [4]。

これは、フランス・ドイツ・イギリスの3カ国の温室効果ガスの排出量を合わせた量に匹敵する、と言われると、その規模の大きさが伝わるでしょうか。

さらに、最新のデータ(2023年)では、アパレルセクターからの年間排出量は9億4400万トン(0.944Gt)に達しており、減少するどころか、残念ながら増加傾向にあるのが現実です[5]。

空を飛ぶ服、海を渡る服

服がつくられた後、私たちの手元に届くまでの「移動」も大きな環境負荷のひとつです。

多くのブランドでは、一般的にコストを抑えるために船便(海上輸送)を利用しますが、近年、ファストファッションの流行や在庫管理のスピード化に伴い、航空輸送への依存が高まっているという指摘があります[6]。

実は、航空輸送は海上輸送に比べて、単位あたりのCO2排出量が遥かに大きくなります。

「今すぐ欲しい!」という私たちのニーズに応えるために、服たちは悠長に船旅をするのではなく、飛行機でビューンと大陸を横断している。私たち消費者が便利さを享受している裏側では、見えない排出ガスが空に積み重なっています。

手元に来てからも続く、見えない放出 〜洗濯機の中の海洋汚染〜

長い旅を終えて手元に届いた服。

ここからが「あなたと服の物語」の始まりですが、同時に「環境への負荷」の新たな章の始まりでもあります。 実は、服は洗うだけで環境に影響を与えていることをご存じでしょうか?

近年、海洋汚染の原因として問題視されているマイクロプラスチック。プラスチックごみが波に砕かれて小さくなったものをイメージする方が多いかもしれませんが、実は、世界の海に漂うマイクロプラスチックの約35%は、合成繊維の衣類を洗濯した際に流れ出たもの(マイクロファイバー)だと推定されています[7]。

ポリエステルやアクリルといった化学繊維の服を洗濯機で洗うたびに、目に見えないほど細かい繊維が抜け落ち、それが下水処理場をすり抜けて海へと流れ出していきます。その量は世界全体で年間約50万トンにも及ぶと言われています。

これはなんと、ペットボトル500億本分以上に相当する量です。

「見えない」からこそ厄介

「えっ、私の洗濯が海を汚しているの?」とショックを受ける方もいるかもしれません。

でも、これは決して他人事ではありません。 特にフリースなどの起毛製品は繊維が抜けやすく、洗濯のたびに多くのマイクロプラスチックを排出してしまいます。お気に入りの服を綺麗に洗っているつもりが、知らず知らずのうちに海にプラスチックを流している……。

この「見えなさ」こそが、ファッションと環境問題の難しいところだと感じます。

服との関わり方。私たちができること

服との関わりの中で、私たちにできる環境のためになるアクションは何か?

素材を選ぶ観点では、農薬や化学肥料を使わない有機農法でつくられたオーガニックコットンを選ぶことが、農地の土壌劣化や水質汚染を防ぐことにつながり、生物多様性や土壌の健康を守ることができます。

洗濯の観点では、お湯ではなく冷水で洗う・乾燥機を使わずに自然乾燥することがお勧めです。これだけでCO2排出量を大幅にカットできます(温水での洗濯や乾燥機の使用は、多くの電力を消費します)。服の生地も傷みにくくなるので一石二鳥とも言えます。

その上で、最も効果的で最も簡単なアクションは今持っている服を長く着ることです。購入段階から長く着れそうなデザインや素材を選んだり、リペア(修繕)やリメイクを楽しむのも良いことだと思います。

環境負荷の低い素材を選んだとしても、大量購入したり短期間で廃棄してしまっては効果が限定的です。もし、私たちが服を着る期間を現在の2倍に延ばすことができれば、ファッション業界から排出される温室効果ガスを約44%も削減できるという試算があります。

ここで私たち消費者のできることから、企業の取り組みへと視点を変えてみると、例えば伊藤忠ファッションシステム株式会社が京都大学と一緒に行った研究では、専用の洗濯ネットを使用することで洗濯排水に含まれるマイクロプラスチックの量を85%以上も削減できることが確認されています[8]。

「化学繊維の服は洗濯ネットに入れる」。たったこれだけで、生地の傷みも減り、マイクロプラスチックの海への流出を劇的に減らせるのであれば、ぜひ普及してほしいですね。

私たちの「服の選択」が環境を守る

服の「履歴書」を読んでみると、そこには「製造」での大量の水とCO2、「移動」での長い旅路、そして私たちの「洗濯」から海へと続く物語が書かれていました。

大量生産・大量消費のシステムを変えるのは、企業だけの責任ではありません。私たち消費者が「どう選び、どう洗い、どう長く付き合うか」という選択の一つひとつがアパレル企業や商社を動かし、最終的に、この長い物語の結末をハッピーエンドに変える力を持っています。

お気に入りの一着を、大切に着る。

そんな小さな優しさが、巡り巡って地球の裏側の環境を守ることにつながっている。そう思うと少しだけ誇らしく感じられませんか?

ご案内

「環境と経済のジレンマ、もっと肌感覚で理解してみたい!」

そう思った方は、ぜひカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を体験してみてください。

ゲーム内の「アパレル事業者」はゴール条件として「資金を増やすこと」を求められます。 従来のビジネスモデルでは、「服の大量生産」を行うことで1着あたりのコストを下げ、利益を最大化するのが定石でした。しかし、これこそが過剰在庫や大量廃棄、そして製造時の環境負荷を生み出す元凶でもあります。

プレイヤーは、環境負荷を減らすために「サステナブル素材の導入」や「綿のリサイクル強化」といったアクションカードを切ることができます。しかし、ここでジレンマが襲いかかります。

  • 環境に優しい綿を使いたいけれど、水不足の地域では栽培が難しいかもしれない
  • リサイクル技術の開発には多額の資金がかかる……
  • コストを度外視して環境配慮型の素材を選べば、利益が圧迫され、ゲームのゴール(資金確保)が遠のいてしまう

そんな「経済と環境の板挟み」を、ゲームの中でリアルに体験することになります。

Scope 3の壁と連携の必要性

さらに、アパレル企業にとって排出量の大部分は、自社以外の場所(原材料調達や使用段階など)から出る「Scope 3(スコープ3)」に潜んでいます。

自社のオフィスで節電するだけでは解決せず、商社や工場、そして消費者である私たちをも巻き込んでビジネスモデル全体を変革しなければ、ゴールであるカーボンニュートラルには到達できません。

ゲームプレイを通じて、プレイヤーたちは次第に気づいていきます。「自分たちだけが頑張ってもダメだ。商社と協力して調達ルートを変え、市民(消費者)に長く着てもらうよう働きかけないと地球(カーボンマップ)が持たない!」ということに。

この組織と個人の協働こそが、現実のファッション産業が直面している最大の課題であり、解決への糸口になります。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の詳細はこちら

また、洗濯による海洋汚染マイクロプラスチック問題のテーマをもう少し掘り下げてみたい方には、海洋ごみ問題に特化したカードゲーム「CHANGE FOR THE BLUE」もおすすめです。

「便利さ」と「環境」のバランスをどう取るか。自分たちの行動が海にどうつながっているのかを楽しみながらシミュレーションできます。ご興味のある方は、ぜひこちらもチェックしてみてください。

カードゲーム「CHANGE FOR THE BLUE」の詳細はこちら

この記事の著者について

執筆者プロフィール

南原 順(なばら じゅん)

島根県浜田市生まれ。京都大学大学院地球環境学舎修了(修士・環境政策専攻)。2005年より南信州を中心に、市民が出資・参加する自然エネルギー事業の立ち上げ及び運営に携わる。その後、ドイツを拠点に欧州4カ国での太陽光発電プロジェクトの開発・運営を経験。帰国後は日本企業にて国内のメガソーラーの事業企画、開発を行う。2016年にコミュニティエナジー株式会社を設立し、島根県浜田市を拠点に地域主導の自然エネルギー導入の支援を行う。セミナー等での講演や企業・自治体向け職員研修・ワークショップの実績多数。

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