フードマイレージとは何か?私たちにできることと、企業の取り組み事例

フードマイレージ(食料の輸送にかかる環境負荷を数値化した指標)をご存じでしょうか。

日本は、このフードマイレージの数値が極めて高い国として知られています(2001年時点の公表数値で日本は世界1位です)。

日本が多くの食料を輸入に依存していることは周知の事実ではありますが、それがCO2排出などの環境負荷をはじめとする、多くの問題やリスクを生み出しています。

そこで本稿では、フードマイレージの知識を深めることが、食の観点から環境と社会を考えるきっかけになることを願い、フードマイレージを減らすため私たちができることと、企業の取り組み事例をご紹介します。

Contents(目次)

フードマイレージとは何か

フードマイレージとは

フードマイレージとは、食料の輸送にかかる環境負荷を数値化したものです。食料の輸送量と輸送距離を掛け合わせて計算します。

〈計算方法〉
フードマイレージ(単位:t・km)=「食料の総輸送量(t)」×「輸送距離(km)」

<計算例>
10トンのとうもろこしを60km輸送する場合のフードマイレージは、10×60=600t・km(トン・キロメートル)

フードマイレージのメリット

フードマイレージは「食品の輸送量×輸送距離」というシンプルな式で、誰でも簡単に計算できる “わかりやすさ” に大きなメリットがあります。

例えば、スーパーが取り扱っている食材にフードマイレージの数値を表記することで、消費者も「このジャガイモはフードマイレージの値が低いから買ってみようかしら」という具合に、具体的な実践に結びつけることができます。

フードマイレージの値の大きさが意味するもの

フードマイレージの値が高いということは、遠くの産地から多くの食料を輸送していることを意味します。当然ながら、食料の輸送を担うトラックや列車、コンテナ船や飛行機の燃料消費量も多くなり、CO2(二酸化炭素)やNOx(窒素酸化物)などの排出量増加に繋がります。

この食料を輸送するときの地球への環境負荷(環境汚染や地球温暖化への影響)が大きいことが、フードマイレージの数値が大きいことの一番の問題点として挙げられます。

また、「食の安定供給」や「安全性の確保」という面でも、フードマイレージを小さくすることが重要になります。

例えば、自国で十分な食料をまかなえず、遠い国や地域からの輸入に頼ると、その時の世界の情勢(戦争、パンデミック、食糧危機、世界的な干ばつによる不作など)に左右されて、食料の供給が不足または停止するというリスクがあります。

さらに、遠くから食料を運ぼうとする程、食品の移動ルートを辿ることが難しくなり、安全性の問題・リスクが生じます(食品事故や問題があったときに、その食品がどこからきたのか、どこへ行ったのかを調べることが難しくなります)。

フードマイレージを減らすために私たちにできることと、企業の取り組み事例

フードマイレージを減らすためには「企業や自治体」と「消費者」との連携が重要です。

そこで、ここからは私たち消費者がフードマイレージを減らすことにどんな貢献をできるのかの選択肢(私たちにできること)を提示し、かつ、その選択肢を提供している企業や自治体の取り組み事例をご紹介します。

1. 国産の食材を購入する

海外からの輸入品ではなく、国産の食材を優先的に購入することで、私たち消費者もフードマイレージを減らすことに貢献できます。

国産のものを選ぶ人が多くなれば、そのお店は国産の食材を多く扱うようになります。国内で生産された食材を選ぶことで、その生産者や生産された地域を応援することにもなるのです。

また、できれば旬のものを選ぶようにしましょう。旬のものであるほど一番美味しく栄養価が高いだけでなく、ビニールハウス栽培のように多くのエネルギーを使わず、自然の働きを活用しているため、環境にも優しいと言えます。

企業の取り組み事例

・オイシックス【食のサブスクリプションによる環境負荷低減】

オイシックスは、厳選された旬の野菜や有機農産物の宅配サービスを提供しています。

品質の高い安全な野菜を厳選し、国産のものを非常に多く取り扱っています。スーパーに置いてある、海外の安い野菜を買うよりも美味しいだけでなく、フードマイレージを減らすことにも繋がります。

現在は、バイオ燃料を活用した冷蔵車のテスト検証を行うなど、配送車のEV化による温室効果ガスの削減にも取り組んでいる他、

  • できるだけ農薬や化学肥料を使わない
  • できるだけ自然に近い環境で育てられた健全な畜産物のみ取り扱う
  • 合成保存料や合成着色料を一切使用しない
  • 「家庭で食材が余らない」サービスによりフードロスを削減する
  • 植物由来プラスチックによる包装材の環境配慮

など、生産・流通・使用段階を含めたバリューチェーン全体での資源循環の実現に貢献し、持続可能なサプライチェーンの構築を目指しています。

また、オイシックスは、「大地を守る会」と経営を統合しており、食に関する環境問題に向き合い、ビジネスの手法で解決し続けています。

※「大地を守る会」とは
フードマイレージが日本に広まるきっかけとなるフードマイレージキャンペーンを行っている市民団体(NGO)。その後、有機野菜の宅配サービスを行う社会的企業となる。

参考:環境|SUSTAINABILITY|オイシックス・ラ・大地株式会社

2. 地産地消(地元で作られた食材を選んで食べる)

フードマイレージを下げるための最も有効な手段の1つが「地産地消」です。

地産地消とは、その地域で生産した農産物や海産物をその地域で消費しようという意味であり、私たち消費者の誰もが取り組みやすい方法です。

地産地消(なるべくその地域内で消費すること)により、食料の輸送距離を短縮でき、環境負荷を抑えることができます。また、消費者にとっても、新鮮で美味しい農産物や海産物を買うことができる大きなメリットがあります。

その他にも、近くで生産されたものを販売すれば、卸売店などの中間流通を省くことができるので、生産者の収入増加にもつながります。さらに、地域内で生産・消費が循環され、生産者と消費者の交流が増えることで、地域経済、地域全体の活性化にもつながります。

企業の取り組み事例

・コンフォートホテル【地産地消にこだわった朝食メニュー】

全国にコンフォートホテルやコンフォートインを展開するチョイスホテルズジャパンは、無料朝食でホテルのある地域の食材を使った「地産地消メニュー」を提供しています。

コンフォートホテルの無料朝食は “Color your Morning 1日を彩る幸せな朝時間” をコンセプトに多彩なメニューをビュッフェ形式で提供しています。

山形県で採れたラフランス100%ジュースを使ったゼリーや、北海道産のジャガイモ、にんじん、玉ねぎを使用したスープカレー、群馬県の郷土料理おっきりこみなど、その地域ならではの味をホテルで楽しめます。

参考:その土地ならでは!地産地消メニューを無料朝食で提供中|コンフォートホテル

・セブン&アイホールディングス【地域内の生産と消費の循環】

セブンイレブンでは、地域に密着した商品開発や販売を行い、フードマイレージを減らすことに貢献しています。

地域ごとに、地元産食材を地域の工場で製造し、地域のセブンイレブンで販売し、地元のお客さんに買ってもらう。このような循環を意識して地産地消の取り組みが行われています。

また、地域による「食」の違いや特徴を尊重し、おでんのだしなどを使い分け、小麦粉や蕎麦粉を厳選し、麺の太さや形状、食感を商品ごとに変え、地域の食材を使用するなど、地域で親しみのある商品の開発に取り組んでいます。その際も、地域の店舗で働く人や、生産者、行政など多くの人々と連携して一緒に取り組むことで親しみのある味、品質、おいしさが生まれています。

参考:地域に密着した取り組み|セブンイレブン

・富山県【アプリによる地産地消の推進】

「食べトクとやま」は富山県が開発した地産地消を応援する公式アプリです(県産食材の旬の情報や県内の直売所のイベント情報などを発信しています)。

県民に富山県産食材(肉、水産物、野菜など)の消費を促すことで、フードマイレージを減らすことに大きく貢献します。

また、2022年には、このアプリを活用した「富山県地産地消キャンペーン」も行われました。スーパーや農産物直売所で購入した県産食材に貼付されているシールのQRコードを読み込むことでポイントを貯め、県の特産品の中から好きなものを選んで応募し、抽選で当たればもらえるというものです。

地元で作られた食材を選んで食べる地産地消は日々の暮らしの中で取り入れやすい行動です。ライフスタイルに合わせて無理なく、フードマイレージ削減や脱炭素につながる暮らしを実践してみましょう。

参考:食べトクとやま「富山県産品購入ポイント制度」利用アプリ|富山県

ここまでは「企業や自治体」と「消費者」との連携の視点における取り組み事例をご紹介してきました。ここからは、国産の食材を増やす・地産地消を活性化させる・食品輸送の環境負荷を低減させる企業や自治体の取り組み事例をご紹介します。

3. 国内の農業の生産拡大

日本の農業経営体と農業従事者は1950年以降、減少の一途を辿っています。

フードマイレージを減らすためには国内の農業を活性化し、海外からの農産物に負けないように流通量を増やす必要がある。そのような背景もあり、近年では農業改革が進められ、農林水産物・食品の輸出額や農業所得が増加しています。

しかしながら、日本の農業を支える農業従事者は年々高齢化し、今後一層の減少が見込まれています。

フードマイレージを減らして環境をよくするだけでなく、日本の農業を持続可能にするためには、国内の農業の生産拡大が必要であり、その手段として、ロボットやAI、IoTなどの先端技術を活用した「スマート農業」が推進されています。

例えば、農薬散布などの重労働を担う自動飛行ドローンや、作物の自動収穫ロボット、箱詰めや荷物を運搬するロボットなど、人間の行う作業を肩代わりする様々なロボットを組み合わせることで、省力化・生産拡大を図ることができます。

参考:農業を取り巻く情勢|経済産業省事務局

企業の取り組み事例

・クボタ【農業用ドローンによるスマート農業】

大手農機メーカーのクボタでは、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を目指す「スマート農業」の普及に取り組んでいます。

例えば、自動運転・無人化農機を開発し、トラクタ・田植え機・コンバインの3種においてGPS搭載農機を製品化しました。労働力の減少や高齢化といった課題を克服し、最小限の労働負荷で精密な作業をできるように研究開発を進めています。

さらに、同社ではKSAS(Kubota Smart Agri System)のサービスを開始。様々なデータを活用し農業経営を「見える化」する本サービスは6000軒を超える農家の経営をサポートしています(作業効率の改善や施肥量などのコスト削減、利益の最大化などに貢献しています)。

参考:クボタのスマート農業|株式会社クボタ

4. 自給率の高いものに置き換える

フードマイレージを下げるためには海外の輸入に頼っている小麦粉を、自給率の高い米へと置き換えるなどの取り組みも有効です。

例えば、地域で生産されたお米を使い、米粉パンとして学校給食に提供する取り組みは、地元産の米の消費拡大が進むだけでなく、子どもたちに食育を推進することや地域へ愛着を持つことにも繋がります。

参考:米の消費拡大について|農林水産省

企業の取り組み事例

・Eco&Art【国産大豆のコーヒーや、米粉で作った豆乳おからクッキー】

SDGsに取り組む Eco&Art は、環境や体に優しく、おいしくて毎日続けられる商品を開発するブランドです。環境に配慮しながら、できるだけオーガニックかつ純国産のものを取り扱っているのでどの商品もフードマイレージの低いものになります。

「太陽光パネルの下で育った大豆コーヒー」は、太陽光パネルの下で発電しながら育てたオーガニックな国産大豆を使用しているコーヒーです。また、この農作業では障害者の方と協働してコーヒーに仕立てています。

「米粉で作った豆乳おからクッキー」は、全て国産原材料を使用し、純植物性・グルテンフリーのクッキーです。外国産の小麦に頼ることなく、国産の大豆でクッキーを作っているので、これもフードマイレージを小さくすることに繋がります。

他にも、生姜汁を生産する過程で残ってしまう、生姜の繊維を使用して生姜クッキーを作るなど食品ロス問題にも取り組んでいます。

参考:Eco&Art

・山崎製パン【自給率の高い米粉を積極的に使用したパン作り】

大手のパンメーカーである山崎製パンは、長年にわたって地産地消や米粉の利用に積極的に取り組んでいます。それは、日本各地で地域の米を、地域内の工場で米粉にして、パンを作り、その地域で販売するという取り組みです。

  • 岡山県 県産米粉を使用した「ふんわりもちコッペ」4種
  • 宮城県「だて正夢(宮城県産ブランド米)米粉入り食パン」など
  • 新潟県 県産コシヒカリを使用した「米粉入り黒ごまマーブルパン」など
  • 愛知県 県産米粉を使用した「三河の米粉入りパン」
  • 熊本県 県産米粉を使用した「米粉入り高菜パン」

このように、日本全国の多くの地域で米粉パンの開発・販売を行っています。米粉を使うことで、もちもちとした食感を味わうことができます。小麦粉から作られたパンと比べると水分含有量が高く、腹持ちが良いのも特徴です。

新型コロナウイルスの影響で米の需要が落ち込み、農家や経済に影響が広がる中、大手パンメーカーとして米の消費拡大に前向きに取り組んでいるようです。

参考:米粉パン定番化へ 新潟県産玄米粉普及挑戦も|NHK

5. モーダルシフト(環境にやさしい輸送手段への転換)

フードマイレージを減らすことに直接貢献はできませんが、環境により優しい方法を求めるのであれば、モーダルシフト(環境にやさしい輸送手段へ転換する方法)もあります。

フードマイレージは【食料輸送量×輸送距離】であるので、環境負荷を測る際には輸送手段による燃費の差は考慮されていません。フードマイレージの数値が同じでも、飛行機で輸送する場合と船で輸送する場合では、排出される二酸化炭素の量は何十倍もの差があります。

より環境に優しい「食」社会を目指すのであれば、輸送手段をより環境負荷の少ない方法に転換させる必要があります。例えば、トラックなどの貨物車ではなく、より環境負荷の少ない鉄道や船舶を利用するということです。

参考:物流 モーダルシフトとは|国土交通省

企業の取り組み事例

・キューピー【モーダルシフト:輸送の効率化によるCO2排出量の削減】

キューピーは、モーダルシフトに積極的に取り組み、商品の配送や原料の輸送でも効率化を図っています。

2018年には、九州〜関西〜関東のトラック輸送を鉄道へと切り替えることでドライバー労働時間やCO2排出量の大幅な削減を実現。鉄道輸送の強みである定時運行により、渋滞・通行止めなどに左右されず予定通りに納品されるため、倉庫業務の生産性の向上にも繋がっています。

また、JPR・キューピー・サンスターという3社で業種を超えた共同輸送も行っています(※)。これまで各社が個別にトラックで陸送していましたが、船舶の共同輸送に切り替え、62%ものCO2削減を達成しています。

※具体的には、往路はキューピーとサンスターの荷物を混載し、復路はJPRの荷物を積載することで高い積載率とコンテナ空間を有効活用し、輸送効率を高めています。

参考:キューピー、サンスター、日本パレットレンタルの3社による共同輸送を開始します|キューピー

・日立物流【モーダルシフト:輸送の効率化によるCO2排出量の削減】

日立物流は、環境負荷の低減とドライバー不足・労働環境改善に貢献するモーダルシフトを実現しています。

これまで、関東〜九州間における製品輸送は長距離トラックで行っていましたが、日立物流のグループ会社である株式会社バンテックが行う、自動車部品輸送の復路を利用したトレーラと船による輸送へのモーダルシフトを行いました。

トラックからトレーラへの車格変更によって積みきれなくなる貨物は港近隣のデポへ持ち込み、他の貨物と混載輸送することで、日々の物量に応じた柔軟な対応ができるようになり、全貨物のモーダルシフトを達成しました。

日立物流は、このモーダルシフトの取り組みにより、一般社団法人日本物流団体連合会が主催する「令和4年度モーダルシフト取り組み優良事業者賞」を受賞しています。

参考:「令和4年度モーダルシフト取り組み優良事業者賞」を受賞|ロジスティード

フードマイレージの基礎知識

フードマイレージの起源

フードマイレージの起源は、イギリスにおける「Food Miles運動」です。

※Food Miles運動とは、フードマイル(食料の量×輸送距離)を意識し、なるべく地域内で生産された食料を消費することで環境負荷を低減させていこうという市民運動です。

2001年、日本でも「Food Miles運動」の考え方を参考にして、フードマイレージ指標が開発されました(「Food Miles」の訳語として、日本に馴染みのあった「マイレージ」という言葉が採用されました)。

日本のフードマイレージが大きい3つの理由

1. 食料自給率が低い

食料自給率とは「国内で食べている全ての食料のうち、どのくらいがその国内で生産されているか」の割合を意味します。

日本の食料自給率(カロリーベース)は、1965年の70%から、2019年には38%まで低下し、62%を海外からの輸入に頼っている状況です(その背景には、安価な外国産の畜産物の進出や日本の国土面積の問題などが絡んでいます)。

同年のカナダの食料自給率が255%、オーストラリアが233%、アメリカが131%という数値を比較すると、日本の食料自給率はかなり低いことがわかります。

※アメリカやオーストラリアなどの食料自給率が高い国では、広大な土地を生かした大規模農業が行われていることが多く、効率的にたくさんの量の農産物を生産できます。ゆえに、価格競争力の強い畜産物の輸出が活性化しています。

現在の日本は、国民の食生活を支えるためにも、他国からの輸入に頼る必要がありますが、異常気象や家畜伝染病の流行、政情不安などのさまざまな要因によって輸出元の生産量が大幅に減少すると、農作物や畜産物の輸出が制限される可能性があります(同時に品薄による価格高騰のリスクも考えられます)。

このように、食料自給率が低いとフードマイレージが大きくなり環境負荷が大きくなるだけでなく、食料の調達において多くのリスクを抱えることになります。

2. 輸送距離が長くなりやすい

日本は島国であり、食糧を輸入する場合は船や飛行機による長距離輸送が必要になり、必然的にフードマイレージの値が大きくなります。

※生鮮食品の多くは船による輸送ですが、「いちご」や「ぶどう」などの高単価品目や鮮度維持が必要な食品については(輸送期間が短い)航空輸送が行われます。

3. 食の欧米化

日本では、戦前は米や野菜などを使った食事が中心でしたが、戦後の復興に伴い、食の欧米化が進みました。

食の欧米化とは、米や野菜の消費が減り、肉やバターなど動物性タンパク質からなる食品や、パン、パスタ、揚げ物などの消費量が増加することを指します。これらの食品のほとんどは小麦粉や大豆・菜種などの輸入食材を使って作られています。

つまり、日本人が日本の伝統的な食から離れること(食の欧米化が進むこと)が、食材を大量に輸入することに繋がっている側面があります。

フードマイレージ活用時の留意点

1. 輸送機関によって環境負荷が異なる

フードマイレージでは「輸送手段による燃費の差」が考慮されていません。

同じ量の農産物を、同じ距離で輸送する場合でも、船と大型トラックでは輸送に伴うエネルギーが大きく異なります(船は小さく、トラックはかなり大きくなります)。

同じフードマイレージの値でも、輸送手段によって環境負荷が異なる以上は、フードマイレージの大きさ=二酸化炭素排出量の多さではないことに留意する必要があります。

2. フードマイレージは「輸送」に限定した指標に過ぎない

フードマイレージは「輸送段階」にしか着目していません。

つまり、食料のライフサイクルの上流にある生産段階や、下流にある消費や廃棄・リサイクルの環境負荷が考慮されていないことに留意する必要があります。

例えば、

  1. 肥沃な土地で自然の力を主として生産された食品を、船で輸入する場合(粗放農業)
  2. 国内で、資本や労働力を大量投下して集約的に生産する場合(集約農業)

この1と2を比較すると、フードマイレージの値は輸入する1の方が大きくなりますが、2は生産段階で大きな環境負荷がかかっているため、総合的な環境負荷は1の方が小さくなる可能性があります。

このような経緯から、近年では食料のライフサイクル全体を通じた二酸化炭素排出量を表す「カーボン・フットプリント」という指標が主流となりつつあります。

3. 環境負荷の問題は食料にとどまらない

フードマイレージでは、食料の輸入における環境負荷に着目していますが、そもそも日本では様々なものを輸入に頼っています。

例えば、日本は海外から輸入される石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料に大きく依存しています。2019年の日本のエネルギー自給率は12.1%で、他の先進国と比べても低い水準です。他にも、衣料品や電子機器なども海外からの輸入量の大きな割合を占めています。

そのため、食料以外でも輸送における環境負荷を見直す必要があるという考えから、フードマイレージではなく、モノ全体を対象とした、汎用性の高い「グッズマイレージ」という指標の必要性も提唱されています。

フードマイレージ以外の【環境負荷の見える化】指標

フードマイレージは環境負荷の見える化の指標ではありますが、あくまでも、食料輸送に着目した指標に過ぎません。実際には、フードマイレージ以外にも、

  • ウッドマイレージ(木材輸送に着目した指標)
  • カーボンフットプリント(商品のライフサイクルに着目した指標)
  • ウォーターフットプリント(水の消費量に着目した指標)

などの環境負荷の見える化の指標があります。

ぜひ、これらの指標も参考にしながら、より良い持続可能な社会について考えを深め、実際に買い物の時などに商品選択のヒントとしてご活用ください。

ウッドマイレージ【木材輸送の環境負荷】

ウッドマイレージとは、フードマイレージの概念を木材に当てて考えられた指標です。

食材の輸送距離を減らすことを目的とするフードマイレージのように、国内・地域で生産された木材を国内で消費することにより、木材を輸送するエネルギーを削減して、環境負荷を減らそうとするものです。

〈計算方法〉
ウッドマイレージ=木材輸送量×輸送距離

日本はウッドマイレージにおいて世界2位の国となっており(かつては世界1位でした)、木材の輸送で二酸化炭素を多く排出しています。現在、日本の木材自給率は約20%程度であり、年々国産木材の自給率は低下しています。この木材自給率の低下の原因は2点挙げられます。

  1. 外国産の価格の安い木材が、価格の高い国産木材に代わって普及している
  2. 林業に携わっていた人々が少子高齢化により減り、後継者が不足している

林業に携わる人が減ることで、森林の維持・管理が成り立たなくなり、森林は荒廃してしまいます。森林が荒廃すると、老木が増加することで森林自体のCO2吸収量が減ることに加えて、保水能力も低下し、土砂崩れなどの原因にもなります。

参考:ウッドマイルズとウッドマイレージ早わかり|森林・林業学習館

ご案内

持続的に森林の価値を守り、子どもから大人まで楽しみながら森林の現状や持続的活用に関して理解できるツールとして、開発されたカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」。

山の所有者、森林組合、猟師、行政職員、住宅メーカー、学校の先生など様々な仕事やゴールを持った10種類のプレイヤーたちが、仕事や生活のアクションを繰り返し、森と私たちの未来が刻々と変化する中で「森の未来」について考えます。

※カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」は産学官民が手を携え、SDGsに関わる様々なアクションを実行する「やまなしSDGsプロジェクト」の活動の一環として企画され、プロジェクトデザインが開発したゲームです。

カーボンフットプリント【商品のライフサイクルの環境負荷】

カーボンフットプリントとは、商品のCO2総排出量を「見える化」したものです。商品の原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出されたCO2排出量を算定し、商品に表示します。

商品は作られてから捨てられるまでの過程で多くのCO2を排出していますが、その事実はあまり知られていません。そこで、カーボンフットプリントという指標を使って、商品のCO2排出量を表示することで、消費者が環境にやさしい商品を選択する際に役立てることができます。

カーボンフットプリントについて詳しく知り方は、下記の記事をご覧ください。

ウォーターフットプリント【水の総消費量による環境負荷】

ウォーターフットプリントとは、食料や製品のライフサイクル(生産から消費、廃棄)を通じて直接的・間接的に消費・汚染される水の量を定量的に測定する指標です。

例えば、ハンバーガーは1個あたり2,400Lもの水が使われていると計算されています(ハンバーガーには牛肉や野菜、小麦など多くの原材料が使われているため、使用される水の総量も多くなります)

近年、世界中で水不足などの環境問題に直面するなか、使用される水の量を定量的に測り、対策を行うためにも、ウォーターフットプリントの考え方は重要であると考えられます。

この記事の著者について

執筆者プロフィール

氷見 優衣

神戸大学国際人間科学部環境共生学科の4年生(2024年時点)。高校生の時に参加したワークショップで体験型のゲームコンテンツを通した社会課題の解決や参加者全員が主体的に生き生きと議論できる「場づくり」に魅せられる中で、体験型ゲームの開発元であるプロジェクトデザインと出会う。2022年の8月より、同社の長期インターンシップに参加。大学で学んでいる知識を活かし、環境問題や社会課題、SDGsをテーマにした記事の執筆に取り組む。ジブリ映画が大好きで、趣味は絵を描くことと、カフェ巡り。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー、株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、地元・富山県にUターン。富山市役所の職員として、環境モデル都市、環境未来都市、SDGs未来都市を担当。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへ。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住、地元・富山県滑川市総合計画審議会委員。

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