カーボンニュートラルを考える ~二酸化炭素排出削減とカーボンリサイクル(CCUS) ~

私たちプロジェクトデザインのカードゲーム「2050カーボンニュートラル」では、カーボンニュートラルの実現という【理想】に向き合う機会を提供しています。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を体験することで、誰もがカーボンニュートラルの実現に向けて「自分にもできることがあるのだ」とエンパワーメントされます。

その一方で、私たちは【現実】にも向き合う必要があります。それはカーボンニュートラルに関する事実を知るということであり、私たちは専門家に依頼して、ブログという形で情報をご提供しています。

参考:カードゲーム「2050カーボンニュートラル」ブログ一覧 

本稿では「エネルギートランジション」をテーマに、全6回に渡り、エネルギーの供給側と消費側のカーボンニュートラルの取り組みをご紹介します。

第1回は「カーボンニュートラルを考える~産油国のカーボンニュートラル政策~」と題し、代表的な産油国であるサウジアラビアのカーボンニュートラルへの取り組みを紹介してまいりました。

第2回は「カーボンニュートラルを考える~日本のエネルギー供給企業のカーボン戦略~」と題し、日本のエネルギートランジションの進め方について解説していきました。

第3回は「カーボンニュートラルを考える ~二酸化炭素排出削減とカーボンリサイクル(CCUS) ~」と題し、日本と海外における二酸化炭素排出削減とカーボンリサイクルに向けての取り組みと課題について解説していきます。

それではどうぞ。

執筆者

有井 哲夫

(一財)JCCP国際石油・ガス・持続可能エネルギー協力機関 上級フェロー
事業構想研究所 客員教授  福井大学客員教授

日本と海外における二酸化炭素排出削減とカーボンリサイクルに向けての取り組みと課題

1. はじめに

第1回・第2回とエネルギー供給のサプライチェーンの観点から、カーボンニュートラルに関して、産油国および日本政府ならびに日本のエネルギー企業の取り組みについて紹介を行った。

エネルギー起源の温室効果ガスは発展途上国を中心に増加傾向にある。カーボンニュートラル社会の実現のためには、再生可能エネルギーの導入と同時に、既存の化石燃料の燃焼により排出される二酸化炭素の削減が重要となる。今回は二酸化炭素の排出削減施策として、カーボンリサイクル、特に合成燃料と化学製品のリサイクルおよび地中貯留についての取り組みを紹介する。

2. エネルギー起源の温室効果ガス

世界の二酸化炭素排出は1990年以降、最近のCOVID-19の影響を除くと一貫して増加傾向にある(図1)。図1の通り、先進国では減少しているにも関わらず、発展途上国では増加している。これは途上国の経済成長に伴うエネルギー消費量増加の影響と考えられる。また世界の二酸化炭素排出量に占める割合は、先進国が約35%であるのに対し、発展途上国は62%と多くなっている。国別では中国・アメリカ・インドが排出量の多い国となっている(図2)。

発展途上国の経済成長とエネルギー消費の関係をデカップリングするためには、二酸化炭素の排出削減の課題をどのように解決するか、具体的に考察を行う必要がある。現時点では、化石燃料は再生可能エネルギーに比して経済性が高い。これは、化石燃料そのものの費用に加えて、供給のインフラストラクチャーが成熟技術であることも一つの理由である。他方、再生可能エネルギーは相対的に高額なインフラ投資、供給費用が必要なケースが多い。

※デカップリング…経済成長を進めながらも温室効果ガスの排出量を削減

図1. エネルギー起源温室効果ガス排出推移

出典:経済産業省(2023)日本のエネルギー 2022

図2. 国別エネルギー起源の温室効果ガス排出

出典:経済産業省(2023)日本のエネルギー 2022

世界のエネルギー起源の温室効果ガス排出量を起源別にみると、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料がその大半を占めている(図3)。COVID-19の影響で一時的に減少したものの、その後増加傾向が継続している。

図3. エネルギー起源の温室効果ガス排出推移

出典:IEA(2023) CO2 Emission in 2022

また、セクター別の排出量は大きい順に、発電・産業・輸送・建物となる(図4)。各セクターによってエネルギーの利用形態が異なることから、排出量削減についても各セクターの特質に整合的なアプローチが必要となる。特に途上国では経済成長に伴い、電力・産業・輸送の規模が拡大していく点に留意する必要がある。

図4. セクター別CO2排出量

出典:IEA(2023) CO2 Emission in 2022

3. 日本の二酸化炭素排出削減政策

日本の温室効果ガス排出量は、2020年度において11.5億トンであり、エネルギー起源の二酸化炭素が全体の84%と高い割合を占めている(図5)。このため、日本政府は2050年のカーボンニュートラル達成に向けてエネルギー需要を電力分野と非電力分野に区分し、電力部門は再生可能エネルギーへの転換を、非電力部門は電化を推進する方針としている。

図5. 日本の温室効果ガス排出構成

出典:経済産業省(2023) エネルギー白書(2022)

このうち再生可能エネルギーによる電化が難しい部門に関しては、二酸化炭素を回収・利用・貯留していく技術、すなわちCCUS(Carbon Capture Utilization and Storage)が重要と位置付けている(図6)。

※CCUS…Carbon Capture Utilization and Storage;CO2の回収・利用・貯留

図6. CCUSの政策位置づけ

出典:経済産業省(2023) CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ説明資料

4. CCUSおよびカーボンリサイクル

(1)カーボンリサイクルの意義

二酸化炭素の排出を減らすには、排出起源である化石燃料を再生可能エネルギーに代替していくことが中心施策となる。他方、燃焼等により発生した二酸化炭素の大気への排出を減らすには、排出二酸化炭素を何らかの製品として再度有効利用するか、地下等に貯留することが考えられる。つまりCCUSは、排気ガス(または大気)中の二酸化炭素を分離し、製品への有効利用(CCU)または地中に貯留(CCS)を図る施策である(図7)。

図7. カーボンリサイクル

出典:経済産業省(2023) カーボンリサイクルロードマップ

図8. カーボンリサイクルの意義

出典:経済産業省(2023) カーボンリサイクルロードマップ

(2)カーボンリサイクル技術

カーボンリサイクルを構成する技術としては、二酸化炭素を分離回収する技術(共通技術)と個々の製品に有効利用する技術がある。また有効利用するためには、二酸化炭素を再生可能エネルギー起源の水素と反応させる必要があるため、水電解水素の製造技術が重要となる(図9)。

図9. カーボンリサイクル技術

出典:経済産業省(2023)カーボンリサイクルロードマップ

有効利用する製品としては、化学品・燃料・鉱物が中心であり、中でも合成燃料および化学品のリサイクルについて紹介する。いずれも現時点では製造コストが高く、長期的な技術開発が課題となっている。政策的なロードマップを図10・図11に示した通り、「2030年代に普及する製品群」と「2040年代に普及する製品群」との2段階での実用化を目標としている。

図10. カーボンリサイクルロードマップ

出典:経済産業省(2023) カーボンリサイクルロードマップ

図11. カーボンリサイクルロードマップ

出典:経済産業省(2023) カーボンリサイクルロードマップ

5. カーボンの有効利用と貯留

本節では、二酸化炭素の代表的な有効利用として合成燃料と化学製品、貯留技術として地中貯留について紹介を行う。

(1)合成燃料

二酸化炭素と再生可能エネルギー起源の水素を反応させて合成燃料を製造する方法としては、下記の3つが主要な方法となる。

  1. メタン製造(メタネーション、サバティエ反応)
  2. 液体燃料(FT合成反応)
  3. メタノール合成

こうした合成燃料を製造するケースは、都市ガスや石油等の既存インフラがそのまま利用できる利点がある(図12)。

図12. 合成燃料の製造

出典:経済産業省(2021)エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは

特に輸送用燃料の場合、重量当たりエネルギー密度と体積当たりエネルギー密度が大きいほどエネルギー効率が良くなる。この観点から、電気エネルギー(リチウムイオン電池に貯蔵)よりも液体燃料のほうが効率が良いことになる。実際、航空燃料については液体燃料の適用が現実的と考えられている(図13)。

他方、太陽光発電をそのまま電力エネルギーとして利用するのに比較して、水電解水素を製造し液体燃料を合成すると、反応によるエネルギー消費により、エネルギー効率が低下する。このように輸送用燃料の二酸化炭素排出の効率的な方法に関しては、今後の技術開発に依存する(図13)。したがって、日本政府は2050年までの技術・政策課題を整理し、2030年から2050年にかけて段階的に各合成燃料を実用化する道筋を描いている(図14)。

図13. エネルギー密度の比較

出典:経済産業省(2021)エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは

図14. カーボンリサイクル燃料の政策目標

出典:経済産業省(2023) 合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 中間とりまとめ(案)

輸送用燃料のうち航空燃料の場合は、前述の重量・体積あたりのエネルギー密度の観点から将来も液体燃料が中心と考えられており、SAF(Sustainable Abiation Fuel)の低炭素化が進められている。現時点では廃食油が中心であるが、欧州では2050年には合成燃料が50%近くを占めると推定されている(図15)。合成燃料の実用化に向けて、世界各国で技術開発が進められている(図16)。

図15. 航空燃料の技術予測

出典:経済産業省(2023) CN燃料普及のあり方

図16. 合成燃料の国際的プロジェクト

出典:経済産業省(2023) CN燃料普及のあり方

(2)化学製品のリサイクル

化学産業は産業別でも鉄鋼産業に次ぐ多くの二酸化炭素を排出している。これは化学工場での製造プロセスにおける排出量を比較したものであり、製品であるプラスチックは2020年時点でマテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルを合わせても24%程度となっており、61%はサーマルリサイクルとして二酸化炭素を排出している(図17)。

図17. 化学産業における二酸化炭素排出

出典:経済産業省(2023) 化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向

化学産業のカーボンニュートラルとして、再生可能エネルギー起源の水素と二酸化炭素およびバイオマス等から合成ガス・メタノール・エタノールを製造し、これを基礎化学品の原料とする将来像を描くことができる。廃プラスチックはガス化・熱分解プロセスにより再生利用が可能となる(図18)。

図18. 化学産業におけるカーボンニュートラル

出典:経済産業省(2023) 化学産業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向

化学産業のカーボンリサイクル実現のためには、技術開発以外にも再生品市場の整備等の政策課題があり、日本政府はそのロードマップを提示している(図19)。

図19. 化学産業の構造転換に向けた道筋

出典:経済産業省(2023) GX実現に向けた基本方針

(3)貯留(CCS)

二酸化炭素の固定の方法として、地中貯留・CCS(Carbon Capture and Storage)がある。図20に示したように、排ガスから二酸化炭素を分離しこれを地中に圧入する。プロセス的には二酸化炭素の分離と地下圧入のエネルギーが必要となる。

図20. CCSのスキーム 

出典:経済産業省(2021)知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」

また、地下に貯留しても漏出しない構造の地層に圧入することが必要であり、このような地層を確保する地域的な制約がある。このため、日本政府はアジア各国と協力してCCUS事業を実現すべくアジアCCUSネットワークを構築して対話を開始した(図21)。

図21. アジアCCUSネットワーク

出典:経済産業省(2023)CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ説明資料

CCS事業は、商業的には二酸化炭素は地中に貯留するだけであるので、経済的に民間事業者だけでは成立しない。したがって、経済的負担を回避するスキームが必要になる。具体的にはカーボンクレジットや何らかの対価を得られるスキームが提案されている(図22)。

図22. CCS実現のためのスキーム案

出典:経済産業省(2023)CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ説明資料

日本政府はこれらの政策課題を整理して、2050年のカーボンニュートラルに向けてCCS事業に関してもロードマップを作成している(図23)。

図23. CCS商用化にむけた政策ロードマップ

出典:経済産業省(2023) CCS長期ロードマップ検討会最終とりまとめ説明資料

(4)カーボンフットプリント(CFP)

カーボンリサイクルを実現する上で、リサイクル工程における二酸化炭素排出に留意する必要がある。

ライフサイクルの観点からは、天然の資源から製品を製造するケースと比較して、再生品を製造するケースの二酸化炭素排出が多くならないように再生品製造プロセスを設計する必要がある。また、製品のライフサイクルを考慮したカーボンフットプリント(CFP)を指標として、消費者が低炭素品を選択できるようにすることも重要となる(図24)。特に再生品に関しては、CFPにおける計算方法とGHGプロトコルにおける計算方法が異なるため、整理が必要となる(図25)。

図24. カーボンフットプリント

出典:経済産業省(2023)サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けた カーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会

図25. GHGプロトコルにおけるスコープ

出典:経済産業省(2023)カーボンリサイクルロードマップ

民間企業が積極的にCFPに取り組むことにより、消費者は低炭素品を選択できるようになる。CFPへ取り組むことが、政府・金融市場・サプライヤー・消費者への訴求力と企業の競争力を高める要素になりつつある(図26)。

図26. 企業がCFPに取り組む意義

出典:経済産業省(2023)サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けた カーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会

日本政府は図27に示すように、CFPの算定・開示に向けてのガイドラインを示し、企業のCFP提示に向けた準備を行っている。ここで重要になるのは、原材料調達から生産(または消費)までの二酸化炭素排出をライフサイクルに沿って積算する点であり、自社のプロセスだけではなく、上流および下流企業のデータを共有することが必要となる。この点については、データの開示方法も含めて慎重な対応が求められる。

また消費者が商品を低炭素の観点で選択する際に、該当企業の上流または下流のプロセスにおける排出量を考慮することで、正確にカーボンニュートラルに貢献することが可能となる。したがって、消費者がカーボンリサイクル製品を検討する場合は、CFPの計算方法の標準化が必要になる。

図27. CFPガイドライン

出典:経済産業省・環境省(2023)カーボンフットプリントガイドライン

5. まとめ

エネルギー起源の二酸化炭素排出量は、発展途上国の経済成長に伴い増加傾向にある。経済成長と低炭素を実現するためには、コスト競争力のある再生可能エネルギーの開発・導入と並行して、既存の化石燃料から排出される二酸化炭素排出量の低減にも取り組む必要がある。この観点からCCUS、すなわち二酸化炭素のリサイクルや貯留は重要な政策手段となる。

特に輸送用燃料に関しては、エネルギー密度(重量および体積当たり)が効率上重要な指標となり、この点で液体燃料に優位性がある。他方、合成燃料に関しては反応に伴うエネルギー変換効率が低いことから、現時点では経済的に高費用であり、実用化に向けて政策ロードマップに沿った技術開発の成否が鍵となる。

また社会のエネルギー転換には、エネルギーインフラへの新たな投資が必要となり、合成燃料は既存インフラを活用する点で優位となる。

二酸化炭素の地中貯留については、費用が高額であるのに比べ、得られる便益は二酸化炭素の排出削減のみであることから、民間企業の取り組みを推進すべく、カーボンクレジット等による投資回収のスキーム整備が検討されている。

第1回で紹介したとおり、産油国は原油から燃料製造に加えて付加価値の高い化学製品製造の比率を増加させている。しかし化学製品の多くは利用および廃棄後、ヒートリサイクルとしても二酸化炭素を排出する。したがって、化学製品のマテリアルリサイクルを実現することが化学製品からの二酸化炭素排出削減に重要となる。

カーボンニュートラル社会の実現のためには、消費者が製品のライフサイクルを考慮した低炭素製品を選択できるようにCFP表示を行う必要がある。そのために計算方法の標準化と、個別企業の枠を超えたデータ共有のルール形成が重要である。

参考文献

ご案内

「エネルギートランジション」をテーマに、全6回に渡り、エネルギーの供給側と消費側のカーボンニュートラルの取り組みをご紹介する連載企画。

第3回は日本と海外における二酸化炭素排出削減とカーボンリサイクルに向けての取り組みと課題について紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?

さて、次回は「資源エネルギー政策と環境政策」についての記事を公開予定ですので、楽しみにお待ちいただければと思います。

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