【先輩ファシリテーターの足跡】想いを育て、DX×GXで広げるリコージャパンの脱炭素経営の伴走支援

私たちプロジェクトデザインが展開するカードゲーム「2050カーボンニュートラル」には、「カーボンニュートラルの実現」という志を共にし、組織の事業活動や個人の日常行動の変革を生み出すべく、カードゲームの力を使いながら日々活動している公認ファシリテーターが全国各地にいます(2025年5月末現在207名)。

公認ファシリテーター…「公認ファシリテーター養成講座」を受講し、修了した方が認定される制度です。公認ファシリテーターとなることで、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を自ら開催することができます。

プロジェクトの始動から、2025年4月で3年。改めて公認ファシリテーターへインタビューし、カードゲームに出会ったきっかけや、養成講座を受講した背景、目指している姿などをお伺いしました。

この記事では、先輩ファシリテーターの足跡(ゲームとの出会い、ファシリテーターになった経緯、今の状況、将来に向けた考え)をご紹介することを通じて、「ゲームの魅力や活用法」「ファシリテーターになったことで生まれる新たな可能性」などの情報をお届けします。

第4回となる本稿では、リコージャパン株式会社(以下、リコージャパン)GX事業部 脱炭素ソリューション企画室の山口 明弘様へのインタビュー内容をお届けします(肩書きは2025年3月に行ったインタビュー当時のものです)。

リコージャパンを含むリコーグループでは、7名の公認ファシリテーターがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を活用した取り組みを進められています。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を組織全体で展開する際の価値と方法について、リコージャパンの具体的な事例を通じて紹介します。これから導入を検討されている方々にとって、実際の活用方法や効果的な進め方が参考になれば幸いです。

お話を伺った方

リコージャパン株式会社 GX事業部 脱炭素ソリューション企画室
山口 明弘様

<企業プロフィール>

1959年創立。リコージャパンは、リコーグループの国内販売会社として全都道府県に支社を設置し、地域密着で、さまざまな業種のお客様の企業価値向上を支援している。リコー製品を中心とした商品・サービスの提供をはじめ、業務改善を含めたコンサルティングからシステム構築・アフターサービスまで、さまざまなソリューションをワンストップで提供している。

「脱炭素社会の実現」に向けて顧客の脱炭素経営を支援し、自社のCO2排出量削減にも取り組む

ーまず、山口様のリコージャパンでの業務内容をお伺いできますか。

山口様:私は、GX事業部 脱炭素ソリューション企画室に所属し、主にリコージャパンにおけるGX事業の本格化に向け、さまざまな事業の立ち上げを進めています。その中でも、お客様の脱炭素経営を伴走する支援事業の立ち上げに注力しています。

脱炭素経営の伴走支援サービスのイメージ

ーカードゲーム「2050カーボンニュートラル」公認ファシリテーター養成講座を7名の方がご受講された背景には、どのようなものがあるのでしょうか。

山口様:リコーグループは、目指すべき持続可能な社会「Three Ps Balance(経済:Prosperity・社会:People・地球環境:Planet)」の実現に向けて「事業を通じた社会課題解決」「経営基盤の強化」「社会貢献」の3つの活動に取り組み、SDGsの達成に貢献していきます。

「事業を通じた社会課題解決」に取り組む中で、マテリアリティ(重要課題)の一つとして「脱炭素社会の実現」を掲げています。

リコーグループの7つのマテリアリティ(「サステナビリティレポート2024」P10より)

山口様:また、リコージャパンでは、2021年度よりサステナビリティ目標を設定し、実績を公開しています。その中で、「脱炭素社会の実現」に向けた具体的な取り組みとして、以下の2つを掲げています。

  • 省エネ製品・脱炭素ソリューションで、お客様の脱炭素に貢献する
  • 自社の電力・ガソリン使用によるCO2排出量を削減する

さらに、リコーグループは環境保全活動と経営活動を一体のものと捉え、自ら責任を持ち、地球環境負荷の削減と再生能力の向上に全グループを挙げて取り組んでいます。

参考:環境経営システム|リコーグループ 企業・IR

参加者自身が考え、学ぶカードゲーム

ー山口様が、「カードゲーム2050カーボンニュートラル」の公認ファシリテーターになられた経緯を教えてください。

山口様:私は以前にカードゲーム「2030SDGs」を受講したことがありまして、カードゲームの魅力や効果を理解していました。

2023年4月に現在の部署に配属され、脱炭素について理解を深めるために良いツールがないかと探していたところ、出会ったのがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。体験会に参加して、「これは本当に優れたツールだ」と確信し、公認ファシリテーター資格の取得を決意しました。

-カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の魅力は、どのような点だと感じていますか。

山口様:座学ではなく、体験型であることが最大の魅力だと感じています。

座学の場合はどうしても受け身の学習になりがちですが、このカードゲームは自分で考え、自ら気づきを得て、最終的に腹落ちする点が大きな特徴です。

私自身は、カードゲームの参加者の皆さんに特別な知識を教えているわけではなく、カードゲームを通じて、参加者自身が考え、学んでいるのです。ファシリテーターである私は、あくまでそのプロセスを補助する役割を果たしているに過ぎません。

-自分で考えて気づけるからこそ、腹落ちする。また、ファシリテーターのスタンスが印象的です。単なる知識の伝達ではなく、参加者の主体性を引き出そうとされる山口様の姿勢が、学びの質を一段と高めているのだと感じます。

社内外の脱炭素意識を高めるために、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」を導入

-カードゲーム「2050カーボンニュートラル」をリコージャパンに導入された目的を教えてもらえますか。

山口様:リコージャパンには社員18,161名(2024年4月1日現在)が在籍しており、これだけの大所帯になると、特に新しい取り組みに対する関心の度合いや意識に温度差が生じることがあります。

そのため、まずは社内で脱炭素への取り組みの重要性を理解してもらう目的で、自部門でお試し実施しながら、社内研修ツールとして活用できるかを評価していきました。

さらに、リコージャパンが「脱炭素経営の伴走支援サービス」を推進していく中で、お客様に脱炭素への取り組みの重要性を認識していただくためのツールとして活用することも、導入目的の一つです。

ー社内で複数名のファシリテーターを育成されるにあたり、予算面でのハードルはありませんでしたか。また、どのような方がファシリテーターになられているのでしょうか。

山口様:公認ファシリテーター養成講座の受講費用は、正直高いと感じました。しかし、カードゲームを使ったワークショップを開催しても都度の利用フィーが発生せず、年間ライセンス費用のみで運用できるため、ランニングコストの観点から考えると導入しやすいと判断しました。

ファシリテーターになっているのは、社内で実施したワークショップに参加したことがきっかけで、「自分もファシリテーターをやってみよう」と自主的に決意した社員ばかりです。

現在、リコージャパンのGX事業部4名、名古屋を拠点とする2名、さらにリコー環境事業開発センターから1名のファシリテーターが誕生しています。このようにファシリテーターになる動きは、リコーグループ全体に広がってきています。


-カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は社内でどのようにご活用いただいているのでしょうか。

山口様:2023年11月にファシリテーター資格を取得し、自分も忘れないよう毎月ワークショップを開催しようと決めてスタートしましたが、はじめは参加者を集めるのにひと苦労でしたね。

ところが開催の様子を社内掲示板にあげ続けたところ、「うちの支社でも実施してほしい」という声が上がり、全国の支社から開催依頼がくるようになりました。現在、リコージャパンの全国48支社の3分の1で実施済みで、約500名が受講しました。

部門長向けや営業向けの研修としても活用しており、特に東京支社では230人以上が受講しています。

社内実施時にはアンケートもお願いしており、「他の人にもこのワークショップを勧めたいですか?」という質問に対して、97%の参加者が「他の人にも勧めたい」と回答しています。

ーありがとうございます。

カードゲームで得た気づきや学びを、営業活動に活かす

ーワークショップでは、どのようなことをお伝えされているのでしょうか。

山口様:ワークショップの冒頭では、なぜ脱炭素は必要なのかはもちろん、リコーグループの取り組みもお伝えしています。

具体的には、RE100(※)実現に向けた取り組み、製品のカーボンフットプリント(CFP)削減、マングローブ植林の取り組み、事業所のゼロエネルギービル(ZEB)化などを紹介しています。

※RE100・・・企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ

最近、ワークショップの運営スライドに「DX(AI)は地球温暖化を加速する」という内容を追加したところ、特に営業メンバーから非常に良い反応があり、会社への理解が一層深まっていると感じます。「自分たちはDXの提案を進めればよい」と考えていた営業メンバーも、DXには地球温暖化を加速する側面があることに気づかされました。

しかし、DXとGXは両輪であり、DXの加速によりGXを支える提案ができることも併せて伝えています。 

DX(AI)は地球温暖化を加速する(ワークショップで使用している運営スライドより)

山口様:カードゲームで使うNEWSカードの中に、「12月の熱帯夜」というカードがありますね。このNEWSカードが出ると、IT事業者が資金マイナス2000Mの影響を受けますが、その場面がまさに「DX(AI)は地球温暖化を加速する」と結びついています。

振り返りでは、NEWSカード「12月の熱帯夜」による影響を社内の状況に置き換えて話すようにしています。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」のNEWSカードの一部

山口様:カードゲームの最後には、「リコーグループだけがCO2排出量削減目標を達成しても、地球温暖化は完全には解決しません。今日から皆さんは伝道師です。周囲の人に脱炭素の取り組みの意義を伝え、皆で取り組みましょう」と伝えています。

さらに、社内研修だけでなく、お客様向けワークショップの開催にも繋がっています。

参考:【イベント開催レポート】何から始めたらいいのか分からない!?カーボンニュートラル! ~リコージャパンの実践事例をもとに”その第一歩“を大公開~

ー社外で実施してみての反応はいかがでしょうか。

山口様:お客様から「とても腹落ちできる。このカードゲームは本当によくできているね」と言われます。それは、ゲーム内の住宅メーカーや部品メーカーなど12の役割が実社会に近いからだと思います。

脱炭素への取り組みは、まだアーリーアダプターの人々が取り組み始めている段階です。また、大企業がサプライチェーン全体のCO2排出量を把握・削減する動きを進めているため、中小企業が取引先からの要請を受けて、やらざるを得なくなって取り組み始めているという状況です。

しかし、脱炭素への取り組みは、経営部門やサステナビリティ部門に限定されがちで、全社的な取り組みにはなかなか至っていません。この課題に直面している組織にとって、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は部門を超えた対話の機会をつくるのに非常に効果的だと感じています。

部門を越えてカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を体験することで、脱炭素の取り組みの重要性を共有し、立場や価値観の違いへの理解が深まります。そうした関係性の構築を通じて協働が生まれると思います。

そのため、今後は地域の営業部門でもファシリテーターを希望する人を増やし、営業担当者が直接お客様にワークショップを実施して、お客様の脱炭素経営の伴走支援に繋げていきたいと考えています。

「想いを育てる」ことで広がる脱炭素の取り組み

ー脱炭素の取り組みを組織全体で進めようとする際、足並みが揃わないこともあるかと思います。そうした状況を乗り越えるためには、どのような方法が考えられるでしょうか。

山口様:私は、トップダウンとボトムアップの両方のアプローチを取り入れています。

脱炭素への取り組みが今後さらに増えることが予想される中、営業部長が賛成していても、営業部のすべてのメンバーが同じように積極的に取り組むとは限りません。そこで、まずは脱炭素へ関心を示すメンバーに成功体験をしてもらい、その結果を周囲に広げていくことに力を入れています。成功事例を共有することで、関心を持つメンバーが増え、組織全体の意識向上につながります。

ボトムアップのアプローチは、長期的に見ても非常に重要です。担当者が自らの想いを営業活動に反映させることで、継続的にお客様への提案につなげることができます。

また、時には担当者が異動することもありますが、その場合でも、培ってきた想いは他のメンバーや営業所に引き継がれ、さらなる広がりを生んでいきます。だからこそ、「想いを育てる」ことが最も大切だと考えています。

組織は一律で進めようとしがちですが、大切なのは「やりたい」と思っている人の想いを育てることであり、その方が、結果的に近道になるのではないかと思っています。

ー全国に支社を持つ大所帯のリコージャパン様が、社員の想いを汲み取り、その想いを起点に「脱炭素社会の実現」という大きな目標に取り組まれているお話を伺うことができました。また、リコージャパン様が得意とされる「DXを活用してGXを加速する」戦略は、日本社会が今後ますます求める視点になると感じました。山口様、ありがとうございました。

公認ファシリテーターになりたい方へ

公認ファシリテーターになるには、まずはカードゲーム「2050カーボンニュートラル」をご体験いただく必要があります(体験会にご参加いただくほか、組織内研修やイベントの場でカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を体験いただく形でもOKです)。

その後、「ファシリテーターになることをご検討の皆さまへ」をご一読いただき、その上でファシリテーターになることを希望される場合は、「体験会/養成講座」のページから養成講座にお申込みいただきますようお願いいたします。

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