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地球温暖化によって、花粉シーズンは「より早く、より長く、より強く?」
- 最終更新日:2026-03-19
皆さんは、春の訪れをどのように感じていますか?
桜の開花を告げるニュースに胸を躍らせる一方で、鼻のムズムズや目のかゆみに悩まされる。そんな方が、今や日本人の約4割に達しています。私自身もその一人であり、この時期は花粉症に苦しんでいます。
「今年も花粉の季節が早まったね」
「温暖化の影響かな」――。
そんな会話を、私たちは何気なく交わしています。確かに気象庁のデータを見れば、日本の平均気温は100年あたり1.40℃の割合で上昇しており、桜の開花も10年あたり1.2日早まっています。しかし、私たちが直面している事態は、単に「春が早まった」「飛散期間が延びた」などのスケジュール調整のような話ではないかもしれません。
今、森の中で起きているのは、人間活動の結果として起こった地球温暖化が、巡り巡って私たちの鼻のムズムズという物理的な攻撃となって跳ね返ってきているという、意外な因果関係なのです。
花粉シーズンは「より早く、より長く、より強く」
私たちが直面している花粉飛散量の増大は単なる季節の変動ではありません。背景にあるのは、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の実質的な上昇が植物に与える生理学的な影響です。
世界的な科学誌『Nature Communications』に掲載された研究によれば、大気中のCO2濃度の上昇は植物の光合成効率を高めるだけでなく、直接的に「花粉生産能力の増大」を引き起こすことが示されています[1]。
同研究よれば、米国を対象とした試算の結果、気候変動の気温と降水量の影響のみで、このままでは世紀末には年間の花粉の総飛散量は16〜40%増加するとされています。さらに、気温上昇に加えてCO2そのものが植物を刺激する効果を含めると飛散量は最大で200%(現在の3倍)にまで跳ね上がるという試算もなされています。
植物にとってCO2は光合成に欠かせない必要不可欠なものですが、人間活動によって増加した大気中のCO2は、樹木にとって栄養過多な状態を作り出していると言えます。人間が栄養を摂りすぎると体質が変わるように、樹木もまた、余分なエネルギーを次世代への種(花粉)作りに振り向けています。そして、CO2濃度の上昇は、花粉の中に含まれるアレルゲン(アレルギー原因物質)となるタンパク質の濃度を高めています。
また、気候変動は花粉の量と質だけではなく、花粉シーズンの期間にも影響を及ぼしています。
地球温暖化に伴う冬の平均気温上昇は休眠打破(樹木が冬眠から覚めるプロセス)を早め、花粉シーズンの早期化を招いています。これにより、かつては1ヶ月程度だったピーク期間が前後に拡大し、私たちの体はより長い期間、花粉(アレルゲン)に曝され続けることになります。
この現象は、実はすでに現実のものとなっており、1990年から2018年までの約30年間のデータを分析した研究によると、北米ではすでに飛散量の増加が起き、花粉の個数や濃度は、この30年間で約21%増加。そして飛散期間の長期化も起きており、シーズンが始まる時期は20日早くなり、飛散日数も8日長くなっているそうです。
上述の内容は米国を対象とした研究ですが、日本ではどうなのでしょうか。
日本における「樹齢」と「猛暑」のダブルパンチ
日本国内に目を向けると、スギ特有の事情が事態をさらに深刻化させています。
スギは樹齢が25〜30年を超えると花粉の生産量が盛んになりますが、現在、日本のスギ人工林の多くが花粉生産の最盛期を迎えています。近年の記録的な猛暑も無視できません。スギの花粉量は前年夏の気象条件に大きく左右されます。「前年夏が暑く、日照時間が長く、雨が少ない」と、翌春の花粉は激増する傾向があります。
将来、CO2濃度がさらに上昇すれば、花粉の生産量が爆発的に増える(量の増大)とともに、個々の花粉のアレルゲンとしての攻撃力も強まる(質の変化)という二重の脅威となって私たちの健康を脅かす恐れがあります。さらにその期間も長期化するかもしれないそうです。
環境省は先日公開された第3次気候変動影響評価報告書[2]のなかで国内の花粉飛散量の増加について以下のようにまとめています。
“海外を対象とした知見:IPCC 第6次評価報告書第2作業部会報告書においては、気候変動により、アレルギー疾患、特にアレルギー性鼻炎とアレルギー性喘息の負担が変化している可能性が予測されている(中略)”
“日本を対象とした知見:花粉症について、花粉飛散量は年次変動を繰り返しながら増加傾向にあり、飛散量増加の要因としては、1970 年以降のスギ人工林の成長に伴い、雄花を付け始めると考えられる20年生以上のスギ林の面積が増加してきていることが考えられる。1987~2021年にかけて日本の9都市を対象とした研究ではスギ・ヒノキの雄花が形成される時期である6~8月の平均気温が増加傾向にあり、翌年の花粉捕集数と正の相関関係があることが報告されている。花粉量は前年の夏の気温や湿度に関連しているが、近年の極端な地球温暖化による気象条件の変化が、翌年の花粉飛散予測に影響を及ぼす可能性がある”
(将来予測される影響)
・花粉症への影響については、気候変動とスギなどの花粉飛散量との関係から将来予測を行った知見は 確認できず、現時点で評価をすることができない。
上記のように、現在の状況では6~8月の平均気温の増加傾向が翌年の花粉飛散料に影響していることが言及されています。これは一人の花粉症持ちとして非常に説得力のある話です。あくまで私の主観的な意見ですが、花粉に苦しむ期間は年々長くなってきている実感と一致します。
一方で、地球温暖化の影響による、将来的な日本国内での花粉症への影響に関しては、存在する研究がないために、確定的なことは現時点では言えないようです。
花粉を減らすには「伐って、使って、植えて、育てる」
政府は、2033年度までに花粉の発生源となるスギ人工林を約2割減少させ、30年後には花粉発生量を半減させるという野心的な目標を掲げています[3]。
これを支えるのが、花粉の少ない苗木への植え替えです。現在、スギ苗木の生産量に占める「花粉の少ない品種」の割合は約5割ですが、これを2033年度までに9割以上に引き上げる計画です。
そして、花粉の少ない品種への切り替え促す鍵となるのが「伐って、使って、植えて、育てる」という森林資源の循環利用です。「樹木を伐採するのか環境破壊ではないか」と思われるかもしれません。しかし、現在の日本における人工林の約5割は樹齢50年を超え、CO2の吸収力がピークを過ぎています。だからこそ、古い木を適切に伐り出し、吸収力の高い「花粉の少ない苗木」へと植え替えることが、カーボンニュートラルと花粉症対策を両立させます。
「かつての当たり前」を現代の技術で取り戻す
かつて日本の暮らしにおいて、木材はあらゆる場面で無駄なく使い尽くされる究極の循環資源でした。建材としての利用はもちろん、細かな枝葉は燃料(薪炭)として、落ち葉は農地の肥料として、さらには製紙原料など、余すところなく地域社会のサイクルに組み込まれていました。
そして戦後、復興期の急激な木材需要に応えるため、国は成長が早く加工しやすいスギの植林を大規模に推進しました。この拡大造林によって誕生した広大な人工林は、エネルギー革命(燃料の化石燃料化)や輸入木材の普及とともに次第に顧みられなくなり、かつての細やかな循環も途絶えてしまいました。
現代の花粉症問題は、この歴史の中で「使われなくなった森」が残した課題とも言えます。
かつての循環を現代にアップデートする鍵は、花粉源となるスギを単に伐るだけでなく、中長期的に社会で使い続ける仕組みにあります。まず注目したいのが、伐り出したスギを建材として活用することです。木は光合成によってCO2を吸収し、炭素として体内に蓄えます。これを建築資材として使えば、木が腐ったり燃えたりしない限り、炭素は建物の中に封じ込められたままになります。これを炭素固定と呼びます。
近年、この炭素固定を劇的に進化させる技術として期待されているのがCLT(直交集成板)です。ひき板を繊維方向が直交するように交互に積み重ねて接着した厚型パネルでコンクリートに匹敵する強度を持ちながら、軽量で断熱性にも優れています。このCLTの登場により、これまで鉄筋コンクリート(RC)造が当たり前だった中高層ビルの木造化が可能になりました[4]。
例えば、住友林業が発表した「W350計画」[5]では、2041年までに高さ350メートルの超高層木造ビルを建設する構想を掲げています。このビル一棟で、なんと約10万トンものCO2を貯蔵できる試算です。こうした木造ビルが増えることは「山にある炭素を、安全な形で都市へと引っ越しさせる」という、カーボンニュートラルの取り組みでもあります。
枝葉まで使い切る「サーキュラーエコノミー」で廃棄物ゼロに
しかし、木材として使えるのは幹の部分だけではありません。
これまでの林業では、建材にならない枝葉や端材は未利用資源として山に残されることが多くありました。これらが分解される際にもCO2は放出されます。この課題を解決するのが、資源を一切無駄にしない、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方です。
例えば、スギの枝葉から精油を抽出して香料や高機能繊維を作る技術や、木材を化学的に加工してプラスチックの代替品となる「改質リグニン」を生み出す研究が進んでいます。さらに、どうしても建材や製品にできない端材などはバイオマス燃料として熱源等に活用されます。
化石燃料の代わりに木のエネルギーを使うことは、大気中のCO2濃度を増やさないカーボンニュートラルな選択でもあります。
経済の力で、花粉が少ない品種への「世代交代」を加速する
最後に、最も重要なのが木の植え替えが経済的に成り立つことです。
林業が産業として自立することで初めて、広大な人工林を管理し、花粉の少ない森へと作り変えるサイクルが回り出します。そのためにも、私たちが木を使う(木質資源の加工品を使う)ことによって木材の需要が拡大し、得られた収益が新たな植林につながることが重要になります。
政府が掲げる「2033年度までに花粉の発生源となるスギ人工林を約2割減少させ、30年後には花粉発生量を半減させる」という野心的な目標の実現も、林業が経済的に成立しなければ絵に書いた餅になってしまうことは言うまでもありません。
花粉症対策の先にある、「多様な森」がもたらすもの
スギやヒノキを「伐って、使って、植えて、育てる」。この循環サイクルを回すことによってもたらされる恩恵は、花粉を減らすことだけに留まりません。
皆さんは、手入れの行き届かないスギ林に入ったことはあるでしょうか。そこは、昼間でも薄暗く、地面には草があまり生えていない「暗い森」です。こうした森では、雨が降ると土壌が直接削られ、土砂崩れのリスクが高まってしまいます。
一方で、樹木の適切な管理と、森の多様な樹種・構造への誘導がなされれば、森林の多面的機能(水源涵養、山地災害防止など)を維持し、豊かな多様性を持つ森を生み出すことができると言われています。
例えば、森林がその機能を発揮するための最も基本的な管理が間伐です。間伐によって混み合った木を間引くと林内に日光が差し込むようになります。これにより、残った木が太く育ち、根を深く広く張ることで、土砂崩れに強い山が作られます。
これは近年の激甚化する豪雨に対する「流域治水」の観点からも極めて重要です。
豊かな下草や腐葉土に覆われた森の土壌は極めて高い保水能力を持っています。こうした森は、降った雨を一時的に蓄え、時間をかけてゆっくりと川へ流す調整機能(水源涵養機能)を果たします。スギの単一林を適切な多様性を持つ森へと戻していくことは、下流で暮らす私たちの街を洪水のリスクから守ることに直結するのです。
また、単一の樹種、同じ高さの木ばかりが並ぶ「育成単層林」から、樹種も年齢も異なる「育成複層林」や「針広混交林」へと変えていくことで、森の生物多様性が高まります。
例えば、上層の木の隙間に下木を育てたり、広葉樹を交じり合わせたりすることで森の垂直構造を多層にします(複層林化)。これにより、異なる環境を好む多様な鳥類や昆虫、微生物などが生息できる環境が整います(林野庁においても、林業生産に適さない場所では伐採後にスギを再植林するのではなく、積極的に広葉樹を導入することが推奨されています)。
私たちは「スギを伐る」ことで、未来を植えることができる
ここまで見てきたように、花粉症という課題は、単なる「季節の悩み」の枠を超えて、私たちの社会が直面するサステナビリティの課題と深く結びついています。
例えば、気候変動とカーボンニュートラルという観点でいえば、古い木を伐り、吸収力の高い若い苗木を植えることで、森林のCO2吸収能力を最大化することができます。そして成長した木々を伐採し、幹は建材に、枝葉は精油やバイオマス燃料にといった形で木質資源として活用することで炭素を長期間固定し、化石燃料の使用による温室効果ガスの排出を抑制することができます。
スギなどを廃棄物ゼロの資源として使い切ることは、サーキュラーエコノミーを構築していく点でも非常に重要です。また、多様な樹種が混ざり合う明るい森を再生することは、森林の多面的な機能を維持し、防災機能を高め、生物多様性を回復させます。
私たちが花粉の少ない森を求めることは、正しく取り組めば、巡り巡って、温暖化を食い止め、災害に強く、多様性の豊かな森と人々の暮らしの安心を取り戻すことに直結すると言えます。
スギやヒノキは、ただの「花粉の元」ではありません。適切に使い切ることで私たちの暮らしを支え、未来の気候を安定させてくれる大切な資源です。私たちが国産材を選び、木とともに暮らすことは、スギやヒノキをその本来の輝かしい役割へと還してあげることでもあります。
私たちが国産スギの家具を選び、木の温もりのある空間で過ごすこと。あるいは、こうした森林の循環を支援する企業の活動に目を向けること。その一つひとつの小さな選択が数十年後の未来につながっていきます。
ご案内
過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。
それが、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。
ゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、わたしたちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。
このゲームの核心となるカーボンマップでは、カーボンニュートラルを実現するうえでの森林の役割を、プレーヤーの行動の結果で変化する温室効果ガス(カーボン)の増減によって理解できる設計になっています。
ゲーム内では、木が植えられ、成長することによる炭素の吸収に加えて、木材を建築や製品に活用することを評価します。これは本記事でも触れた木々を「伐って、使って、植えて、育てる」という資源循環のサイクルそのものです。
※スライドでカーボンの循環を確認できます
さらに、山や森林について体験を通じて学びたい、山の問題を自分事として捉える人を増やしたいという方には、カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」もお薦めです。
moritomirai(モリトミライ)では、プレイヤーは森林組合、猟師、行政職員、住宅メーカーなどの役割を演じ、それぞれの立場で森の未来を左右する意思決定を行います。今の日本の森をどう活用し、どう次世代の森へと更新していくのか。そのプロセスをゲーム内で擬似体験できます。
森林資源を活かした経済活動が、森の未来を支えること(=森林経営)をゲームを通して楽しく学べます。ぜひご覧ください。
また、富山県に本社を構えるプロジェクトデザインでは、富山県に豊富にある森林資源を原材料とした精油(エッセンシャルオイル)の抽出事業を2014年から開始しています。ブランド名は、AROMA SELECT(アロマセレクト)。
アロマセレクトの精油の原料は、森林の保全活動の中で生じる廃棄予定の間伐材です。精油をつくる活動を通じて自然と人間の共生を目指す想いのもと、森の手入れをしてくれる木こりさん、山を管理してくださる組合の皆様と一緒に環境保全に取り組んでいます。
アロマセレクトは自然豊かな富山の森を次世代にも健全な状態で引き継ぐために、フォレストエナジーサイクル(間伐材の活用→国産アロマ生産→林業活性化→森林環境の保全→間伐材の活用)という視点から、山も喜び人も楽しめる環境を目指していきます。
管理された実験室条件下での研究によると、CO2濃度を倍増させた場合、花粉の生産量は60%から、最大で1299%(約14倍)も増加したという驚くべきデータが報告されています。この数値は植物の種類によって幅がありますが、CO2濃度の実質的な上昇が、植物の生殖能力を爆発的に高める可能性を示唆しています。
[2] 参照)環境省「第3次気候変動影響評価報告書の公表について」2026年02月16日
[3] 参照)林野庁「スギ花粉発生源対策推進方針」
[4] 参照)民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会(ウッド・チェンジ協議会)「⾼層
⽊造ビル事例集」
[5] 参照)住友林業「中大規模木造建築(MOCCA)」
この記事の著者について
執筆者プロフィール

南原 順(なばら じゅん)
島根県浜田市生まれ。京都大学大学院地球環境学舎修了(修士・環境政策専攻)。2005年より南信州を中心に、市民が出資・参加する自然エネルギー事業の立ち上げ及び運営に携わる。その後、ドイツを拠点に欧州4カ国での太陽光発電プロジェクトの開発・運営を経験。帰国後は日本企業にて国内のメガソーラーの事業企画、開発を行う。2016年にコミュニティエナジー株式会社を設立し、島根県浜田市を拠点に地域主導の自然エネルギー導入の支援を行う。セミナー等での講演や企業・自治体向け職員研修・ワークショップの実績多数。
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