AIと気候変動の現在地 ~AIの進化とエネルギーの交差点で何が起きているのか?

皆さんは今日、もう「生成AI」を使いましたか?

テキスト・動画・音声の生成、天気予報などの複雑なシステムの予測、ロボットのスマート化と柔軟性の向上、オンラインワークフローの自動化、そして物理世界の感知と解釈。AIは驚くべきスピードでさまざまなことを実現しています。

仕事や生活の中で、AIの利便性を享受している人は、多いのではないでしょうか?

しかし、その魔法のような便利さの裏側で地球環境には見えないコストが積み上がっています。 そこで本稿では、私たちの日常に浸透しつつある「AIの進化とエネルギーの交差点」で何が起きているのかを紐解いてみたいと思います。

Contents(目次)

驚きの「電力消費」量

AIは、膨大なデータを学習し、私たちの問いに答えるために、データセンターという巨大な施設をフル稼働させています。 このデータセンターが実はかなりのエネルギーの「大食い」です。

例えばテスト環境におけるAIモデルの実験では、言語生成に約2ワット時、大規模推論モデルでは少なくともその2倍、短編動画生成には約25倍の電力を消費すると推定されています。AIのハードウェアとソフトウェアのエネルギー効率は急速に向上しており、今後もさらに効率的になる可能性がありますが、商用モデルのエネルギー消費に関するデータが不足しているため、正確な評価は難しいようです。

AIの普及はエネルギーに大きな影響を与えます。

AIモデルの学習と利用は大規模データセンターで行われており、これらの施設への世界的な投資は2022年以降急激に増加しています。大規模なデータセンターは、そのひとつで10万世帯分の電力を消費する可能性があり、現在、世界で建設中の最大規模のデータセンターは200万世帯分の電力を消費する可能性があると報告されています[1]。

AIは喉が渇く?「水」を飲むAI

また、AIは水を大量に消費する「喉が渇きやすい」存在のようです。

データセンターは大量の水を必要とします(直接的な施設内の冷却だけでなく、半導体製造やエネルギー供給に関連する間接的な水消費も存在も含めてです)。

水使用量は、冷却技術、地域の気候、電力供給源によってデータセンターごとに大きく異なると言われています。例えば、米国の100MWハイパースケールデータセンターは平均して1日あたり約200万リットルの水を消費しており、その約4割が施設内の冷却用途、60%以上が間接的な水使用量になります。

これは日本の約2,500世帯が1日に使う量です。これは、地方の小さな町(数千人規模)の全世帯が1日に消費する量に近いイメージです。

他の例では、ChatGPTで20回から50回のやり取りをするだけで、約500ml(ペットボトル1本分)の水を消費しているという研究結果もあります[2]。

私たちの「ちょっと教えて」が生む環境負荷

以上の話を踏まえると、私たちの何気ないAIに対する「ちょっと教えて」という一言が、目に見えない形で、電力網や水資源に大きな負荷をかけていることがわかります。

例えば、生成AIでの検索は一般的なGoogle検索やその他の検索エンジンよりも4~5倍の炭素排出量を生み出すことがわかっています。検索あたりのエネルギー消費量はAIモデル自体のトレーニング(学習)よりも少ないものの、膨大な数量の検索がなされるため、生成AIが消費する総エネルギーの最大90%を占め、かなりのエネルギー消費につながります。

こうしたAIシステムの運用に必要な電力は、関連するデータセンターのエネルギー構成に応じて二酸化炭素排出量が変化します。

国際エネルギー機関(IEA)の報告書[3]に基づくと、2024年時点で世界のデータセンターによる電力消費量は約415 TWh(世界全体の電力需要の約1.5%)と推定されています[4]。これが2030年には、デジタルサービス需要の深化とAIの普及により、約945 TWhへと倍増する見通しです。

現在、世界のデータセンターの電力消費を支える主なエネルギー源は、石炭(約30%)、再生可能エネルギー(風力、太陽光、水力等:約27%)、天然ガス(約26%)の3つが、ほぼ同等の比率になっています[5]。化石燃料が約半分を占めており、AI需要が増えれば温室効果ガスの排出も増えることになります。

一方で、今後、データセンターの電力需要が急増する中で、供給源の構成は再生可能エネルギーを中心とした低炭素電源へとシフトしていくとみられています(IEAは2024年から2030年にかけてのデータセンター向け電力需要増加分の約50%は再生可能エネルギー(主に風力と太陽光)によって賄われると予測しています)[6]。

AIこそが、カーボンニュートラル推進を加速させる?

リスクだけを聞くと、「AIを使うのは環境に悪いことなの?」と感じてしまうかもしれません。

しかし、話はそう単純ではありません。AIは「システムの全体最適」を行うのが得意な、非常に強力なツールでもあるからです。

気候変動対策においてAI の活用すれば、温室効果ガスの排出の削減や吸収(緩和策)や、気候変動の影響や被害を軽減する(適応策)ことができると考えられています。例えば、電力需要予測や都市のエネルギーマネジメント、水資源管理や農業被害の軽減などです。

AIによる適応策の強化の具体例

自然災害の早期警戒システム(EWS)

洪水、ハリケーン、干ばつなどの極端気象を予測し、被害を最小限に抑えることを目的としています。例えば、エチオピアでの「すべての人のための早期警戒(EW4All)」イニシアチブ[7]では、AIと衛星画像を用いてリスクの高いコミュニティを特定しています。

資源・生態系の持続的な管理

衛星データとAI(コンピュータビジョン)を組み合わせ、ソロモン諸島でのマングローブ監視(AMAP)やサンゴ礁の健康診断(ReefCloud)等、生物多様性の保護を自動化・迅速化します。また、衛生データと組み合わせて森林現象や劣化の検出を行うことも可能です。

農業と水管理での気候適応

精密農業により、最適な作付け時期や灌漑、肥料使用を提案し、気候変動下での食料安全保障を支えます。ケニアでは小規模農家向けに作物の収量予測を行うAIシステムが導入されています。

緩和策(排出削減)の具体例

エネルギー管理

再生可能エネルギーの出力予測や、電力網(スマートグリッド)の安定化に寄与します。

インドの「Tata Power EZ Home」のように家庭のエネルギー消費をAIで最適化する例から、ビルや工場のエネルギー管理の効率化、電力系統全体の運営の高度化など、その適用範囲は幅広くあります。

輸送と産業の効率化

交通流の最適化による燃料消費の削減、製造プロセスにおけるエネルギー効率の向上、排出源(ホットスポット)の特定にもAIは活用できます。

例えば航空業界では、AIを活用した飛行経路最適化システムは1便あたり5~12%の燃料消費量を削減できる可能性を示しています[8]。

例えば海運業界では、AIベースのツールを活用し、気象条件、港湾混雑状況、燃料効率に関するリアルタイムデータを考慮した最適な航路を策定し、航海における燃料消費量を5〜15%削減できると報告されています[9]。

気候変動領域でのAI利用におけるリスクと課題

これまでにお伝えした具体例のほかにも、例えば次世代バッテリーの開発や、CO2を効率的に回収する新素材の開発、研究開発分野における劇的な期間短縮など、AI活用の可能性の大きさが期待されています。

その一方で、開発途上国では不確実なインターネット接続、計算能力の不足、専門人材の欠如がAIの導入を阻んでいます。データの入手可能性も深刻な問題と言われ、アフリカではデータサイエンティストの数が先進国と比べて非常に少ない「気候データ格差」の問題が指摘されています。

今後、気候変動とAIについて考えていく上では、「グリーンAI」と呼ばれるエネルギー効率の高いアルゴリズムや、AI自体の学習時の環境負荷を抑える取り組みが不可欠です。また学習データに、ジェンダー、先住民族の知識、若者の視点を取り入れ、バイアスを減らすことも重要です。

図)AIの環境負荷と気候変動対策推進への期待

ゲームで体験する「全体最適」と「個別最適」のジレンマ

AIの利用は便利で効用が高い反面で、現状、環境負荷の大きさという問題を抱えています。

AIをめぐる、今の状況は、私たちが提供しているカードゲーム「2050カーボンニュートラル」でプレーヤーが体験するジレンマそのものです。自分の仕事や生活を便利にする「個別最適(企業や個人の利益)」を優先しすぎると、地球全体の環境が悪化し、その影響が人間社会に温暖化や気候災害といった形で降りかかります。

一方で、AIの力が、複雑な気候変動の問題を解決するスピードを加速することも確かです。

大切なことは、個々の変化が全体に繋がっているという感覚を持ち行動することではないでしょうか。自分の行動がどう地球や社会に影響するのかをリアルに、そして、楽しく体験できるのがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

ぜひ一度、ワークショップでその奥深さを体感していただければと思います。

[1][3] 参照)IEA報告書「Energy and AI(2025年4月)」

[2] 参照元)UNFCCC(国連気候変動枠組条約)技術ペーパー「Artificial Intelligence for Climate Action」2025年7月

[4] 標準的なBase Caseの場合

[5] データセンターの集積地によって、依存する電源に大きな違いがあり、アメリカは天然ガスが40%以上を占める最大の供給源、中国は現在は電力供給の約70%を石炭に依存しています。

[6] ただし、IEAはAIの普及速度や効率化の進展によって、将来の電源構成の構成は大きく変動すると予測しています。例えばAIが急速普及するシナリオでは電力需要が大きく膨れ上がり、天然ガスなどの化石燃料によるオンサイト発電への依存が高まるリスクが指摘されています。一方でAI関連のハード・ソフト両面の省エネが進み、エネルギー需要が抑制されることで、想定より早い段階で再エネ電源への切り替えが可能になる未来があるとも予測しています。

[7] 参照)UNDRR と WMO によるプレスリリースのUNDRR神戸事務所による日本語仮訳版

[8] 参照)アラスカ航空、2024年;マッキンゼー・アンド・カンパニー、2017年

[9] 参照)EA報告書「Energy and AI(2025年4月)第3章」

ご案内

過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。

それが、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

ゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、わたしたちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。

組織内のサステナビリティ推進に向けた研修や、社内外とのステークホルダーとのサステナ推進の協働体制づくりにご活用いただけます。

サステナビリティに関わるステークホルダー
組織でカーボンニュートラルが進まない2つの問題と4つの壁、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の活用提案​

ゲームの活用用途が決まっていない、ゲームに興味はあるが具体的な活用法がイメージしづらい方向けに、活用提案のコンテンツをご紹介します(カーボンニュートラル推進における問題の観点からカードゲーム「2050カーボンニュートラル」の活用方法をスライドを交えながら、分かりやすくご提案します)。

この記事の著者について

執筆者プロフィール

南原 順(なばら じゅん)

島根県浜田市生まれ。京都大学大学院地球環境学舎修了(修士・環境政策専攻)。2005年より南信州を中心に、市民が出資・参加する自然エネルギー事業の立ち上げ及び運営に携わる。その後、ドイツを拠点に欧州4カ国での太陽光発電プロジェクトの開発・運営を経験。帰国後は日本企業にて国内のメガソーラーの事業企画、開発を行う。2016年にコミュニティエナジー株式会社を設立し、島根県浜田市を拠点に地域主導の自然エネルギー導入の支援を行う。セミナー等での講演や企業・自治体向け職員研修・ワークショップの実績多数。

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