【実施レポート】環境省でカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を実施

組織名 :環境省 
業種  :官公庁
職員数 :2,000名~

2023年10月17日、環境省本省(東京都千代田区霞が関)にて、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」体験会を初めて開催しました。

今回の体験会は、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」制作アドバイザーでもある、福嶋慶三さん(環境省近畿地方環境事務所)の声かけにより、環境省内で脱炭素政策に携わる関係部署の職員や、省外からも自動車会社や電力会社、投資会社など総勢約40名の皆さんにご参加いただきました。

本稿では、当日の体験会の様子と体験者の声をお伝えしていきます。

環境省の取り組み

環境省では、気候変動対策、資源循環、自然保護や、地域循環共生圏の推進など持続可能な社会創りのため、日頃から政策を企画立案、実践しています。

日本全体での2050年カーボンニュートラル実現のため、具体的には、政府として「改正地球温暖化対策推進法」(2021年5月)や「地域脱炭素ロードマップ」(2021年6月)を策定し、全国で『脱炭素ドミノ』を伝播させるべく、70か所を超える脱炭素先行地域の取り組みなどを進めています。

参考:国の取組 – 脱炭素ポータル|環境省

体験会の様子

福嶋さんの想い

体験会では、最初に、今回の呼びかけ人である福嶋慶三さんより、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」制作のきっかけが熱く語られました。

“以前、2016年頃のことですが、前年に国連で誕生したSDGsをどうやって普及させていこうかと悩んでいた時、出会ったのがカードゲーム「2030 SDGs」でした。知識として学ぶだけでなく、楽しく体験を通して腑に落ちる、という本当に画期的な内容で、SDGsが社会に浸透していくにあたり、大きな役割を果たしたと思います。気づいたら自分もファシリテーターになっていました。そして、2021年12月、前年の政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」もあり、脱炭素の動きを社会で大きく加速していくためには、どうすればいいか悩んでいたころ、ふと閃いたのが「また、カードゲームの力を借りられないか」ということでした。そこで、餅は餅屋。カードゲーム「2030 SDGs」を制作したプロジェクトデザイン社に「カーボンニュートラルのカードゲームはないのですか?」とお尋ねしたところ「ありません」とのお答えでした。「では、作ってみませんか?」という私の一言が一つのきっかけとなり、同じ思いを持ったプロジェクトデザイン社内の皆さんが魂を込めて作り上げられたのが、この「2050カーボンニュートラル」カードゲームです。とても面白く、そして学び深くデザインされているので、ぜひ楽しんでください”

福嶋さんから語られる、ゲーム制作に関する想い

場にいる全員が福嶋さんの想いを受け取り、ゲームへの期待が高まります。

※福嶋さんはカードゲーム「2050カーボンニュートラル」の制作アドバイザーであり、ゲームリリース前には環境省近畿地方環境事務所でテストプレイを共同開催しました。その様子はこちら。

【実施レポート】新作ゲーム「2050カーボンニュートラル」テストプレイ(環境省近畿地方環境事務所)

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」とは

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、カーボンニュートラルについての理解を進め、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。

過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づくことができます。

このゲームでは、会場全体が1つの「日本」に見立てられます。商社や政府、電力会社など12のチームに分かれたプレイヤーたちが、各々のチームの事業目標達成や2050年のカーボンニュートラルの実現を目指して行動します。行動できるのは4ターン。各チームは、①企業・組織と、②個人・市民としての2つのアクションを各ターンごとに実行します。アクションが引き起こす社会情勢の変化は現実世界を模したものです。

ゲームロジックには実際のビジネスや社会活動など現実世界の仕組みを反映させており、ゲームを楽しみながら現実で起こり得ることを疑似体験できます。

さらにカードゲームは「環境意識の高低にかかわらず、みんなが対等に存在を認め合い対等に対話できるツール」でもあります。成功も失敗もリスクなく楽しみながら体験でき、どちらの体験からでも学びや気づきを得られる有用性があります。

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の体験

さて、今回、この場に集まった皆さんは、大なり小なり国の環境政策に携わり、カーボンニュートラルへの関心も予備知識もある組織の皆さんです。

しかし、各プレイヤーに専門知識や実業務に携わり知見があるからと言って、上手くゲームが展開するとは限りません。なぜなら、現実世界と同じく、各チームは「必ずしも全員がカーボンニュートラルを目指している訳ではない」からです。

このゲーム全体のゴールは「カーボンニュートラル」であっても、それぞれのチームのゴールは異なります。「温室効果ガスの排出量」や「吸収量」など、環境指標の目標達成がゴールのチームもありますが、多くの企業プレイヤーは現実世界と同様に「ゲーム終了時の手持ち資金を増加させること」がゴールとなっています。

互いのゴールを尊重し、協働できれば「双方の目標が達成し合う相乗効果」が生まれますが、そうでなければ「誰の目標も達成しない足の引っ張り合い」が起こるのです。

参考:カードゲームは環境への関心度合いの違いが生み出す対立構造に気付き、対話のきっかけになるツール|株式会社プロジェクトデザイン

今回の体験会では、後者の “綱引き” 状態が見られました。

第1ターンから「何をすれば排出量は削減できるのか」という問いが生まれ、金融機関や政府に融資・助成金を依頼するなど組織を超えた活発な交渉が見られる一方で、経済との均衡を保とうとするが故に排出量が増えてしまったのです。

例えば政府を担当するチームでは、「炭素税導入によりEV購入者が増え、社会の二酸化炭素排出量を抑えられるのではないか」と意見が出る一方で、「いやいや、手持ち資金が減ることを恐れ、市民はEV車の購入を選択しないだろう」と参加者によって行動評価が異なり、話し合いが平行線を辿る様子も見られました。

テーブルをまたいで対話する様子

第2ターン終了時(ゲームではおよそ10年が経過)には、温室効果ガスの蓄積量の高まりから、気候変動の進展によるいくつかの災害が発生し、市場のGDP(経済成長)は急激に下降します。

このゲームでGDPを指標としているのは、「カーボンニュートラルの取り組みを持続的に力強く進めるため」です。現実世界でも、カーボンニュートラルを推し進めるには、経済成長を進めながら温室効果ガスの排出量を削減する「経済と環境の好循環」を生み出すことが求められているのです。

第3ターンでは、排出量削減に向けた市民のアクションに焦点が当てられました。組織だけでなく「一市民として、二酸化炭素排出削減に向け何を実行すべきなのか」と情報交換が行われます。しかしながら、熟慮の末にアクションを起こしても、排出量は思うように減りません。

混沌とする雰囲気が続く中、ここで場を大きく変える出来事が起こりました。

いくつかのチームから上がった「排出量を削減できるアクションを取ろう」という声が各グループに伝播し、会場が「全員でカーボンニュートラルを成し遂げよう!」という熱気に包まれたのです。チームの枠を超えて様々なメンバーが集まり、残り時間の戦略を練る様子が至る所で見られました。

アクションカードを手渡す様子

やがて、二酸化炭素の排出量が徐々に減り始めました。

最終の第4ターンでは、カーボンニュートラルまであと一歩というステータスに到達。福嶋さんからの「やればできる環境省!」という呼びかけに、場が沸きます。

しかし、ゲームの結果は残念ながらカーボンニュートラルが未達成となりました。GDPの数値は開始時より低下し、排出量も吸収量を上回る状態。つまり経済成長と環境改善の両立が図れない結果となったのです。

経済(GDP)は60,000から36,000に低下
「排出量5 吸収量3」で排出量が吸収量を上回る結果に

しかしながら、このような結果だからこそ、得られる学びや気付きが大きくなることもあります。参加者からは以下の感想が挙がりました。

<参加者の振り返り内容(抜粋)>

  • 組織の売上を上げつつカーボンニュートラルを達成することは(環境省はそれを現実には求めているが)難しいのだとゲームを通して実感した
  • B to Cでは、二酸化炭素排出量削減に大きな効果が見られない(見えにくい、見せにくい)のだと感じた(だからこそ、「見える化」が大事)
  • 売上を得るために二酸化炭素の排出量を増やしてしまった。そこからは排出量削減に行動をシフトしたところ、結果として排出量を減らすことには成功したが資金は0になってしまった(環境と経済の両立、好循環は言うに易く、実際には難しいということを体感した)
参加者がゲーム体験を振り返る様子

ゲーム終了後の振り返りでは、ファシリテーターの竹田より「早期にカーボンニュートラルを実現すること」「経済成長と環境改善を共に成し遂げること」について、ゲーム結果を踏まえたメッセージが伝えられます。

「このゲームでは全チームの目標達成が可能です。同時にGDPも増やすことができます。どのような行動を選択すべきだったのでしょうか?」

竹田からのこの問いに対し、政府を担当した参加者からは「政府の選択として、炭素税を導入した。しかしその際、各チームの事業プレゼンの時間を設け、大きく排出量を減らす可能性のある事業に補助金を出す方法を取っていたならば、効率よく補助金が分配できたかもしれない」とコメントがありました。

このようにゲーム体験後の対話では、異組織間での情報共有の重要性や、組織・市民が一丸となってアクションを起こす難しさなど、カーボンニュートラル実現への課題が共有されます。

ゲーム内で共通言語を用いて共通体験をしているからこそ、その後の対話により学びや気付きを深めることができ、体験を現実世界と紐づけ、誰もが自らの想いを言語化できるようになるのです。

体験会参加者の声

“ゲームの一瞬一瞬に分かれ道があり、後戻りが出来ないのだと気付きました。日頃の業務にも言えることですが、場に臨む前に作戦を練ったり、心構えをすべきだったと感じています。多くの方にこのゲームを体験してもらい、カーボンニュートラル実現の難しさや協力の必要性を知っていただきたいです”

“ゲーム体験では、全員が「カーボンニュートラル」という同じゴールに向かって企業活動をしていきました。全ての企業の方、特に経営者層の方々には是非受けていただきたい内容です。また未来を生きる子どもたちや、学生の皆さんにも体験してもらえたらと思います”

“日頃より環境省内で気候変動対策の業務に携わっていますが、「なぜ早期にカーボンニュートラルを実現しなければならないのか」を言語化することが非常に難しいと感じています。このゲーム体験では実際の行動の効果が見え、さらに周囲の協力により結果が左右されることを身近に感じられたという点が、非常に良かったと思います。体験したどの年代でも気付きが生まれ、行動変容に効果があるゲームだと感じました。これからの社会をけん引していく若い世代や、環境に貢献したいと思っているシニア層にも是非体験していただきたいです”

“カーボンニュートラル達成の難しさと早期に行動に移す重要性が実感できました。2030年、2050年を担っていく世代にアプローチするツールとして活用できるのではないかと思います”

“ゲームでは、カーボンネガティブを目標に排出量の削減と吸収量の増加を目指していましたが、参加者それぞれで目標設定が異なることに気付き、全員が同じ目標に向かっていく難しさを感じました。普段は中小企業の脱炭素経営の推進を担当しておりますが、「カーボンニュートラルに向けて、自分たちの業界では何ができるのか」という問いを持つ企業が多くいらっしゃいます。その様な方たちと共にこのゲーム体験をすることで、今後の方針を一緒に検討出来る場が作れるのではないかと感じました”

研修講師より一言

今回、環境省で、環境政策を率先して実現していく立場にある方や、専門知識を持つ方に体験していただきましたが、学びや気づきを提供できる場となりました。

「日頃の業務が俯瞰的に見え、課題が言語化された」という感想や「カーボンニュートラルを業務課題として挙げている対話相手との方針策定ツールにもなり得る」との声をいただき、省内外での活用可能性も大きく見えた機会となりました。

このカードゲームでは、参加者全員によって場が作られていき、結果が生まれます。今回のように40名近い規模の実施では、場全体で複雑に大小様々な力学が働き合い、経済追求と環境改善で均衡を取ろうとするがために、排出量の増減が綱引き状態になる状況も生まれます。つまり、それぞれの組織で立ち上がる人がいる程、上手く横連携が取れず相乗効果が生まれないために、大きな結果を生み出せないということです。

現実世界でも同様に、1人の声に周囲が呼応し大きくプロジェクトが立ち上がるケースもあれば、少数の声が黙殺されるケースも大いにあり得るでしょう。国の環境政策を主導し、国民に呼びかける業務に携わる環境省という組織の皆さんだからこそ、全員が同じゴールに目線を合わせ連携して向かっていく難しさと、連携から生み出される可能性を体感いただけたと思っています。

今後このゲームが政府が目指す「2050年カーボンニュートラル」実現への羅針盤となり、国全体での連携強化や環境政策浸透の一助にもなれば幸いです。

株式会社プロジェクトデザイン
竹田 法信

研修講師プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー、株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

Facebookアカウントはこちら

ご案内

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」体験会

カードゲーム「2050カーボンニュートラル」は、過去から現在にかけて私たちが行ってきた様々な活動が地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって、私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲームです。

ゲームでは、参加者が1つの組織のメンバーとして1〜4人のチームを組み、 他のチームと様々な交渉を行いながら、組織の活動とプライベートの活動を行います。ある組織では獲得資金を増やすことを目指し経済活動を行っていきます。また、ある組織では排出削減量の目標に向かって環境活動を行っていきます。

こうした活動を通じて組織の目標達成を目指すプロセスにおいて、私たちの世の中のカーボンの状態がどのようになっていくのかをシミュレーション(模擬実験)します。

このゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」、そして「そのために、私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきを得ることができます。

詳細はこちら

Contact Us

お気軽に、お問い合わせください

各種お問い合わせ
カードゲーム「2050カーボンニュートラル」のイベント開催依頼やメディア取材、その他のお問い合わせはこちら
公認ファシリテーターになりたい方
ファシリテーターになって自分のイベントを開催したい方はこちらのページをご覧ください