ダボス2026が突きつけた現実:競争の時代に求められる「必需品」としての対話

皆さんは今年のダボス会議(WEF年次総会)についてのニュースはご覧になったでしょうか。

ダボス会議は、スイスの雪深いリゾート地として知られるダボスに、各国の首相や大統領、大企業のCEO、著名な学者たちが一堂に会して地球規模の課題を議論する場になります。主催は世界経済フォーラム(WEF)という組織です。毎年ここで話し合われた内容が、その後の世界のビジネスや政治の大きなトレンドになっていく側面があります。

2026年1月、トランプ大統領をはじめ、60カ国以上の元首・首脳が参加し、国際機関のトップや世界中の企業のCEOが集結したこの会議は、世界が「競争の時代(The Age of Competition)」の断崖に立つという警告と、未来に向けて「対話の精神(A Spirit of Dialogue)」の重要性を掲げ、幕を閉じました。

「競争の時代」と総括されたように、ダボス会議での議論の注目点として、グリーンランドをめぐるトランプと欧州の対立のような地経学的対立(Geoeconomic confrontation)的な競争や、AIによる社会変化が参加者やメディアの関心の中心だったことは否めず、SDGsやサステナビリティといったテーマは後退したという評価があります。

それが2026年初の現実です。また一方で、分断が進む世界において脱炭素やネイチャーポジティブがビジネスの巨大なリスクであり、荒れ狂う世界情勢の中で競争を勝ち抜くための核心として語られていることも事実です。

本記事では、ダボス会議2026の公式「テイクアウェイ(主要な成果)」と、ダボス会議に先立って2025年から2026年にかけて発表されたWEFの最新レポート4本を読み解くことで、「競争の時代」のサステナビリティ戦略について考察していきたいと思います。

Contents(目次)

地経学的対立が変えた「サステナビリティ」の定義

世界経済フォーラム(WEF)が2026年1月に発表した最新の『グローバル・リスク・報告書2026』[1]は、グローバル・リスクの規模、相互接続性、および速度が連鎖的に増大し続ける「競争の時代(The Age of Competition)」に突入したと警告しています。

この時代は、かつての「多国間主義」が後退し、国や地域がそれぞれの利益を最優先して衝突する「多極化」を特徴とします。

世界のリーダーや専門家の50%が今後2年間の世界情勢を「激動(turbulent)」または「荒れ模様(stormy)」と予測しており、その割合は10年後には57%にまで高まります。「穏やかな未来」を予測したのはわずか1%であり、「競争の時代」において、ビジネスの前提条件は根本から書き換えられようとしています。同レポートにおいて、今後2年間の最大のリスクとして挙げられたのが「地経学的対立(Geoeconomic confrontation)」です。

これは、関税、制裁、投資規制、サプライチェーンの武器化といった経済的手段を用いて自国の利益を最大化し、ライバルを制約しようとする国家間の衝突を意味します。一方で10年後というスパンでは、気候変動による異常気象(1位)、生物多様性の喪失と生態系の崩壊(2位)、地球システムの危機的変化(3位)といった地球環境の悪化リスクが、誤報と偽情報(4位)やAI技術がもたらす悪影響(5位)など技術的なリスクよりも深刻であると位置付けられています。

世界のビジネスリーダーが、将来的には気候変動や生物多様性が深刻な課題であると認識しつつも、「経済的手段を武器とした国家間の衝突」を目前の脅威と捉えていることが分かります。

図:グローバルリスク:深刻度別ランキング(短期2年・長期10年)
出所:WEF “The Global Risks Report 2026” 日本語著者仮訳

「資源ナショナリズム」とトランプ関税がScope3戦略に落とす影

なぜ、トランプ関税がScope3を揺さぶるのか。その背景には、エネルギーを「武器」とする地経学的リアリズムがあります。

WEFが2025年6月に発刊したレポート「Fostering Effective Energy Transition 2025」では、脱炭素が「資源自給率」や「経済安全保障」の裏返しであることを近年の資源ナショナリズムの拡大をもとに指摘しています。

例えば、ロシアによるウクライナ侵攻は、エネルギーの対外依存がいかに国家経済を人質に取るかを露呈させました。欧州諸国が再生可能エネルギーへの投資を急加速させているのは単に地球を救うためだけではありません。外部の供給者による「エネルギーの武器化」から逃れ、欧州の自律性を確保するためだとも述べています。

クリーンエネルギーへの移行には、リチウムやコバルト、レアアースといった重要鉱物が不可欠ですが、その供給網の多くは特定の国に集中しています。例えば、中国は世界のレアアース抽出の70%、加工の90%を支配しており、地政学的な緊張が高まれば、これらを輸出規制という「武器」として使用する姿勢を鮮明にしています。

さらに注視すべきは、第2次トランプ政権が掲げる強硬な通商政策です。同レポートにおいてトランプ大統領が提唱する「一律的なユニバーサル関税」や、特定の資源国に対する高関税措置は、企業のScope3(サプライチェーン全体の排出量)戦略を根底から揺さぶると喚起しています(Fostering Effective Energy Transition 2025)。

これまでグローバル企業はScope3削減のために世界中で最も「クリーンで安価なサプライヤー」を探索してきました。しかし、トランプ関税は、企業のScope3削減努力を政治的・コスト的な判断によって事実上無効化、あるいは遅延させる強力な圧力となっています。

排出量は少ないが関税が極めて高い「遠くのクリーンなサプライヤー」よりも、排出量は多いが関税がかからない「地経学的にリスクの低いサプライヤー」を選ばざるを得ないジレンマに企業は直面しているのかもしれません。このように、地経学的対立はサステナビリティに向けた企業の投資や協業の優先順位を置き換え、サプライチェーン構築に影響を及ぼす大きな変数となっています。

同じく“Fostering Effective Energy Transition 2025”によれば、世界のエネルギー移行は「マルチスピード(多速度)」で進んでおり、国や地域によって格差が広がっています。

かつて再生可能エネルギーは高価な代替品でしたが、現在では太陽光や風力、EVなどのソリューションが、補助金なしでも化石燃料に対してコスト競争力を持つ地域が急速に拡大しています。多くの国や地域で再エネへの移行を躊躇することは、自ら「より高価で、かつ地政学的に不安定なエネルギー」を使い続けるという選択をしていることになるとしています。

一方で、新たな課題も浮上しています。AIの急拡大に伴うデータセンターの電力需要は、2030年までに世界の電力需要増加分の約10%を占めると予測されています(AIとエネルギー、気候変動の関係については、非常に重要なテーマであるため過去の特集記事「AIと気候変動の現在地」で詳しく解説しています)。

こうしたコストやリスクの増大は、一方で、それを解決するソリューションを『数千兆円規模の巨大市場』へと変貌させています。

数千兆円規模の「新・市場原理」への適応

WEFの『Already a Multi-Trillion-Dollar Market 2025(2025年12月発刊)』によれば、グリーンエコノミーの市場規模は2024年に5兆ドル(約750兆円)を突破しました。2030年には7.1兆ドル(約1,000兆円超)に達すると予測されており、テクノロジーセクターに次ぐ、世界第2位の成長フロンティアとなっていると報告しています。

また、世界6,500社以上の公開企業における企業パフォーマンスに関して、グリーン事業の売上比率が高い企業は、従来型事業のみの企業に比べて「収益が2倍の速さで成長(年平均成長率12%対6%)」し、平均して資本コスト(WACC)が約43ベーシスポイント(0.43%)低く抑えられているデータがあります。こうした企業は投資家からの評価も高く、グリーン事業の比率が高いほどバリュエーション(企業価値評価)にプレミアムがつく傾向にあると分析しています[2]。

この背景として、単なる環境意識の高まりだけではない、強力な経済的・戦略的要因が指摘されています。その一つが従来市場の停滞と成長分野の広がりです。多くの業界で「グレー市場」が勢いを失う一方、グリーンな選択肢が成長を独占しています。例えば、自動車業界では内燃機関車がシェアを落とす一方で、電気自動車(EV)が成長の大部分を占めています。

資本コストの低減に関しては、投資家は、グリーン事業に注力する企業を「長期的なダウンサイドリスク(環境規制や座礁資産化のリスク)が低い」と見なし、安価な資金にアクセスできることで、企業はグリーン成長の機会により容易かつ効率的に投資でき、それがさらなる収益向上と企業価値(バリュエーション)の向上につながる好循環が生まれていると述べています。

CO2だけではない。バリューチェーン全体での自然資本への依存度管理

WEFのネイチャーポジティブに関する報告書『Nature Positive: Role of the Technology Sector 2025』によれば、ハードウェア製造に不可欠な重要鉱物(リチウム、コバルト、レアアース等)の採掘は、現地の生態系破壊や水質汚染のリスクと不可分であり、これらが事業継続における「物理的リスク」として特定されています。

人間の経済活動全体が自然資本に依存しており、自然なしでは成立し得ないという認識が徐々に共有されてきています。

そのなかで、温室効果ガスのバリューチェーン管理(GHGプロトコルScope1-3)が普及したのと同様に、現在はTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)やSBTN(科学的根拠に基づいた自然に関する目標設定)などの枠組みを通じてバリューチェーン全体での「自然への影響と依存」を定量化し、開示することが求められています。

これまで、多くの企業にとってサステナビリティ管理の主戦場はGHG(炭素)でした。しかし、今回のダボス会議やWEFのレポートが示唆しているのは、炭素の管理だけでは事業継続が危ぶまれるという認識です。

例えば、GHGのScope3管理において、企業はサプライヤーの排出量を追いかけてきました。今後はそれに加えて、「そのサプライヤーが操業している地域で、水不足や森林破壊を引き起こしていないか」という自然資本の視点が加わります。もし、自社のバリューチェーンのどこかで自然資本を枯渇させていれば、それは将来的な供給途絶やコスト増という形でダイレクトにビジネスの持続性を削ぐことになります。

競争の時代において、協力の基盤(通貨)としての「信頼」の重要性

「対立が協力を複雑にしており、協力の『通貨』である信頼が、その価値を失いつつある。」[3]

WEFは、信頼を協力における「通貨」と位置づけ、その喪失が多極的な対立を深めていると指摘しています。同時に、地経学的・社会的な激動期において、不確実な未来を乗り切り、安定を築くためには「信頼」の再構築が不可欠であると述べています。

では、信頼性の再構築とは具体的には何を指しているのでしょうか。第一に、サステナビリティに関する透明性の高い開示が、市場における「信頼」を築く鍵になるとしています。

「主観的な主張」は信頼を損なう最大のリスクであり、ライフサイクルアセスメント(LCA)や製品カーボンフットプリント(PCF)、管理の連鎖(CoC)モデルといった科学的・客観的な基準を採用し、透明性高く開示することの重要性を述べています。消費者は企業のグリーンウォッシュに敏感になっていますし、投資家はビジネスリスクのヘッジとして環境対応を足切り条件に加えつつあります。TNFDやSBTNなどの国際的な枠組みに適合することも同様です。透明性のある情報開示は顧客や投資家との信頼醸成に繋がります。

第二に、多角的なステークホルダーとの「対話」と「協調」です。

地政学的リスクや社会的分断を国や一社で解決することは不可能です。ダボス会議2026では、「対話の精神(A Spirit of Dialogue)」を掲げ、対話はもはや贅沢品ではなく「必需品」であると強調されました。

ラリー・フィンク氏(ブラックロックCEO)は、「最も重要なのは、同意できない場合でも対話を続けて、相互理解を深めることだ」と述べています。また、地域社会との信頼構築も不可欠です。米国では2023年から2025年初頭にかけて、水や電力資源への懸念を理由とした地域住民の反対により約640億ドル(約9.6兆円)規模のデータセンター・プロジェクトが停滞、あるいは遅延されています。これに対し、初期段階からコミュニティと透明性のある対話を行い、「社会的ライセンス(事業運営の容認)」を確保する重要性が説かれています。

これまでのサステナビリティ観のあり方として、将来に向けて地球規模の困難を解決していくこと、安定した多国間主義と自由貿易を前提とした世界の協力体制に立脚していたことが挙げられると思います。それが、「競争の時代」のなかで、生き抜き勝ち残るための生存戦略でありリスクヘッジと捉えられるように変わってきているのではないでしょうか。

分断を乗り越える「対話」の重要性を体験する

今回のダボス会議で示された「競争の時代」という現実は、カードゲーム「2050カーボンニュートラル」をプレイしたことがある方なら、既視感を覚える光景かもしれません。

本ゲームでは、各プレイヤー(住宅メーカー、電力会社、自動車メーカー等)が、まずは自分の組織に与えられた「事業目標」を達成しようと奔走します 。しかし、世界全体の「環境メーター」が悪化し異常気象や資源リスクが顕在化し始めると、自分一人の努力だけでは「ゲームオーバー」を避けられないことに気づかされます 。

現在、私たちが生きる2026年の世界情勢も、まさにこれと同じ状況にあります 。 地経学的対立という「競争」のルールが支配する中で自国の利益だけを優先すれば、長期的には「地球システム」という土台そのものが崩壊し、全員が敗者となってしまいます 。

ダボス会議2026でラリー・フィンク氏らが説いた「対話」とは、単なる道徳的な勧告ではありません 。それは、「利害が一致しない相手とさえも、共通の危機を回避するために交渉のテーブルに着く」という極めて現実的な生存戦略です 。

「対話」は贅沢品ではなく不確実な世界を生き抜くための「必需品」と捉え、透明性の高い情報開示を行い、自社のジレンマを正直にさらけ出しながら他プレイヤーとの合意点を見つけ出す。カードゲーム「2050カーボンニュートラル」の中で、プレイヤーたちが自分のカードを積極的にオープンにして「誰がどのプロジェクトを動かせば世界全体のメーターを立て直せるか」を話し合い始めるあの瞬間は、WEFが掲げる「信頼の再構築」の縮図と言えるのではないでしょうか。

[1] 参照)WEF “The Global Risks Report 2026”

[2] レポート内では個別の事例として、シュナイダーエレクトリック(電化、オートメーション、デジタル化に注力し、2024年には収益の90%がグリーン活動に関連するものとなった。その結果、収益は2003年の90億ユーロから2024年には382億ユーロへと約4倍に拡大)や、ホルシム(Holcim: セメント・コンクリートのバリューチェーンにおける脱炭素化と循環型経営を戦略の核に据え、2021年から2024年の間に欧州で30%の増収、60%のEBIT成長を達成)を紹介している。

[3] 参照)WEF, Global risks in 2026 and over the past 5 years:What’s changed and what hasn’t?

[その他の参考文献]
WEF “4 takeaways from Davos 2026” (2026)
WEF “Already a Multi-Trillion-Dollar Market: CEO Guide to Growth in the Green Economy” (2025年12月)
WEF “Fostering Effective Energy Transition 2025” (2025年6月)
WEF “Nature Positive: Role of the Technology Sector” (2025年12月)

ご案内

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この記事の著者について

執筆者プロフィール

南原 順(なばら じゅん)

島根県浜田市生まれ。京都大学大学院地球環境学舎修了(修士・環境政策専攻)。2005年より南信州を中心に、市民が出資・参加する自然エネルギー事業の立ち上げ及び運営に携わる。その後、ドイツを拠点に欧州4カ国での太陽光発電プロジェクトの開発・運営を経験。帰国後は日本企業にて国内のメガソーラーの事業企画、開発を行う。2016年にコミュニティエナジー株式会社を設立し、島根県浜田市を拠点に地域主導の自然エネルギー導入の支援を行う。セミナー等での講演や企業・自治体向け職員研修・ワークショップの実績多数。

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