自動車業界におけるカーボンニュートラル実現の課題と取り組み事例

自動車産業は550万人もの労働者が従事する日本の基幹産業であり、カーボンニュートラルの実現に向けて、業界が果たすべき役割は極めて重大です。

事実、自動車全体で、日本の二酸化炭素排出量の15.9%を占めています(2022年度)。

“2022年度における日本の二酸化炭素排出量(10億3,700万トン)のうち、運輸部門からの排出量(1億9,180万トン)は18.5%を占めています。自動車全体では運輸部門の85.8%(日本全体の15.9%)、うち、旅客自動車が運輸部門の47.8%(日本全体の8.8%)、貨物自動車が運輸部門の38.0%(日本全体の7.0%)を排出しています”

参考:環境:運輸部門における二酸化炭素排出量|国土交通省

そこで本稿では、自動車業界におけるカーボンニュートラルの課題ごとに、業界内の企業の具体的な取り組み事例をご紹介します。

Contents(目次)

<ご案内>
カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。

自動車業界のカーボンニュートラルの課題:電動化

自動車から排出されるCO2(二酸化炭素)は、ガソリンや軽油の燃焼によって生じます。ゆえに、ガソリン車を廃止し、走行時のCO2排出ゼロの電動車を普及させれば良いと考えるのは自然な事と言えます。

日本においては、2021年1月に菅義偉首相が国会の施政方針演説にて「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」との方針を明らかにしており、自動車メーカー各社はそれぞれに目標を掲げ、電動化に向けた取り組みを進めています。

なお、電動車(EV:Electric Vehicle)の種類は多岐に渡ります(下記参照)。

  • BEV:Battery Electric Vehicle(バッテリー式電気自動車)
  • HV(HEV):Hybrid Electric Vehicle(ハイブリッド自動車)
  • PHV(PHEV):Plug in Hybrid Electric Vehicle(プラグインハイブリッド自動車)
  • FCV(FCEV):Fuel Cell Electric Vehicle(燃料電池自動車)

    ※HVはゼロエミッション車ではありません(ガソリン使用時にCO2を排出します)。

電動化の取り組み事例

トヨタ自動車

トヨタ自動車では、グローバル企業としての矜持を胸に、マルチパスウェイプラットフォーム(多様な電動車の提供を可能にするプラットフォーム)を志向し、様々な種類の電動車の開発に挑戦し続けています。

“地球全体でみると、国や地域によって、文化、インフラ環境、人の生活、そしてクルマの使い方が異なります。 つまり、それぞれに相応しいカーボンニュートラル実現に向けた歩み方、カーボンニュートラルという山の登り方が必要になるのです。 トヨタはグローバル企業として、その全ての人たちに寄り添い続けるために、多くの選択肢を用意しております。 「誰ひとり取り残さない」「すべての人に移動の自由を」。 そう願い、日々努力を続けております

参考:トヨタが多くの電動車(選択肢)を作る理由|トヨタ自動車WEBサイト

ホンダ

ホンダではEVを取り巻く環境が国によって異なる状況を踏まえ、地域ごとに異なる戦略で電動化を加速させる考えを持っています。

  • 中国戦略
    2027年までに合計10機種のEVを投入/全モデルにおいて完全EV化の達成時期を2035年に前倒し
     
  • 北米戦略
    2024年に「Prologue」と「ZDX」を発売/2025年に中大型EVを投入後、EV専用プラットフォームのラインアップを順次拡大/充電ステーションへ投資
     
  • 日本戦略
    2026年までに4機種のEVを投入(2024:N-VANベースの軽商用EV、2025:N-ONEベースのEV、2026:小型車カテゴリーで2機種のEV

参考:【図解】3分で分かるHondaの四輪電動化戦略〜電気自動車を取り巻く環境とHondaの目指す先とは〜|Honda Stories|Honda公式サイト

SUBARU

SUBARUではトヨタ自動車とバッテリーEV車(BEV)の共同開発を行いながら、お客様の期待に応える、SUBARUらしいBEVの開発に取り組んでいます。

“SUBARUのお客様の期待は、「安全性能」「AWD」「悪天候時の安定走行」「Fun to Drive」です。このお客様の期待に対して、BEVならではの「高応答なモータ制御によるトラクション性能向上」「前後駆動力配分の自由度を活かしたあらゆる走行環境での操縦安定性」を実現、提供したいと考えています。 SUBARUの長年のAWD技術ノウハウと、我々が独自に先行開発していたBEVの成果をこのプロジェクトに織り込み、トヨタ自動車とともに取り組む「もっといいクルマづくり」を通じて「SUBARUらしいBEV」を開発していきます。 このBEVは、2020年代前半の市場投入を目指しています

参考:「SUBARUらしさ」を際立たせる技術 環境技術|株式会社SUBARU(スバル)

自動車業界のカーボンニュートラルの課題:クリーンな燃料の供給

電動車を普及させる上では、水素や合成燃料、バイオエタノール燃料等のクリーンな燃料の供給が鍵になります。

例えば、FCV(燃料電池自動車)の燃料となる水素においては、水素の製造工程でCO2を排出してしまう問題、貯蔵・運輸コストの課題、水素ステーションの整備・運営コストの問題、FCV普及の課題など、問題や課題は山積みです。

自動車業界のみならず、他業界との協働や官民連携の取り組みが求められています。

クリーンな燃料の供給の取り組み事例

日本水素ステーションネットワーク合同会社

水素ステーションの整備・運営を行うインフラ事業者、自動車メーカー、金融投資家等が協業する形で2018年2月に設立された、日本水素ステーションネットワーク合同会社。

同社では、水素ステーションのネットワークを構築するため、水素ステーションの整備の加速と安定的な事業運営の環境づくりを目指しています。

参考:JHyMについて |JHyM 日本水素ステーションネットワーク合同会社

合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会

再生可能エネルギー由来の水素と、発電所や工場から排出される二酸化炭素や大気中の二酸化炭素を使って製造する合成燃料(e-fuel)は、化石燃料と違ってライフサイクル上で大気中の二酸化炭素を増やすことがないカーボンニュートラル燃料です。

この合成燃料の商用化には、技術面・価格面の課題に加え、認知度向上のための国内外への発信やサプライチェーンの構築、CO2削減効果を評価する仕組みの整備等の課題に対応するため、官民が一体となって取り組んでいくことが重要です。

このような背景から「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会」が設立され、合成燃料の商用化に向けた議論を加速させています。

参考:合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 (METI/経済産業省)

ちなみに、合成燃料の最大のメリットはエンジン車に利用できる点にあります(既存のガソリンスタンドを使用して供給することもできます)。

2030年台に突入すると販売される新車の多くが電動車になりますが、すでに利用されているエンジン車が電動車に置き換わるまでには一定の期間を要します。この期間、エンジン車のCO2排出量を減らす手段として、合成燃料が大きな役割を果たすと考えられています。

次世代グリーンCO2燃料技術研究組合

ENEOS、スズキ、SUBARU、ダイハツ工業、トヨタ自動車、豊田通商の6社は、燃料をつくるプロセスでの効率化を研究するため、次世代グリーンCO2燃料技術研究組合を2022年7月1日に設立しました。

本研究組合では、カーボンニュートラル社会実現のため、バイオマスの利用、生産時の水素・酸素・CO2を最適に循環させて効率的に自動車用バイオエタノール燃料を製造する技術研究を進めています。

<具体的な研究領域>

  • エタノールの効率的な生産システムの研究
    食料と競合しない第2世代バイオエタノール燃料の製造技術の向上を目指し、生産設備を実際に設計・設置・運転し、生産面での課題を明らかにし、解決方法を研究するとともに、生産システムの効率改善を検討します。
     
  • 副生酸素とCO2の回収・活用の研究
    水素製造時に副生成物として発生する高濃度酸素、および、バイオエタノール燃料製造時に発生するCO2の活用方法について研究します。
     
  • 燃料活用を含めたシステム全体の効率的な運用方法の研究
    エタノールの効率的な生産システムの研究で得られたバイオエタノール燃料を自動車等に使用した際の課題を明らかにし、解決方法について研究します。また、原料栽培の生産量から製造される燃料量までを予測可能とするモデル式を検討します。
     
  • 効率的な原料作物栽培方法の研究
    バイオエタノール燃料の原料確保のために、収穫量の最大化と作物の成分の最適化を目指し、最適な栽培方法を提案するシステムを開発します。土壌の成分調査などを通じて、収穫量の予測精度の向上を目指します。

参考:民間6社による「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」を設立

自動車業界のカーボンニュートラルの課題:LCAの実践

カーボンニュートラル実現の観点では車を「作る」「運ぶ」「使う」「廃棄・リサイクルする」という一連のライフサイクルの中で発生するCO2を意識することが重要です。

ここまでは、走行時に排出されるCO2を前提に話を進めていましたが、それは「使う」段階の話に過ぎません。

ライフサイクル全体でどれだけの CO₂ が排出されているのかを算出・評価する、LCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方を実践する必要があります。

LCAの実践の取り組み事例

日産

日産では、LCA手法を用いて、車の使用のみならず、製造に必要な原料採掘の段階から、製造・輸送・廃棄に至るすべての段階(ライフサイクル)において環境負荷を定量的に把握し、包括的な評価をしています。

“「日産リーフ」は日本の同クラスのガソリン車と比べ、ライフサイクルにおけるCO2排出量を約32%削減しています。2022年発売の「日産アリア」は、EV商品力の更なる向上と環境負荷低減を両立しています。航続距離を伸ばすと同時に、日本の同クラスガソリン車対比で、ライフサイクルCO2排出量を約18%削減しました。リーフ、アリアに続く量販乗用電気自動車「日産サクラ」は、ライフサイクルCO2を約17%削減しました。コンパクトなボディを維持しながらも、日常のドライブに十分な航続距離を手の届きやすい価格で実現し、電気自動車の更なる普及を促進します。

栃木工場で生産する「日産アリア」では、ライフサイクルの各段階におけるCO2削減の取り組みを強化しました。

製造段階では、材料の歩留まり向上、リサイクル由来の原材料活用などの継続的な活動により、CO2等価排出量の抑制に貢献してきました。2021年に栃木工場に導入した「ニッサン インテリジェント ファクトリー」により、車両組み立て時の生産効率を向上させるイノベーションの推進、工場で使用するエネルギーと材料の効率の向上、工場設備の電動化、再生可能エネルギーへの代替を図り、生産工場におけるカーボンニュートラルに取り組んでいます。

使用段階では、電動パワートレインの効率改善、補機類の消費電力削減、バッテリー技術の向上などによる電力消費効率の向上を進めていきます。また、使用段階での再生可能エネルギーの利用は、環境負荷低減に貢献します。

廃車段階では、クルマ用として使用されたバッテリーをさまざまなエネルギーの貯蔵用途、分散型発電に貢献するバッテリーエコシステムとして活用し、社会全体での低炭素化に向けた取り組みを推進しています。”

参考:ライフサイクルアセスメント(LCA)|日産自動車企業情報サイト

マツダ

マツダでは、LCAを車のライフサイクルにおける環境負荷低減の機会を特定する手段として2009年より採用し、各段階における環境負荷低減に向けた活動に積極的に取り組んでいます。

また、環境負荷を低減したクルマの開発・導入を推進するため、新技術搭載車の着実なLCA実施に加え、より適切な環境負荷の見方を得るための研究活動も実施しています。

研究活動事例:内燃機関自動車と電気自動車のCO2排出量の評価
マツダでは、各地域における自動車のパワーソースの適性やエネルギー事情、電力の発電構成などを踏まえた適材適所の対応が可能となるマルチソリューションをご提供できるよう、開発を進めています。2018年度には、世界5地域における内燃機関自動車と電気自動車のライフサイクルでのCO2排出量を評価し、地域毎の電力の状況や燃費/電費、生涯走行距離等によって、内燃機関自動車と電気自動車のライフサイクルでのCO2排出量の優位性が変化することが分かりました。こうしたライフサイクルアセスメントの結果を踏まえ、マルチソリューションでの技術開発を進めています”

参考:【MAZDA】LCA(ライフサイクルアセスメント)|サステナビリティ

カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内

私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。

私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。

一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。

カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信(たけだ のりのぶ)

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。

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