地熱発電の位置づけ(現状と目標)とメリット・デメリット、日本の事例
- 最終更新日:2024-09-24
太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーの普及を進めることは、カーボンニュートラルの達成の観点において必要不可欠なものです。
本稿では再生可能エネルギーのひとつである地熱をテーマに、地熱発電の位置付け(現状と目標)とメリット・デメリットを分かりやすく解説しつつ、日本国内における事例をご紹介します。
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カーボンニュートラルについての基本的な知識をインプットしたい方は下記の記事をご覧ください(カーボンニュートラルの意味や背景、企業の取り組み事例をわかりやすく解説します)。
地熱発電とは
地熱発電とは、地熱(地球内部の熱)を利用した発電です。
火山性の地熱地帯の地下1,000~3,000m付近にある地熱貯留層(地表面に降った雨や雪が地下深部まで浸透し、地熱によって加熱され、高温の熱水として蓄えられている層)から熱水や蒸気を地上に取り出し、タービンを回して発電します。
地熱発電の位置づけ(現状と目標)
日本は世界有数の火山国であり、日本国内には膨大な地熱エネルギーが存在していると言われています。
事実、エネルギー白書2024によると、日本は世界第3位の地熱資源量(2,347万kW)を有していることが分かります。その一方で、地熱発電の設備量で見ると、地熱資源量の多い国々との比較においては大きく後れを取っている状況があります。
地熱発電のメリット・デメリット
地熱発電のメリット
天候の影響を受けない(安定した発電量)&国産のエネルギー
太陽光や風力、水力などの自然由来の再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されますが、地熱発電は、季節や天候に左右されずに年間を通じて安定した発電量を得ることが可能です。
純国産のベースロード電源(季節や天候、昼夜を問わずに一定量の電力を安定的に低コストで供給できる電源)としての役割を期待されています。
発電用途以外にも活用可能
地熱発電に使用した熱水や蒸気は、温泉や暖房、ハウス栽培や養殖事業などに再利用することができます。
地熱発電のデメリット
発電所の建設が難しい
地熱発電の導入には、開発(地熱資源の場所の特定・掘削)に係る高いリスクとコスト、開発開始から発電所の稼働までに要するリードタイムの長さ(10年超の期間)、地域の理解など、様々な課題が存在しています。
日本国内の地熱発電の事例
三菱マテリアル
三菱マテリアルは、再エネ電力自給率100%を目指す上での鍵となる地熱発電の取り組みを積極的に推進しています。
同社のルーツである炭鉱や金属鉱山の開発を通じて培った豊富な経験と高い技術力を活かし、1974年に大沼地熱発電所の運転を開始。近年では、2024年3月に安比地熱発電所(出力14,900kW)の運転を開始しています。
“三菱マテリアルは、国の目標年である2050年度より5年前倒した2045年度をカーボンニュートラルの目標年とし、再生可能エネルギーの活用と温室効果ガス(GHG)削減に取り組んでいます。また2050年度には、自社で消費する電力に匹敵する再エネ発電を実現し、実質的な再エネ電力自給率100%を目指しています。
その成否を握るものこそ、地熱発電です。地熱資源に恵まれた日本では、天候に左右されることなく安定的に電力を供給できる地熱発電の可能性に大きな期待が寄せられています。三菱マテリアルは50年におよぶ地熱発電実績に基づき、安定した再生可能エネルギーの開発、発電事業を行っています”
オリックス
オリックスは、北海道内で2番目の規模となる地熱発電所「南茅部地熱発電所」の商業運転を2024年5月に開始しました。
“オリックスによりますと、「バイナリー方式」の発電所としては国内最大規模で、これまで難しいとされてきた比較的、低温の熱水でも発電できるということです。すでに運転を開始していて出力は6500キロワット、年間の発電量は一般家庭、およそ1万3600世帯分で、北海道電力ネットワークに販売しています。オリックスの高橋英丈環境エネルギー本部長は「北海道では泊原発が停止し需要に対して供給がぎりぎりなうえに、半導体工場の建設なども進んでいる。再生可能エネルギーを利用した発電所を近隣や自治体の協力を得ながらつくることは脱炭素に向けて重要だと思う」と話していました”
ベースロードパワージャパン×ふるさと熱電×旅館山翠
ベースロードパワージャパンとふるさと熱電と旅館山翠は、3社の協働のもと、温泉バイナリー発電「山翠パワー地熱発電所」(総出力99キロワット)の運転を開始しました。
“山翠パワー地熱発電所は山翠の既存温泉井戸から噴出する蒸気を利用して、2ヶ所に設置したバイナリー発電機(Climeon社製:スウェーデンに本拠を置くバイナリー発電機メーカー)まで蒸気の輸送を行い、蒸気と低沸点媒体を熱交換することで、タービンを回転させるバイナリー発電方式を採用しています。年間の発電力量は約700MWhを予定しており、これは一般家庭の約200世帯分の年間使用電力量に相当します。
発電した電力は、再生可能エネルギー特別措置法の固定価格買取制度(FIT)を活用し、九州電力送配電株式会社に売電します。またエネルギーの地産地消を目的に、余剰の温泉水や発電に使った蒸気を凝縮した熱水を、浴用として旅館山翠に提供します。
今回の協働事業は、豊富な地熱資源を活用して地域活性化を推進するふるさと熱電と、既存の温泉井戸を活用して旅館事業の価値向上を目指す山翠、そして再生可能エネルギーである地熱を通して地域創生を支援するベースロードパワーの想いが一致したことにより実現しました”
参考:「山翠パワー地熱発電所」運転開始〜地域創生企業、グローバル地熱開発企業、温泉旅館が協働し、地域の熱を活用して地域活性・再エネ促進〜|Baseload Power Japan
九電みらいエナジー
九電みらいエナジーでは、現在8つの地熱発電所を運営しています(事業パートナーとの提携、子会社による発電事業含む)。
- 大岳(おおたけ)発電所(14,500kW)
所在地:大分県玖珠郡九重町
運転開始:1967年8月
- 八丁原(はっちょうばる)発電所(110,000kW)
所在地:大分県玖珠郡九重町
運転開始:1977年6月
- 山川発電所(30,000kW)
所在地:鹿児島県指宿市
運転開始:1995年3月
- 大霧発電所(30,000kW)
所在地:鹿児島県霧島市
運転開始:1996年3月
- 滝上発電所(27,500kW)
所在地:大分県玖珠郡九重町
運転開始:1996年11月
- 八丁原(はっちょうばる)バイナリー発電所(2,000kW)
所在地:大分県玖珠郡九重町
運転開始:2006年4月
- 菅原バイナリー発電所(5,000kW)
所在地:大分県玖珠郡九重町
運転開始:2015年6月
- 山川バイナリー発電所(4,990kW)
所在地:鹿児島県指宿市
運転開始:2018年2月
- 霧島烏帽子岳(えぼしだけ)バイナリー発電所(4,990kW)
所在地:鹿児島県霧島市
運転開始:2026年度末(予定)
東芝
東芝では、地熱発電所の利用率向上に向けて、タービン発電機の劣化を防ぐ技術の開発と発電設備のトラブルをいち早く検知するソフトウェア開発に力を入れています。
“東芝は、タービン発電機の劣化に対して『スーパーローター技術』を開発しました。これは、タービンの材質やコーティングを工夫し、腐食を招く成分に対応するものです。この技術を導入した発電所は、10年以上の長期にわたってメンテナンスなしで運用でき、腐食に起因する重大な性能の低下も見られません。すなわち、タービン発電機というハードウェアの信頼性を向上できているのです。
さらにデジタル領域でも、私たちはIoTとAIを活用して価値を創造しています。プラント監視ソフトウェアEtaPROTM(エタプロ)により、発電所のさらなる利用率の向上を実現します。ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かせるのが、私たち東芝です”
カーボンニュートラルの取り組みを前進させるツールのご案内
私たちプロジェクトデザインでは、お客様のカーボンニュートラルの取り組みを前進させるために、社内の他部門やサプライチェーンで関わる取引先企業などの様々なステークホルダーの方々と一緒にプレイできるカードゲーム「2050カーボンニュートラル」を開発しました。
私たちが過去から現在にかけて行ってきた様々な活動が、地球環境にどのような影響を与えているのかをマクロ的に俯瞰することによって私たちの価値観や考え方に気づき、行動変容に働きかけるためのシミュレーションゲーム。それがカードゲーム「2050カーボンニュートラル」です。
一連のゲーム体験を通して「なぜカーボンニュートラルが叫ばれているのか?」「そのために私たちは何を考えどう行動するのか?」に関する学びや気づきをステークホルダーの方々と共有することで、その後の協働をスムーズに進めるための土台(共通認識や良質な関係性)を築くことができます。
カーボンニュートラルの取り組みを進める上で、ステークホルダーとの協働を必要とする組織にお勧めのツールです。ご興味のある方は下記より詳細はご覧ください。
この記事の著者について
執筆者プロフィール
池田 信人
自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。
監修者プロフィール
竹田 法信(たけだ のりのぶ)
富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー・株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、海外留学などを経て、地元・富山県にUターンを決意。富山市役所の職員として、福祉、法務、内閣府派遣、フィリピン駐在、SDGs推進担当を歴任。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへの転職を決意。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住。
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