バーチャルウォーターとは?水問題に取り組む企業や自治体の取り組み事例

本稿では、バーチャルウォーターの背景にある世界の水問題や、企業・自治体の水問題への取り組み事例を詳しくご紹介します。

Contents(目次)

バーチャルウォーターとは

バーチャルウォーターとは、食料を輸入した際に間接的に輸入している水資源量です。

例えば、日本では1kgのトウモロコシを生産するのに1,800リットルの水が必要ですが、これ(1Kgのトウモロコシ)を海外から輸入した場合、生産に必要な1,800リットル分の水を日本国内で使わずに済んでいることになります。

※ちなみに、海外では1kgのトウモロコシを1,800リットル未満の水で生産できる場合があります(地域によって単位収量が異なるからです)。そのため、バーチャルウォーターは単に「〇〇kgの〇〇を生産するのに必要な水の量」を意味するのではなく、「輸入した食料を自国内で作るとした際にどの程度の水が必要か」という、水資源量の推定である点に注意が必要です。

バーチャルウォーターとウォーターフットプリントの違い

バーチャルウォーターと似た概念に「ウォーターフットプリント」という言葉があります。

バーチャルウォーターでは 、生産される際に使用された水資源量 に注目しているのに対して、ウォーターフットプリントでは 、生産・輸送・消費・廃棄・リサイクルなどの全てのプロセスで使用された水資源量 に注目しています。

ウォーターフットプリントの考え方では、全ての品目は3種類の水が使われていると提唱されています(Water Footrpint Network)。

  1. ブルー・ウォーター
    商品の製造で使用されたり、人の体に入ったりする地上及び地下の水

  2. グリーン・ウォーター
    土壌の水分

  3. グレー・ウォーター
    生産過程で発生した汚染を低減させ、環境に還すために必要な水の量

バーチャルウォーターの背景にある水問題

「バーチャルウォーター」という言葉が、環境問題に関するキーワードとして注目されている背景には、世界の水問題があります。

先進国が食料の輸入を行い、海外から間接的に多くの水をバーチャルウォーターとして輸入している一方で、途上国では、自分たちの生活に必要な水を十分に確保できない中で、海外に輸出する農作物を生産するために自国の水資源を多く消費している現状があります。

世界の水の需給バランスの状況

もちろん、単にバーチャルウォーターを輸入していること自体が悪いわけではありません。

私たちの世界は、どの国・地域も同じ量の雨が降るわけではなく、地理的な影響により、水が豊富に恵まれた国と、水が不足している国に分かれます。そのため、例えば水資源が不足している中東の産油国では、食料を輸入することで自国内で水を使わずに済ませています。

このように、バーチャルウォーターの取引は、豊富な水資源に恵まれた国が輸出し、水不足が起こっている国が輸入することで水の需給バランスが取れている状態が理想です。

しかし、実際はそうなっていません。

世界のバーチャルウォーターの輸入量ランキングを見ると、年間の降水量が多く、水が豊富な日本やイギリスがランクインしています。水資源の豊かな国がバーチャルウォーターを多く輸入している(=他国の水資源に頼っている)ことで、世界の水の需給バランスが崩れてしまっていることに問題があるのです。

<世界の一人当たりの仮想水輸入量ランキング>

1位:オランダ
2位:イタリア
3位:ドイツ
4位:フランス
5位:イギリス
6位:日本
7位:中国
8位:アメリカ

参考:隠れた水|世界の水の日報告書2019

ちなみに、中国、アメリカ、パキスタン、インド、オーストラリア、ウズベキスタン、トルコは世界のバーチャルウォーターの輸出量が多い国であり、これらの国の地域はいずれも深刻な水不足や水ストレスの問題を抱えています。

※水ストレスとは、人口一人当たり最大利用可能水資源量が1,700㎥未満であり、日常生活を送る上で不便を感じる状態を指します。さらに、より深刻な状態(1,000㎥未満)を水不足と言います。

深刻化する水問題

偏ったバーチャルウォーターの輸出入を行っていれば、水不足が起こっている国ではさらに枯渇を招きかねず、水問題が深刻化する恐れがあります。

豊かな国は、水を使って生産される食糧を大量に輸入することができ、それにより貧しい輸出国の経済成長を促すことができますが、それが持続可能な形で行われなかった場合、貧しい国では農作物の生産にばかり水が使われ 、自国民が使用する最低限の量の清潔な水を確保できなくなってしまうのです。

また、人口の増加も水不足に拍車をかけています。

2022年11月、国連は世界の人口が80億人に到達したと発表しました。WMO(世界気象機関)が公表した予測では、地球温暖化や人口増加などにより、2050年までに世界で50億人、つまり2人に1人が水不足の状態に陥ると言われています。

水問題の解決に取り組む企業の事例

私たちの生活はもちろん、企業の事業活動も、水や自然の恵みによって支えられています。

そのため、企業には事業を展開している国や地域で、全ての人々が公平に清潔な水を利用する権利を守る責任があるといえます。

ここからは、水問題の根本的な解決に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。

クボタ【世界中で最高水準の水インフラ整備】

農業機械メーカーであるクボタは、事業を通じて世界の水循環を支え、安全な水の供給と再生を目指す取り組みを行なっています。

地震に強い耐震型ダクタイル鉄管を始め、ポンプ、バルブ、浄水、排水システムなど、水の循環に広く関わってきたその実績と技術を世界中に展開。中東諸国の水インフラ、ミャンマーの水処理施設、地震が多いアメリカ・カリフォルニア州での耐震管の導入など、各国の事情に合わせたソリューションを提供しています。

また、クボタは技術・製品の開発や施設運用で培ってきたノウハウをもとに、IoTを活用しています。管路や施設から得た情報をデジタル上で活用し、自治体によるインフラ経営を含め、さまざまな面で効率化・省力化を行うことで、より持続可能性が高い水環境インフラの構築・運営に貢献しています。

参考:水分野での取り組み サステナビリティ|株式会社クボタ

三菱ケミカル【分散型水処理・給水システムによる安全な水供給】

三菱ケミカルグループは、水資源保全を環境保全の重要な活動の一つと位置づけ、さまざまな活動を通して世界の水問題の解決に貢献しています。

特に三菱ケミカルが開発・製造した「分散型水処理・給水システム」は、長年培ってきた膜ろ過の技術によって、さまざまな水源から安全な水が得られるシステムです。このシステムは、以下のような特長を有しています。

  • 車数台分の面積で設置ができ、少ない投資で設置可能
  • 水源の種類や性質、浄水後の用途と供給量によって最適なシステムが選択可能
  • 遠隔監視システムを用いて、安全で安定した給水が可能
  • 工期が短いため、設置から給水可能となるまでの期間が短い
  • 給水設備のメンテナンスにかかるコストと手間が少ない
  • 給水設備の維持・管理に必要なトレーニングが容易
  • 災害に強い給水ライフラインの確保が可能
  • 開発途上国の農村部・遠隔地などの水供給において、公共水道を補完できる

このシステムを応用し、国連開発計画(UNDP)との共同事業として、ケニア東部マチャコス県のコミュニティに近隣の運河から引いた水を浄化して地元住民に供給する事業を展開しています。

安全な水を供給すると同時に、浄化した水を地元住民が近隣の人々に販売して現金収入を得る浄水ビジネスモデルを開発したり、その地域の農業振興にも力を入れるなど、地元住民の経済的自立も支援しています。

参考:SDGsへ向けた取り組み|分散型水処理・給水システム|三菱ケミカル

花王【排水による環境負荷が小さい製品の開発】

花王では、水の問題を企業のリスクと捉えるとともに、水使用量削減などを通して社会的課題の解決に貢献し、花王の存在価値を確実にしていく「機会」であると考えています。

花王の事業活動にとって、水は不可欠です。

液体の洗浄用製品の原料に水を使うだけでなく、加熱・冷却・洗浄にも水を使います。消費者が花王製品を使う時も水が必要です。そこで同社では、製品自体の改良はもちろん、製品ライフサイクル全てにおける段階での水の利用効率改善や、工場における排水水質管理、排水による環境負荷が少ない製品の開発などを進めています。

<環境負荷が少ない商品例>

  • すすぎが1回で済む衣料用洗剤「アタック」
  • 従来品よりすすぎ水を20%減らすことができる「メリットシャンプー」
  • すすぎ水を10%減らせる「バスマジックリン」

また、工場ごとに水使用量の削減目標を設け、3Rの視点で水使用量削減や再利用に取り組んでいます。

  • Reduce
    ボイラー用水や冷却用水の再使用回数を増やし、水の使用量削減
  • Reuse
    雨水の緑地散水などへの活用
  • Recycle
    使用後の蒸気を積極的に回収、プロセスで利用した水を浄化して再利用する

参考:sustainability 水|花王

ネスレ【世界中で各地域に根ざした水問題解決】

ネスレウォーターズは、イギリスのバクストンでの洪水対策、パキスタンの持続可能な農業生産など、世界中で地域レベルの活動を行い、水保全と環境再生に貢献しています。

地域によって抱える課題もリスクも異なるため、解決策もさまざまです。そのため、各国政府や現地の状況に精通した専門家と協力して、個々の事例に取り組んでいます。例えば、温泉地で有名なイギリスのバクストンでは、地域のステークホルダーと協力し、自然を利用した実用的な洪水防止策を考案しました。

目的は、土壌により多くの水を保持して水が急激に川に流れ込んで氾濫が起こるのを防ぐことです。これはリジェネレーション(環境再生)に焦点を当てた自然なアプローチであり、生物多様性と二酸化炭素回収の推進を目指しています。

ネスレは、水問題を「社会全体とネスレの事業にとって、深刻で長期的なリスクとなる非常に切迫した国際的な環境問題」ととらえ、水資源への取り組みにおいて世界でリーダー的な役割を果たしています。

参考:地域の水問題を解決|サステナビリティ|ネスレ日本

WOTA【生活用水の98%を浄化再生する小型機器の開発】

WOTAは、生活用水の98%を自動で浄化し再生する小型機器を販売し、画期的な水の循環システムの構築によって水問題の解決を目指す、スタートアップ企業です。

2019年に販売開始された「WOTA BOX」は、水道のない場所での水利用を実現するポータブル水再生システム。災害時や大自然の中でも、シャワーや手洗い、洗濯機などに繋げて、排水の98%以上を再利用可能にすることで、いつでもどこでも安心安全の水を使うことができます。

他にも、「WOSH」という水道のない場所に設置でき、スマートフォン除菌機能がついている最先端の水循環手洗いスタンドも開発・提供しています。

WATAは、水不足を解消し、排水による環境汚染のリスクを最小化させ、そして災害時にも安全な水を供給できます。実際に、熊本地震や西日本豪雨、トルコ大地震などの際に「WOTA BOX」を持ち込んで支援活動を行い、これまでの災害現場で2万人以上に利用されています。

この画期的な取り組みがさまざまなメディアでも取り上げられ、世界中から受賞しているほか、2023年のG7広島サミットでも外務省から選定され、これらの最新機器が展示されました。

参考:ユニークな手洗い機が水問題解決の糸口に。「WOTA」が目指す豊かな社会とは|telling, 朝日新聞社

サントリー【自然界の水の健全な循環を目指す】

サントリーは「水のサステナビリティ」を事業活動における最も重要な課題と認識し、自然界における水の健全な循環に貢献しています。

サントリーグループの事業は、水や自然の恵みに支えられて成り立っています。「水に生かされ、水を生かす企業」であるという自覚のもと、貴重な資源としての水を守り、育み、大切に使う責務を果たしています。

そのため、事業における環境負荷低減だけでなく、

  • 「天然水の森」における自然環境の保全
  • 豊かな生態系の象徴である野鳥の保護の中庸性を社会と共有する「愛鳥活動」
  • 水の大切さを子どもたちに伝える「水育」
  • 日本で初めて、サステナブルな水資源管理の国際認証「AWS認証」を取得

など、自然環境の保全・再生につながる活動に取り組んでいます。

参考:水のサステナビリティ|サントリー

豊島【WWFジャパンと協働した持続可能なファッション事業】

大手ファッションブランドの豊島は、地球環境の保全とサステナブルなファッションの拡大に向けてWWF(世界自然保護基金)ジャパンと協働し、水問題に取り組んでいます。

ファッション業界は「石油産業に次いで世界で2番目に大きな環境汚染産業」と言われており、環境問題への取り組みが加速しています。WWFジャパンは森や海などの自然環境の保全、自然資源の持続可能な利用などを目指したプロジェクトを世界で展開している環境保護団体です。

豊島は、

  1. 「水スチュワードシップ」の推進
    「水の利用、化学物質の利用、排水」の水リスク課題についての改善活動。①豊島社内で実施する啓発セミナー②該当工場へのアンケートの順次実施③環境負荷の実態把握調査④改善活動計画を作成
     
  2. 自然由来原料に関する取り組み
    製品や付属する資材に使用する自然由来材料につき、トレーサビリティがとれている、かつサステナブルな認証が得られた素材の調達を強化する。

(例)生産者の顔がわかる「トルコオーガニックコットン」や、水の使用量を67%カットした「サステナブルデニム」、持続可能な林業の樹木パルプのみを使用した再生セルロース繊維である「テンセル™」 など

といった取り組みをWWFジャパンと協働して開始し、地球環境保全と持続可能なファッション事業の拡大を目指しています。

参考:豊島とWWFジャパンがファッション業界のサステナブル世界標準推進のため、日系ファッション企業として初の連携|豊島株式会社

Reclis【10秒で汚水を浄化できるタブレット錠剤】

Reclisは、災害やアウトドアの時に、河川水などを誰でも簡単に浄化できるタブレット「WATAB(ウォータブ)」を提供しています。

浄化したい水をペットボトルに入れ、WATABタブレットを1つ入れて振るだけで、きれいな飲み水へと浄化できます。

2012年、この錠剤はJICAが主導する発展途上国浄水事業に採択されました。ベトナム北部のハティン省のヒ素中毒に苦しむ地域において、飲料水基準の10倍以上のヒ素を含んだ水を、安全な水の基準値にまで下げることに成功しました。この錠剤では、災害の備蓄やキャンプなどのアウトドアで汚水の汚れを取り除くことだけでなく、人体に影響のある重金属をも取り除くことが分かっています。

ODA事業などで大型浄水器や淡水化設備など多額の支援がされていますが、支援対象は大都市近郊に限られている中で、WOTABの浄化技術は、支援の届きづらい郊外で生活している人々にも安全な水を届けることができます。

参考:10秒振るだけ!あらゆる汚水をきれいにする浄水タブレット「WATAB」|YAMAHACK

アサヒグループ、LIXIL、パナソニック【ウォーターエイドへの寄付】

「今から水問題に取り組む事業を立ち上げるのは難しい」。そんな場合は、寄付を通して世界の水問題の解決に貢献することができます。

ウォーターエイドは、水・衛生分野に特化して40年以上も活動してきた国際NGOです。「すべての人が、すべての場所で、清潔な水と衛生を当たり前に利用できる世界」の実現を目指し、清潔な水やトイレ、衛生習慣を届ける活動を行っています。

アサヒグループ、LIXIL、パナソニック、他多数の日本企業がウォーターエイドに寄付を行い、水アクセスの改善や感染症の拡大防止に関する活動を支援しています。

参考:ウォーターウィドのパートナー・連携事例|ウォーターエイド

水問題の解決に取り組む自治体の事例

ここからは、水問題の根本的な解決に取り組んでいる自治体の事例をご紹介します。

地域の水問題に対して、長期間向き合い続けることで大きな事を成し遂げる。そんな粘り強さ・力強さを感じられる事例をご紹介します。

熊本県熊本市【水田涵養などの取り組みによる地下水保全】

熊本市は、2013年3月22日の「世界水の日」に国連「生命の水」最優秀賞を日本で初めて受賞しました。この賞は、世界の都市で行われている特に優れた水管理の取り組みを表彰しているものです。

熊本市は、74万人の市民の生活用水を100%地下水でまかなっていますが、その地下水が減少傾向にあることから危機感を感じ、水保全の取り組みが進められました。

主な取り組みは、

  • 水源かん養林の整備
  • 水源の森づくりボランティア制度を通した、市民参加での森づくり
  • 水田での水張りを促進(水張りを行う農家に助成金交付)
  • 地下水質の監視と調査
  • 節水市民運動の取り組み

などがあります。地下水減少の原因は田んぼという灌漑装置が減ったことでした。熊本地域の1年間の地下水涵養量(地表の水が地下にしみこむ量)6億4000万トンのうち、3分の1を水田が担っています。

熊本市の地下水減少が報告された時期に、ソニーの半導体工場が地下水涵養地域に進出することになりましたが、半導体生産は地下水を大量に使用するため、地元に不安が広がりました。

これがきっかけとなって、さまざまな方策が検討された結果、ソニーは2003年度から地元農家・環境NGO・農業団体と協力し、地下水涵養事業をはじめました。協力農家を探し、稲作を行っていない時期に川から田んぼに水を引いてもらい、地下水涵養し、その費用をソニーが負担する仕組みです。

田んぼに水を張っておくことで、雑草が生えず草取りの手間を省くことができる、連作障害が起きにくくなるなど、農家にとってもメリットのある解決策です。

近年は「くまもと地下水財団」が協力金というかたちで、地下水を使用する中小企業などからお金を集め、田んぼでの涵養をすすめています。節水市民活動も熊本市民が一丸となって、継続的に行っています。

参考:節水で守ろう!熊本自慢の地下水|熊本市

富山県【クリーンウォーター計画】

富山県では、豊かな水環境を県民共有の財産として未来に引き継いでいけるように「富山県水質環境計画(クリーンウォーター計画)」を始めとした様々な取り組みを行っています。

※富山県は、立山連峰や黒部峡谷など世界的な山岳景観、豊かで美しい富山湾や森林、「名水百選」「平成の名水百選」に全国最多の8か所が選定されている清らかな水環境など、豊かな水と緑に恵まれています。

2022年に改定された「クリーンウォーター計画」ではSDGsの観点を取り入れ、「魚が住み、水遊びが楽しめる川、湖、海及び清らかな地下水」の実現を目指して、水質環境を徹底しています。

また、バーチャルウォーターによって海外から間接的に大量の水を輸入している問題についても認識し、水田フル活用による需要に応じた農産物生産や地産地消を進め、水の海外依存を改善する施策を推進しています。

参考:県が進めていること|富山県

大阪府大阪市【「水の都」再生まちづくりで自然との共生を取り戻す】

大阪府では「水の都大阪」再生に向けたまちづくりを進める中で、自然との共生を取り戻し、河川浄化など水資源の保全に取り組んでいます。

大阪は、古来より河川を利用した水運が盛んでしたが、陸上交通の普及や工業化の発展とともに川が埋め立てられ、人々は水辺から次第に遠のいてしまいましたが、今なお残る豊かな水資源を生かして「水の都」再生のまちづくりが行われています。

淀川などにおける公園緑地の創出、水辺環境づくり、道頓堀川沿いの遊歩道整備、ライトアップによる効果的な光の演出など、河川周辺において親水空間を整備しています。

他にも、「水資源がきれいだからこそ人が集う」という考え方に基づき、琵琶湖に生息する水質浄化の役目を果たすイケチョウ貝を入植したり、人工干潟の整備やりんくうタウンでの藻場造成に取り組んでいます。また、漂流ゴミや海底ゴミの回収を行うなど、海洋プラスチックゴミの削減に向けた取り組みも行なっています。

さらに、健全な水循環の再生に向けて、家庭でできる水循環の再生として「雨水利用」などにも取り組んでいます。雨水は誰でも使える天然資源です。大阪府の府立国際会議場、なみはやドームなどの施設では、雨水を集め植物への散水や、トイレの水などに利用しています。また、市民の雨水貯水タンクの購入に対して助成金を交付しています。

参考:大阪市水環境計画|大阪市

愛媛県松山市【大渇水への対策】

愛媛県松山市は瀬戸内海気候のため降水量の少ない地域であり、また急峻な地形から降った雨がすぐに海へ流れ出るなど、日本でも水資源に乏しい地域です。

平成6年の「大渇水」では1日8〜19時間の断水が4ヶ月にわたって行われ、トイレが流せない、渇水メニューの給食、手術や人工透析に影響など、人々の生活が不便になるほどの厳しい影響がありました。

そこで、松山市では水資源の有効利用を行うとともに、市民、事業者、市が一体となって節水を行い、渇水に強い都市づくりを進めてきました。「節水型都市づくり条例」を制定し、市民、事業者、市が一体となって取り組んだ結果、市民一人当たりの平均給水量が平成20年度以降トップクラスを維持し、全国でも屈指の節水型都市となりました。

しかし、ダムの貯水率はまだまだ低い状況にある松山市は、長期的な施策として新規水源確保を目指し、「下水処理水の工業用水への再利用」「海水の淡水化施設の建設」「雨水利用」「下水処理水の農業用水への再利用」などの検討を進めています。

参考:松山市の水問題への取り組み|松山市

水問題に対して私たちにできること

エシカル消費を通して世界の水問題を解決

水問題に対して、私たち消費者にできることはなんでしょうか。

一人ひとりが節水をすることはもちろん大切ですが、水の分布は地形的に偏っているため、日本人が節水をすることが直接世界の水問題の解決に貢献することは難しいかもしれません。

しかし、消費者が環境や社会の持続可能性に考慮してモノやサービスを選ぶ「エシカル消費」は世界の水問題に有効な解決策となります。

例えば、ある輸入食品があったとして、その食品は生産国の水資源を枯渇させないような方法で作られているか。あるいは、その製造元の企業は、世界の水問題を解決するために積極的に社会貢献をしているか。

多くの消費者がこうしたことを考えてモノやサービスを選択するようになれば、生産や流通に携わる企業の意識を変えていくことができます。

経済活動を通して、水問題の解決に貢献することができるのです(エシカル消費について、詳しくは下記の記事をご覧ください)

レインフォレスト・アライアンス認証

「レインフォレスト・アライアンス認証」とは、熱帯雨林や水資源の保護などに配慮した農園や、その産品でつくられた商品に付与される認証です。

この認証マークのマスコットにはカエルが使われており、カエルの生息個体数は健全な環境を指し示し、持続可能性の象徴となっています。認証されたことを示すカエルのマークがついた商品は、すでに日本のコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどでも購入することができ、エシカル消費をする際の商品選択の指標になります。

ぜひ、これからの商品選びに役立てていただければと思います。

世界にはどのような水の問題があるのか?

今回はバーチャルウォーターと水不足の問題に関する内容をお届けしてまいりました。

蛇口を捻れば安全でおいしい水が飲める。衛生的なトイレ環境が整備されている。私たちが暮らす日本という水に恵まれた国では当たり前のことかもしれませんが、世界に視野を広げると、それがいかに恵まれたことであるかに気づかされます。

水不足に限らない、水の問題があります。

具体的に、世界にはどのような水の問題があるのかについてご興味の有る方は、ぜひ、SDGs6「安全な水とトイレを世界中に」の記事をご覧ください。

この記事の著者について

執筆者プロフィール

氷見 優衣

神戸大学国際人間科学部環境共生学科の3年生(2023年時点)。高校生の時に参加したワークショップで体験型のゲームコンテンツを通した社会課題の解決や参加者全員が主体的に生き生きと議論できる「場づくり」に魅せられる中で、体験型ゲームの開発元であるプロジェクトデザインと出会う。2022年の8月より、同社の長期インターンシップに参加。大学で学んでいる知識を活かし、環境問題や社会課題、SDGsをテーマにした記事の執筆に取り組む。ジブリ映画が大好きで、趣味は絵を描くことと、カフェ巡り。

監修者プロフィール

株式会社プロジェクトデザイン 竹田

竹田 法信

富山県立富山中部高等学校卒業、筑波大学第三学群社会工学類卒業。大学卒業後は自動車メーカー、株式会社SUBARUに就職し、販売促進や営業を経験。その後、地元・富山県にUターン。富山市役所の職員として、環境モデル都市、環境未来都市、SDGs未来都市を担当。SDGsの推進にあたり、カードゲーム「2030SDGs」のファシリテーションを通して、体感型の研修コンテンツの可能性に魅せられ、プロジェクトデザインへ。ファシリテーターの養成、ノウハウの高度化などを通して社会課題の解決を目指す。富山県滑川市在住、地元・富山県滑川市総合計画審議会委員。

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