なぜ新聞社がカードゲームを制作したのか。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」のゲーム制作に至るまで

明治5年創業、日本で最も歴史ある地方紙「山梨日日新聞」を山梨県民に届け続けている、山梨日日新聞社。この新聞社とプロジェクトデザインが共同で制作したカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」の体験者が今、全国各地で増え続けています。2023年3月のリリースから、体験者数は2024年1月現在で延べ2,560名(23都府県)に上ります。

なぜ、地方紙を発行する新聞社が、オリジナルカードゲームを制作するに至ったのでしょうか。本稿では、開発の背景やゲーム制作に込められた想いを、インタビューを交えてご紹介します。

企業名 :山梨日日新聞社
業界業種:情報通信業
事業内容:山梨日日新聞の発行、電子版紙面や山梨を中心とした国内外ニュースの配信、展覧会やスポーツ大会の開催等
従業員数: 約170名(2024年2月時点)

課題
  • 山梨県民の多くが森林への関心が低く、SDGsの認知度も低い。

  • 子どもたちの間で「木を使うこと=悪いこと」のような間違った認識が散見されている。

  • 林業従事者の減少・高齢化が進み、間伐などの手入れがされない荒廃林が拡大している。
解決策
  • カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を制作し、SDGsや環境教育の導入ツールとして活用する。

  • 企業では社員教育やインターンシップ、自治体では森林環境譲与税の活用や普及啓発としてカードゲームの活用を広く促すことにより、県民の森林への関心度を上げる。
効果
  • カードゲームは山梨県内に留まらず全国各地に展開され、全国規模で広まりを見せている。

  • カードゲームを起点に、子どもたちが自ら探究学習を進めている。

  • 環境に配慮した紙と県産木材を使用した木製マグネットの導入により、持続可能な森林の活用に貢献している。

<お話を伺った方>(2024年4月時点の肩書きです)

〇山梨日日新聞社 メディア企画局メディアビジネス部長 秋山 高男様
〇山梨日日新聞社 メディア企画局メディアビジネス部 副部長 三井 将也様
〇アドブレーン社(※山日YBSグループ) 営業3部 部長 藤井 聖二様
※山日YBSグループは、山梨日日新聞社、山梨放送を中核とする総合情報メディアグループです。

秋山 高男様
三井 将也様
藤井 聖二様

<企業プロフィール>

“明治5(1872)年7月1日に創刊した、最も歴史のある地方紙です。編集方針に報道を通して山梨の発展に寄与することを掲げ、県内のニュース、話題をきめ細かく取材し、国内外のニュースとともに掲載しています。県民の閲読率は高く、幅広い世代に読まれています”

参考:会社案内|山梨日日新聞インフォメーションサイト

きっかけは、山梨県の「SDGs認知度の低さ」

2021年7月1日。創立150周年という大きな節目を翌年に控えた山梨日日新聞社が、地域貢献に繋がる広告企画展開のため「やまなしSDGsプロジェクト」を立ち上げました。

“「すべての人に健康と福祉を」「働きがいも経済成長も」「陸の豊かさも守ろう」-。SDGsが掲げる目標は多岐にわたります。誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて、山梨県内においてSDGsにつながるさまざまな活動を推進していくのが「やまなしSDGsプロジェクト」です”

参考:やまなしSDGsプロジェクト | 山日YBSグループ あなたの、いちばんメディア。

本企画の担当者である、山梨日日新聞社 秋山高男さんは次のように当時を振り返ります。

“地域の新聞として150年の間、購読いただき支えられている中で何をすべきかと考えていました。そんなときに、たまたま民間会社のある調査を見て、山梨県のSDGs認知度が全国でも低い後発県だと知りました。これはメディアとしてもっと発信しなくてはならないと、2021年7月1日に「やまなしSDGsプロジェクト」をスタートさせました”

秋山さんが語られているように、2021年当時に発表された「ビジネスパーソンに聞く都道府県『SDGs認知度』ランキング」で、山梨県は47都道府県中44位という位置付けでした。

参考:ビジネスパーソンに聞く都道府県「SDGs認知度」ランキング<2021>

ここから「誰ひとり取り残さない」SDGsの基本理念を広く浸透させ、未来を担う子どもたちのために動き出そうと、具体的な取り組みがスタートします。

SDGsに取り組むことは、子どもたちの未来を創ることに繋がる

プロジェクト始動以降、産学官民が手を携え学習セミナーを開催するなど、SDGsに関わる様々な企画が遂行されました。

1年目の取り組みの1つに、「わたしのSDGs宣言」があります。読者から募った意見を新聞に掲載する中で、小学生から寄稿された宣言が、2年目の「moritomirai(モリトミライ)プロジェクト」に大きく繋がりました。

それは、

  • 森を守るために木を使わないようにしよう
  • 木を使うこと=悪いこと

等の、間違った認識に基づく宣言でした。

「わたしのSDGs宣言」の紙面(写真提供:山梨日日新聞社)

世界的には、木材需要の高まりに対して供給が追い付かず、違法伐採や原住民の暮らしを脅かすような開拓が行われるなど、様々な問題が生じています。しかし、日本においては逆の現象が問題になっています。つまり「森を守るためには、木を使うべき」で、木を適切に使い新たに植える好循環を生み出すことが求められているのです。

日本の森林の現状について、秋山さんはこのように述べています。

“かつて日本の人工林は、薪や材木の供給源として人々の生活に欠かせない存在でした。人が植樹や下草刈り、間伐などを行って管理していましたが、この50年ほどで生活様式が一変したことを受け、森林を取り巻く環境も大きく変化。電気とガスの普及、安価な輸入材の需要増などによって薪や材木の価値が低下し、人は次第に森林に手を掛けなくなりました。放置された森林は荒廃し、土砂災害の起きる危険性が高まったり、二酸化炭素の吸収量が減少したり、動植物や昆虫が生息できなくなったりと、負の影響が出ています”

プロジェクトの起点である山梨県は、県土の78%を森林が占める「森林県」です。水資源豊かな富士山の麓・山梨で子どもたちの間に間違った認識が根付いてはいけないと危機感を持ったことから、2年目に森林の持続的な活用を目指す具体的なアクションを起こしました。それが「moritomirai (モリトミライ)」プロジェクトです。

企画名の「moritomirai」には「森と暮らす未来を考える」という意味が込められています。このテーマ設定に関して、三井さんは次のようにコメントされています。

“創刊150年を迎える2022年7月1日に、地域課題にアプローチする企画をスタートさせたいと考え、山梨がどのような問題を抱えているのかを調べました。もちろん、他の地域同様に様々な問題がありますが、「わたしのSDGs宣言」を通して子どもたちが日本の森林の現状を知らないこと、そして私たち自身も身近な自然である森林に関心がないこと、この2つを実感しました。森林荒廃の課題は、私たちにとって最も「自分事」として捉えることができたため、テーマに設定しました。「moritomirai」は、山梨や日本の未来にとって価値ある取り組みだと思っています”

このプロジェクトは山梨発ではありますが、森林の荒廃や森林に対する地域住民の意識が決して高くないことは山梨県に限った話ではありません。そこで、県の枠を超え、日本の森林が抱える問題・課題に関心を持ち、解決の入り口・きっかけになることを目指す。つまり、「森と暮らす未来を考える」手段として、オリジナルカードゲーム開発の話が持ち上がりました。

カードゲームの制作を検討するにあたり、人と組織・社会の課題をビジネスゲームで解決してきた実績を持つプロジェクトデザインが参画。ゲームを制作する上で大切にしたのは、「一人でも多くの人に現状を知ってもらうこと」でした。 “ゲームを作るプロ” と “取材のプロ” が互いの強みを活かし、森林・林業の現状を盛り込んで完成したのがカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」です。

カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」をプレイする様子

カードゲームに期待する役割

ゲームの概要

カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」は、小学校高学年から大人まで、幅広い年齢層を対象としたカードゲームです。山の所有者、森林組合、猟師、行政職員、住宅メーカー、学校の先生など様々な仕事やゴールを持った10種類のプレイヤーたちが、仕事や生活のアクションを繰り返し、森と私たちの未来が刻々と変化する中で「森の未来」について考えます。

参考:カードゲーム「moritomirai」とは | 株式会社プロジェクトデザイン

このゲームを通して得られる学びは、大きく分けて3つあります。

<ゲームで学べること>

  1. 森の役割と私たちの生活との関わりや​正しい知識の理解
  2. 協働歩調の必要性
  3. 経済活動と森林資源の好循環を生むことが持続可能な森作りへ繋がる

ゲームならではの「楽しさ」が主体的な学びを引き出し、ゲームによる疑似体験やゲーム実施後の振り返りが、「実践=行動」への橋渡しを行う。ゲームを通して正しい知識が身に付き、森林を持続的に活用していくためにどんな行動が必要か、参加者が「気づき」を得ることに繋がります。

全国での広まり

2022年11月からテスト体験会を開催し、その後全国各地で展開。2024年1月現在カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」の体験者は全国23都府県で延べ2,560名。ゲーム運営を担う公認ファシリテーターは52名に上ります。山梨県に留まらず、学校での探求学習、一般市民向けのワークショップ、企業の社員研修など幅広いシーンで活用されています。

“山梨県内の多くの学校で活用いただき、体験者は小学校・中学校・高校の計9校、491人に上ります(2024年1月現在)。総合的な学習の時間として2・3校時(休み時間含む)を使って実施させていただくことが多く、事前学習として簡単なワークシートにも取り組んでもらっています。カードゲームを体験すると、子どもたちが森林の課題を自分事として考えてくれるようになり、私たちもとても嬉しく思っています。実施校を管轄する教育委員会の方が視察に来てくださることも多く、このカードゲームが広がっていく手応えを感じています”

山梨学院小学校でのカードゲーム実施の様子

“本カードゲームを起点に、JT山梨支社様との協業事業が生まれました。JT山梨支社様は、山梨県小菅村の「JTの森 小菅」で森の手入れ・管理を継続的に実施されており、年に数回、社員やその家族と森林保全活動を現地で行われています。しかし、地元の方々に「JTの森 小菅」の活動が伝わらないことが長年の課題でした。そこでJT山梨支社様・北都留森林組合様・弊社が協業し、カードゲームと森林体験を組み合わせたバスツアーを企画・実施しました。小学生とその保護者の方々に多数ご参加いただき、カードゲームで森について考えた後に森に入る体験をしていただきました。参加者からは「カードゲームで森への関心が高まった後に森に入ったことで、森の大切さを自分事化して学ぶことができました」と好評の声をいただきました。またJT山梨支社様からも、「カードゲームが現代社会と森との架け橋になり、森の大切さを伝えやすくなるため、継続的な企画にしていきたい」との声を頂戴しています。今後も県内外の企業の課題解決を「moritomirai」を通じて行っていけたらと考えています”

JT山梨支社様との協業イベントでのカードゲーム体験の様子
JT山梨支社様との協業イベントでの森林体験の様子

名誉あるアワードの受賞

これらの活動が評価され、カードゲームを含む「moritomirai(モリトミライ)」プロジェクト全体の取り組みが以下の賞を受賞しました。

1.日本新聞協会新聞広告賞2023「新聞社企画・マーケティング部門 奨励賞(第43回)」受賞

日本新聞協会新聞広告賞は、新聞広告の新しい可能性を開拓した広告活動を顕彰し、新聞と広告の発展に資することを目的に1981年に設けられました。「広告主部門」と「新聞社企画・マーケティング部門」の2部門があり、優れた広告活動を展開した広告主、新聞社に贈られます。

山梨日日新聞社は過去に1度奨励賞を受賞したのみだったため、山梨日日新聞創刊150年を機に始めた「moritomirai」は、新聞広告賞・奨励賞を受賞することも目的の一つとしていました。

2023年度は「新聞社企画・マーケティング部門」で新聞広告賞5件、奨励賞5件が選ばれました。このうち、「moritomirai」は、地域が抱える課題に対して新聞社のネットワークと企画力で応えた点が高く評価され、奨励賞を受賞することができました。

参考:やまなしSDGsプロジェクト「moritomirai(モリトミライ)」|新聞広告データアーカイブ

2.ウッドデザイン賞2023「ソーシャルデザイン部門 優秀賞(林野庁長官賞)」受賞

2023年11月には、ウッドデザイン賞 2023「ソーシャルデザイン部門 優秀賞(林野庁長官賞)」を受賞しました。

“「ウッドデザイン賞」は木の良さや価値を再発見できる製品や取組について、特に優れたものを消費者目線で評価し、表彰する顕彰制度です。これによって木のある豊かな暮らしが普及・発展し、日々の生活や社会が彩られ、木材利用が進むことを目的としています”

参考:ウッドデザイン賞:林野庁

受賞にあたり、以下のように講評いただきました。

“森林への無関心や資源循環の必要性が十分に理解されていない点に問題意識を持ち、新聞というメディアとコミュニケーションツールを組み合わせた、良質な啓発活動である。林産地域のみならず、都市部でも展開可能なメディアミックス型のコミュニケーションとして高く評価した”

参考:ウッドデザイン賞 受賞作品データベース | やまなしSDGsプロジェクト「moritomirai(モリトミライ)」 2023年受賞 優秀賞 (林野庁長官賞)

ウッドデザイン賞受賞の様子

3.都道府県別のSDGs認知度ランキング 全国7位に上昇

また、プロジェクト発足当時の2021年には「都道府県別のSDGs認知度」が全国44位だった山梨県が、2023年には全国TOP10入り。「都道府県別のSDGs認知度ランキング」で7位という好結果を収めました。

参考:ビジネスパーソンに聞く都道府県「SDGs認知度」ランキング<2023>

これらの結果が、名実ともに山梨県内及び全国規模でSDGs浸透に寄与したことを証明しています。受賞について、三井さんは以下のようにコメントされています。

“日本新聞協会新聞広告賞の奨励賞、ウッドデザイン賞2023の優秀賞(林野庁長官賞)を受賞することができ、大変光栄です。「moritomirai」を山梨県以外の方にも知っていただく、とてもいい機会になりました。各アワードで評価していただけたことを追い風に、今後も一層活動の輪を広げていきたいです”

環境に配慮した紙と県産木材を使用した木製マグネットの導入により、持続可能な森林の活用に貢献

そしてこのカードゲームには、適切に管理された森林から取れた木材資源紙と県産木材を使用した木製マグネットが導入されています。

カードゲームの実施により、個人の意識や行動に変化をもたらすだけではなく、カードゲームの制作においても持続可能な森林の活用に貢献しています。

次回の記事にて具体的にご紹介いたしますので、是非そちらもご覧ください。

ご案内

カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」は、ニーズに応じて様々なシーンで活用することが出来ます。​

森の現状に関しての正確な知識や理解がないために起きている様々な問題(木資源に関する誤解、森林の誤った活用、森に関して無関心な市民の増加)を解決する助けとなるツールです。

体験会も実施しておりますので、ご興味のある方はぜひ一度体験会にお越し下さい。

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