【研修事例】森林環境譲与税を活用した市民向けワークショップの開催と次世代教育(山梨県都留市)

本稿では、山梨県都留市にて2023年5月13日に森林環境譲与税を活用した市民向けワークショップでカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を実施した際の様子をお伝えします。

ワークショップ実施後には、主催の都留市役所様にインタビューし、今後の展望などについてお話を伺いました。

九鬼山池ノ山ハイキングコースから眺める富士山

都留市は山梨県東部に位置する、人口3万人程度の小都市です。

城下町の面影を残し、リニア中央新幹線の走行試験の見学ができる「山梨県立リニア見学センターがあることで知られています。 

また、日本 “新・花の百名山” に選ばれた三ツ峠山、二十六夜山といった個性ある山々や、平成の名水百選にも選ばれた「十日市場・夏狩湧水群」など、自然環境にも恵まれています。

都留市の森林面積は13,634ヘクタールあり、市の総面積の約84%を占めています。2019年4月1日に「森林環境税及び森林環境譲与税」が制定されたことを機に、都留市では将来の森林のあるべき姿を目指した取り組みが積極的に進められています。

今回は、その「森林環境譲与税」を活用した取り組みの一貫として、カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を活用したワークショップを開催いただきました。

<お話を伺った方>

都留市 産業建設部 産業課 課長 清水様
都留市 産業建設部 産業課 課長補佐 廣瀬様
都留市 産業建設部 産業課 農林振興担当 小俣様・加々美様

全国で初めて、森林環境譲与税を活用したワークショップでカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を実施

――都留市では森林環境譲与税を活用して、どのような取り組みが行われていますか?

小俣様:はい。取り組みの大枠は、①都市部向け環境教育の充実、②林業担い手不足の解消、③つる観光とのマッチングの3つです。

「つる観光戦略」の1つとして、富士山の麓の小さな城下町を演出するため、都留市役所の庁舎周辺に塗炭で着色した間伐材の「黒塀」を設置しています。ほかに間伐材の名札ケースも制作するなど、木材の利用促進につながる様々な取り組みを行っています。

また、林業担い手不足の解消のために「都留市森の学校」というプログラムを実施しています。チェーンソーの取り扱いや間伐のやり方など、森林整備に必要な知識を南都留森林組合の講師から学べるもので、参加人数も多く、今一番反響の良い取り組みとなっています。

加々美様:この「都留市森の学校」は、林業従事者だけでなく、一般の方にもご参加いただける幅広いプログラムを提供しています。

また、2022年度より中高生を対象に開催している「ジュニアフォレスターズクラブ」は、子どもたちに間伐など森の仕事を体験してもらう事業で、こちらも好評です。

森林環境譲与税は、間伐材を始めとする木材の利用促進はもちろん、人材育成・担い手の確保、普及啓発、森林整備などにも活用できます。現在の取り組みに加えて、今後もバランスよく活用を進めていきたいと思います。

参考:森林環境譲与税活用の方向性について|産業建設部 産業課

――今回、「森林環境譲与税」を活用してカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」をご体験いただいたのですが、どんな点に魅力を感じていただけましたか。

清水様:具体的に面白そうだと思ったポイントは、「森林循環が分かる」「役割があり、それぞれが動くと全体が変わっていく」「それをカードゲームでやる」ということです。

これなら楽しみながら森林について理解を深められると思い、依頼しました。森林環境譲与税を活用しての実施は都留市が最初だったと聞き、嬉しく思います。

林業に詳しくなくとも、森の問題や森林循環について楽しみながら理解できる

――農林振興担当のみなさまはカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を体験されていかがでしたか。

加々美様:私自身は農林振興を3年担当していますが、カードゲームで初めて知ることも多くありました。

例えば、林政(林業に関する行政)に携わっていても、木や森の状態などはデータで見ることが多いため、実態を把握しきれているとは言えません。ゲームを通して資源量などの流れをシミュレーションできることで、理解が深まったと感じています。

内容に関しても、1ターンの間に5年が経過することで自然災害が発生するなど、机上の空論でなく実際に起こり得ることを身に染みて感じられました。

廣瀬様:私は林業に関して詳しくない立場で参加しました。

ゲームでは参加者が10種類の異なる仕事に分かれますが、様々な立場から物事を考えられる点が良かったと思います。グループのメンバーをはじめ、全体と交流する中で、問題解決の順番を考える必要性に気づくことができました。

今回は人数が少なかったものの、参加人数が多くなれば役割ごとのメンバーが増えるので、話し合いによってより気づきが深まると思います。

――初の市民向けワークショップを開催された感触はいかがでしたか。

清水様:ワークショップ開催にあたって事前にゲームの内容をお伺いした時から、市民のみなさんに楽しみながら森林循環について理解してもらえるのではないかと思いました。

ワークショップ当日は、参加者の方が楽しそうに取り組まれている様子が伺えました。今回はお子さんも参加されていたことで、更にワークショップが活性化したと思います。大人だけで進めるよりも和やかな雰囲気で、意見も出しやすいように感じました。

コミュニケーションの必要性と、人とのつながりの大切さを改めて感じました。様々な方と一緒に森の問題を考え、関係性を作るきっかけになって良かったと思います。

加々美様:普段の私たちの企画では、森林に元々興味のある方が参加されることが多いのですが、このようなカードゲーム形式であれば、普段興味のない方にもとっつきやすく、理解しやすいと感じました。

物事のつながりや森林全体についての気づきを得るなど、子どもの可能性を広げる教育に活用

――今後は、カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」をどの様に活用していただけそうでしょうか。

清水様:カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」は森林の問題を考えるきっかけになり、コミュニケーション能力の向上にも役立つため、今後も教育委員会の生涯学習課と連携して活用していきたいと考えています。

まずは、小・中学生向けの青少年育成事業や放課後児童クラブのような場での取り組みから始め、最終的には学校教育へ導入できればと思います。

――ありがとうございます。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」のどのような点が、教育分野で活用するのに良さそうとお感じいただけたのでしょうか?

加々美様:今回カードゲームを体験して、森林全体を俯瞰して見ることができたと思います。

私たちが開催している中高生向けの「ジュニアフォレスターズクラブ」のワークショップは仕事体験のような内容が多く、森林全体のことはあまり考えないので、感じ取れる範囲が狭いと気づきました。カードゲームでの体験を通して、森林全体への学びも感じてもらえればと思っています。

清水様:市内に林を持ち、森林教育に取り組んでいる学校も多くあります。

ですが、森に行くだけでは森林の問題が様々な問題と密接に関わっていることを教えられないし、子どもたちも理解できないのではないかと思いました。こういったカードゲームで物事のつながりを体感することで、子どもたちも理解しやすくなると感じました。

――今後、カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」の実施を通して、子どもたちにどの様な機会を提供したいですか?

小俣様:子どもたちに、自分たちが今住んでいる場所には多くの森林があることや、森林がもたらしてくれる恩恵、現状のままだと訪れる恐れのあるリスクについて、ゲームを通して気づいてほしいと感じました。

単に森林のことを勉強するだけであれば、ワークショップでなくてもいいと思います。ゲームだからこそ感じられることや入ってくる情報を活かして、都留市の今の森林の状況について考えるきっかけにしてほしいと思っています。ゆくゆくは、将来就く仕事の新しい選択肢が生まれてくれれば嬉しいです。

研修内容

研修プログラム

  1. 導入(30分)
    ・ワークショップの目的共有
    ・チェックイン
    ・講義(森について)
  2. ゲーム体験(70分)
    ・ルール説明
    ・ゲーム実施
  3. ワーク(70分)
    ・対話(ゲーム体験を振り返る)
    ・対話(ゲーム内での森への関心度合いによる影響を振り返る)
    ・講義(日本の森の現状の説明)
    ・講義(豊かな森と未来のために私たちにできること、地域の取り組み紹介)
    ・対話(山梨の森林について、知っている問題や取り組みを共有、今後のアクションの言語化)

研修の様子

大人と子どもが一緒にチームを組み、カードゲームに取り組んだ様子

最初は同じテーブルの人としか交流が見られませんでしたが、ゲームが進行していくにつれて、テーブルを越えたコミュニケーションが活発になっていきました。

中には、状況のメモを取りながら周囲を確認し、コミュニケーションをとられている方もいました。

研修受講者の声

“自分の行動で森が変わるかもしれないことを知り、今後活かしていきたい”

“近視眼的に活動していたが、広い視野を持つことの必要性を理解できた”

“想定していたよりも深い仕組みだと感じた。地域の様々な人々とのコミュニケーション、情報共有、合意形成がなければ森の課題解決には繋がらないことを改めて実感した”

“ゲームの中身も深く、ゲームの後の振り返りの話、現状の話でより深みが出ていた。様々なことが見えないところでつながっていることをわかっていたが、改めて実感した”

今回のワークショップの様子を都留市のホームページでも紹介いただいています。こちらもご覧ください。

参考:「モリトミライ」カードゲーム|都留市

ご案内

山の所有者、森林組合、猟師、行政職員、住宅メーカー、学校の先生など様々な仕事やゴールを持った10種類のプレイヤーたちが、仕事や生活のアクションを繰り返し、森と私たちの未来が刻々と変化する中で「森の未来」について考えるゲーム。

それがカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」です。

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