探究学習とは何か?日本全国の探究学習の取り組み事例をまとめてご紹介!

未来を担う子供たちが、これからの社会を生き抜くために必要な能力を養える学習法として、探究学習に大きな期待が寄せられています。

その一方で、探究学習の場となる学校では「実際に取り組み始めたいが、どのように始めたら良いか分からない」「生徒の主体性を引き出すのが難しい」などの多くの課題あり、思うように探究活動が広がっていない現実があります。

そこで本稿では、探究学習に取り組む当事者の方々のお役に立つ情報提供を目的に、日本全国の探究学習の取り組み事例をご紹介します。

Contents(目次)

探究学習とは何か?

探究学習とは

探究学習とは、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習活動のことです。

答えの見つかっていない問題に対し、「自分なりの問いを立て、自分なりのやり方で、自分なりの答えにたどり着く」ことを大切にしています。

  1. 問題や課題の設定
  2. 情報収集
  3. 整理と分析
  4. まとめ・表現

この(1~4の)探究プロセスが繰り返される中で、はじめに立てた問いや課題そのものが問い直され、その質や精度が高まっていきます。

つまり、探究学習とは、これまでの暗記を主体とした勉強だけでなく、教科の枠組みを超えて、自ら興味や関心のある社会問題や課題について長時間・深く考え、解決するための発展的な学習であると捉えられます。

調べ学習と探究学習の違い

探究学習とは、“生徒の主体的な学び” を導き出すために調べ学習を発展させた学習法であり、両者には明確な違いがあります。

  • 課題・テーマの設定者の違い
    先生から課題を与えられるのは「調べ学習」。自分で問いを立てるのは「探究学習」
     
  • 学習の目的の違い
    課題の答えを調べて情報をまとめるのが「調べ学習」。課題の設定・調査・まとめと繰り返して主体的・対話的に学び、自分なりの答えを出すのが「探究学習」。
     
  • 協働的な学びがあるかの違い
    与えられた課題やテーマを調べて回答するのが「調べ学習」。対話的な学びや他者との協働が積極的に取り入れられているのが「探究学習」。

探究学習の事例紹介

探究学習とは、それぞれの学校の個別具体的な状況によって様々な取り組みが行われるものである以上、探究学習の取り組みに絶対的な正解は存在しません。

その上で、先進的な探究学習の事例の中には、その試行錯誤の中で培われた、探究学習の考え方・取り組み方のエッセンスが含まれています。

そこで本稿の事例紹介では、そのエッセンスを感じ取れるように、学校の概要・特色や探究学習に取り組み始めたきっかけ、探究学習の目的・ゴールや時系列での探究活動の流れをご紹介します(具体的な説明をさせていただく関係上、一つひとつの事例説明が長文となりますことを予めご了承ください)。

堀川高校(京都)|20年以上探究学習に取り組む先進高校

堀川高校は、実に20年以上もの間、探究に注力している先進的な高校です。

1999年に人間探究科と自然探究科の2つを設置後、国公立大学合格者数が前年の6名から106名に急増し、「堀川の奇跡」と呼ばれました。以来、地元の京都大学に毎年30人以上の現役合格者を出すなど、高い進学実績を維持しています。

堀川高校は “人は取り組みを通して成長する” という考えのもと「失敗のススメ」を重視しています。また、学科に関わらず、すべての生徒のカリキュラムに週に2時間の「探究基礎」という授業が設置されており、1年半かけて探究活動を行っています。

そして、クラスごとではなく、教師2名と大学院生1名が配置された約10人単位のゼミで活動を行い、最終的にはグループではなく個人単位で探究活動を行い、一人1本の論文を執筆します。

<堀川高校の探究基礎の流れ>

入学直後2日間:「DIVE」
2日間の研修プログラムで探究活動の進め方を体験する。

1年前期:「HOP」
講義やグループワークを通して探究学習の心得や作法を学ぶ。課題設定から課題解決までの流れを始め、主張を的確に伝えるための発表の仕方や論文の書き方を学ぶ。

1年後期:「STEP」
ゼミに分かれて各分野の研究手法を学ぶ

2年前期:「JUMP」
1人1つテーマを決め、実際に探究活動を行う。ポスター形式で中間発表を行い、生徒同士や教員からアドバイスや批判的な指摘を受け、プレゼン能力や批判力、判断力、質問力を向上させる。その後、他者からの指摘を反映して研究を進め、1人1本の個人論文を仕上げる。

進学実績だけを出そうと思えば、探究とは違う学習方法があるでしょう。しかし、堀川高校のように、大学に入ることではなく、学び続けること、卒業後も光る生徒を育てることを目的にするのであれば、探究活動は大いに役に立ちます。

参考:京大現役合格を急増させた堀川高校「探究」の今|東洋経済オンライン

隠岐島前高等学校(島根県)|離島の地域資源や課題を土台にした学び

隠岐島にある高校・隠岐島前高校は、地域資源や地域課題を教材にした学習を行い、教育を魅力化することで島の再興を図る取り組みによって全国から注目を集めています。

かつて、隠岐島前高校は「生徒数の減少→教員の減少→学校の魅力減少」という負の連鎖が起こり、廃校の危機にありました。

高校の存続問題は、島そのものの存続問題に直結する大きな問題ですが、同校では探究学習を主とした教育魅力化プロジェクトを開始し、10年間で生徒数やクラス数は倍増し、V字回復することができました。

そんな隠岐島前高校では、キャリア教育の全体目標として「グローカル人材(※)」の育成を掲げ、地域資源や地域課題をテーマにした探究活動を行なっています。

※「グローカル人財」とは、国際的な視野を持ち、地域社会に貢献できる人財(地域社会に貢献する夢や目標と、社会人として自立・自律に必要な資質・能力を兼ね揃えた、他に代わることのできない人財

<隠岐島前高校の探究活動の流れ>

1年生:地域資源を活用した学び
総合的な学習の時間(夢探究)や学校設定科目(地域生活学)などを通じて、地域資源や地域課題を土台にした学びを展開する。

様々な場面において「気づく→考える→話し合う→実践する・巻き込む→振り返る」のプロセスを大切にし、学習と行動の相乗効果を目指す。そして、2年から本気で取り組みたい共創のマイテーマ・ミッションを決めていく。

2年生:地域で学びながらグローバルにも挑戦
2年次には海外研修として、隠岐島前と同じく「島」であるシンガポールに全員が渡航。また、長期休暇を利用して、ブータンやロシアなどで探究する機会も設けられており、地域で学びながらグローバルにも挑戦できる教育プログラムが豊富にある。

この他、東芝国際財団のTYCAプログラムや、隠岐國学習センターでの英会話プログラムなど、意志があれば、様々な形でグローバルに学ぶプログラムが展開されている。同時に、これまで多数の外国人(マレーシア、グリーンランド、コスタリカなど)を受け入れており、多文化協働的に寮生活を送ることもできる。個人の短期留学や海外での学びを町が支援する制度も充実している。

このように、隠岐島前高校では、島全体が「学校」、地域の全ての方が「先生」となり、【地域と共に創る教育】を実践しています。

参考:特色のある教育プログラム|島根県立隠岐島前高等学校

福岡女学院中学校・高等学校(福岡県)|凛として花一輪プロジェクト

福岡女学院中学校・高等学校(中高一貫校)では、社会課題とキャリアを結びつけた、6年間にわたる探究学習カリキュラム「凛として花一輪プロジェクト」を設計。

生徒自らが情熱を持って解決したい社会課題(SDGs)を認識し、チームのメンバーと共に、その解決に役立つプロジェクトを実行したり、ソーシャルビジネスを生み出したりする探究活動を行っています。

この活動を通して「21世紀型学力」を獲得し、高校3年生で最終的に自分の目指したいキャリア・進路を選択することを目指します。

※「21世紀型学力」とは、問題解決に必要不可欠な「思考力」を中核とした、インターネットの普及にともなう情報社会化や多文化共生社会化が進む21世紀の社会を生き抜くための力を意味します。

<福岡女学院中学校・高等学校の探究活動の流れ>

中学1年:職業観・勤労観の土台を作る
自分が好きなことを探し、級友・社会人との対話を通じ、興味関心を広げ深める。

<カリキュラム例>
・カタリバ女学院その1
様々な職業人との対話を通して、自らの興味・関心を見つめ、働くことと社会の繋がりについて考え、将来の自分の働き方をイメージする土台を作る。企業や会社、NPO法人や個人事業主が社会貢献活動(CSR活動)をSDGsの視点でどのように展開しているのかを知り、次年度の活動へつなげていく。

中学2年:仕事と社会の繋がりを理解する
SDGsと会社のつながりを研究し、企業からのミッションに取り組む。

<カリキュラム例>
・SDGsについての学習(SDGs2030カードゲームの実施)
・SDGs企業ミッショングランプリ(企業紹介新聞の作成)

中学3年:SDGsと会社のつながりを研究し、企業からのミッションに取り組む
自分の生き方を探索し、目指すキャリアを暫定的に決める。

<カリキュラム例>
・SDGs起業体験プロジェクト
社会課題を解決するための起業アイデアをチームで考え、プレゼンテーションを行う。起業に関わる様々な社会人に評価・フィードバックをしてもらう。

高校1年:個人研究・発表の基礎スキルを習得しつつ、社会課題に意識を向ける
学ぶ意義を理解し、文章で論理的に自分の考えを伝える方法を身に付ける。また、SDGsの概要と社会課題の調べ学習、社会人との対話を通して、2年生で取り組みたいテーマを発見する。

<カリキュラム例>
・論理コミュニケーション小論文
・ミッション・キャリア・トレーニング
・社会課題について知る

高校2年:情熱を持って取り組みたい社会課題に取り組み、これからのキャリアで大切にしたいテーマを見つける
SDGsの視点から課題設定をし、社会課題解決のためのプロジェクトをチームで実行。これまでに身につけた小論文を書く技術を用いて取り組みを個人レベルでまとめる。

<カリキュラム例>
・プロジェクト小論文
・大切なひとりプロジェクト
・「SDGs2030カードゲーム」を用いたSDGsについての学習

高校3年:目指したいキャリアを選択し、 実現するための進路を決定する
これまでの学びをふり返り、志望理由書作成を通じ、第1進路を確定。

<カリキュラム例>
・志望理由書作成
「凜として、花一輪プロジェクト」で学んだことや高校2年生で書いた小論文を使って、自分が目指したいキャリアと進路について考察する。 志望理由書を書くことで志望進路の確定を促す。

同校では、探究学習の過程で必要な知識のインプットや探究の基礎的な進め方・スキルを身につけることも重視しています。なぜなら、生徒たちに事前の知識がなく、また、自分が何に興味があるのか理解していないと、生徒は探究学習で何をやっていいかわからず戸惑ってしまうからです。

参考:教育の特徴|福岡女学院中学校・高等学校

徳之島高等学校(鹿児島県)|地域課題をテーマとした探究活動

徳之島高等学校は令和3年に世界自然遺産に登録された「徳之島」にあり、「島の地域課題」をテーマとした探究活動を進めています。

約1年かけて課題解決策を考案し、最終的に舞台発表やポスター展示で紹介します。

*徳之島高校は、文部科学省の2022年度「地域との協働による高等学校教育改革推進事業」のアソシエイト校に指定されています。また、探究活動には、徳之島町の「ふるさと納税」が活用されており、高校生が自分たちの島について興味関心のあることに精一杯取り組めるように、活動経費の補助がされています。

各チームが取り組む課題は「医療」「観光」「教育」「自然」「情報」「農業」など様々な分野がありますが、どれも徳之島の貢献を目指すものです。以前発表されたテーマには、このようなものがあります。

・観光客への郷土料理紹介方法
・徳之島の生産品であるミキを使った料理の開発
・SNSによる徳之島の飲食店の紹介
・徳之島の牛について〜繁殖障害の解決に向けて〜
・徳之島に移住者を増やすためには
・島で働く魅力in医療

参考:令和3年度 生徒探究活動発表会|鹿児島県立徳之島高等学校

<徳之島高校の探究学習の流れ>

徳島高校オリジナルの探究学習は「ホエールタイム」と呼ばれ、2年次から1年間行います。

「徳之島への貢献」という地域性を活かしたテーマをもとにグループで課題に取り組みます。新しい価値観を見つけ、課題解決力が育まれるのはもちろん、地域の方々と積極的に連携することで協働することの大切さも学べます。

ソクラテスミーティングなどを通して得た知識をもとに課題研究をスタートさせ、各チームでフィールドワークや実験を行い、1年間の成果を3学期に発表することになります。

※ソクラテスミーティングとは、生徒が決定した探究課題に詳しい各分野(教育、経済、文化、観光、商品開発、環境、農業など)の専門の方を招いた、少人数・対話型の講話会です。

参考:徳之島高校で探究活動「ホエール・タイム」「深く 広く どこまでも」|奄美郡道南三島経済新聞

与論高校(鹿児島県)|定期考査と朝課外を廃止し、学習評価見直し

与論島は、沖縄の手前に浮かぶ人口5,000人ほどの離島です。その島にある与論高校は2022年末に『定期考査と朝課外を廃止』し、学習評価を見直したことで高校教育の領域で話題になっています。

2022年度からスタートした新学習指導要領では、新たに「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という3観点による評価が徹底されることになりました。

これらの新たに示された評価観点に対応するため、与論高校では『朝課外と定期考査』を取りやめました。そもそも定期考査は法に定められたものではなく、学校の慣例にすぎません。単元ごとの節目は教科ごとに異なるのに、時期をそろえてテストをすることにあまり意味はないと考えたのです。また、教員の働き方改革も踏まえ、朝課外活動を廃止しました。

その代わりに、各教科の単元ごとに分けた単元テストを「短いスパン」で実施しています。各生徒が何に得意・不得意を感じているかをより正確に評価でき、改善にも生かしやすいといいます。

その与論高校でも「総合的な探究の時間」が活発に行われており、生徒自身が設定した課題に対して、地域の協力のもと、自ら研究しています。定期考査の廃止により、探究活動に多く時間を割けるようになったようです。

<与論高校の探究学習のテーマ例>

  • 与論島の防災
  • 教育が充実した島になるために
  • 方言守ろうプロジェクト
  • 観光客を増やすには

このように、観光、防災、継承すべき文化、人口減少など、生徒ら自身が感じる与論町の課題について調べています。他にも、東京大学大気海洋研究所の協力を得て、自然科学分野についての課題研究に取り組んだり、「与論島の価値を書籍化する」企画(詳細はこちら)を実施したりしています。

この取り組みは「全国海洋教育サミット」での発表で優秀賞を受賞しています。

参考:「定期考査と朝課外」を廃止、与論高校が2年間で約30もの「見直し」ができた訳|東洋経済 education×ICT

王子総合高等学校(東京)|シャープ・TBSテレビと共にプロジェクト学習

全日制総合学科である東京都立王子総合高校は、3年間を通して「キャリア教育」に力を入れています。

偏差値は48くらい、大学進学率は例年40%程度でしたが、探究学習として「社会に開かれた教育」を始めた翌年、大学進学率が前年度比10%以上アップし、創立以降初めて50%を超えることができました。

<王子総合高校の探究学習(キャリア教育)の流れ>

1年生:産業社会と人間
総合学科では全ての生徒が履修する科目です。自己を知り、自己の在り方、生き方を探究します。また、科目選択に対する助言や進路指導などのガイダンス機能を充実させています。

2年生:総合的な探究の時間
自己の興味・関心をベースに、社会的な課題を見出し、情報を集め、整理・分析を行ないます。自らのキャリア形成と関連付けながら探究します。協働学習を行うことで主体的な行動力を導きます。

2022年の探究活動では、経済産業省が主催する「未来の教室」実証事業に参加し、STEAMライブラリーの教材を使った授業が行われました。生徒の希望で、シャープ(ものづくり×社会課題解決の探究)・TBSテレビ(世界遺産の探究)のどちらかを選択し、プロジェクト学習を進めます。

シャープを選んだ生徒は「イノベーションを通じた社会課題解決」というプロジェクトに取り組みました。AIやIoT技術を必要とする社会課題を発見し、その解決アイデアを考案・企画する課題解決型のプロジェクトです。製品・サービスの企画アイデアをまとめ、動画でプレゼンします。

TBSテレビを選んだ生徒は「自分の住む地域で新しい世界遺産候補を探し、ユネスコへの推薦書を作成しよう」というプロジェクトを進めます。すでに学んだ世界遺産の選定基準などの知識をいかして、「100年後まで遺したい我が町の世界遺産」を創り、生徒たちが身の回りで世界遺産にしたい場所を考えて、映像にまとめます。

3年生:課題研究
3年次の課題研究では、生徒各自の進路、興味・関心に応じて設計した課題に対して調査研究を行います。全員が自ら設定したテーマで論文を作成、発表する総合学科の集大成です。この課題研究の際、大学のゼミのような形式で生徒へのアドバイザーに教員が対応し、生徒一人一人の探究活動や進路活動をサポートしています。

進路部主任に着任し、同校の探究学習を進めている望月教員がインタビューの中で語っている内容(下記)は、現場で探究学習に苦心されている方々にとって、探究学習の考え方・取り組み方の指針になり得ます。

“生徒が『生涯学び続けたいことは何か』を考え、それをかなえるための進路に導くことが重要です。そのためには社会を知り、自分なりの展望を持つ必要がありますが、私たち教員が学校の中で示せる経験値にはあまりにも偏りがあります。『学校を社会に開く』探究学習では、生徒自身が『なぜ学ぶのか』ということを実感しやすい。つまり学習によって自分の物語を編むことができるということで、そのため、進路指導にも非常に効果があるのです”

参考:偏差値40台から筑波大も、大学進学率10%上げた都立王子総合高校の探究学習|東洋経済 education×ICT

教育NPOカタリバ(全国の高校)|小規模校の課題に学校横断型オンライン連携

教育NPO法人カタリバは、生徒数や教員数が少ない小規模校同士を連携させ、先生や生徒をオンラインでつなげることで探究の学びを深めるサポートを行っています。

コンセプトは「教育資源の共有」。実は、小規模校は探究学習に以下のようなハンディキャップを抱えています。

  • 探究学習を深めたいが、生徒数が少なく同じテーマで学び合える仲間がいない
  • 生徒が興味・関心のあるテーマに対し、詳しい先生がいない
  • 学校の外に頼ろうにも、周囲に大学がない、地域の産業に偏りがあるなど、多様な教育資源にアプローチすることが難しい

そもそも、学校全体で探究学習をどう進めればいいか手探り状態の先生も少なくありません。そこでカタリバは、生徒にも先生にも出会いの場を提供したいという想いから、【学校横断型の探究学習の授業(オンライン)】を行っています。

2021年から学校の公募を始め、現在までに全国から8校(岩手県立大槌高校、山形県立小国高校、熊本県立小国高校、茨城県立小瀬高校など)が参加するプロジェクトになっています。

1つの学校内では、自分のテーマに共感してくれる仲間がおらず、探究学習の入り口でモチベーションを失う子も出てしまいます。しかし、他校を探せば同じ興味を持った子はいます。そこで仲間を見つけることで探究への意欲も上がるのです。

また、小規模校の生徒たちは子どもの頃から同じメンバーで過ごしていることが多いので、他校生との交流は何よりの刺激になります。他校生とは絶妙な距離感を保てるので、むしろ自分の殻を破ったり、本音を話したりするきっかけにもなります。

カタリバでは、授業から発展してさらにテーマや企画を深めたい、他校生と話したいという生徒に向けて、放課後に希望者が集う会合を行っている他、教員向けにも探究学習に関する情報交換会を開催するなど、さまざまな連携活動に取り組んでいます。

参考:「小規模校の探究学習」、人手不足・知識不足の課題にオンライン連携が解決策|東洋経済 education×ICT

なぜ今、探究学習が必要なのか?

「予測困難な時代」に、一人一人が未来の作り手となる

探究学習が必要とされる背景のひとつに、誰もが「予測不可能で正解のないVUCA(※)時代」を生きていく力が求められているという現実があります。

※VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った略称。

近年、生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新などにより、社会構造や雇用環境は急速に変化しています。さらには、感染症の蔓延や環境問題、戦争や紛争の問題など世界情勢は混迷を極めています。

私たちは、まさに予測困難な時代の真っただ中に生きています。

このようなVUCA時代では、科学的根拠のある事実よりもTwitterなどのSNSの情報を疑うことなく信じてしまったり、「周りがこうしているから私も」というように周りに流されてしまっている人が少なくありません。

しかし、予測不可能で正解のない時代では、周りに流されたり、言われたことだけを行う「右にならえ」の状態では自分で考える力・創造する力が失われ、社会の変化や困難にぶつかった時に自分で問題解決ができず、立ち直れなくなってしまいます。

また、今は、IT技術の革新によって「単純な知識」や「定型的な答えを求める問い」にはAIが代わりに瞬時に解答できてしまう時代でもあります。

そのため、与えられたものや答えのあるものに向き合うのみならず、「自ら課題を発見し主体的に考える力」や「周囲を巻き込んで対話的に課題解決を進める力」などが社会で必要とされています。

それらの能力(や素地)を養っていく手段として、自分で問いや課題を発見し、協働して自分なりの答えを探す「探究学習」という学びの在り方が取り入れられるようになりました。

勉強する理由と目的が見つかる

社会や地域の問題解決、職業や自己の進路、国際社会の課題、文化や科学に関すること。

探究学習のテーマは様々なものがありますが、どのようなテーマであっても自分の知らない外の世界を知ることができる点は共通しています。

探究していく過程では、それらの外の世界を知ることを介して、自分自身を問う機会を得ることができます。自分が勉強していることが具体的にどのように役立つのか。自身が興味のあるテーマに取り組む上で、将来どのようなことを学ぶべきか。

自分自身の勉強する理由と目的が見つかることは、主体的な学習やキャリア選択へと直結するものであり、VUCA時代の変化の波(急激な外部環境の変化)を乗りこなす上でも大切なことです。

探究学習の課題と解決策の方向性

探究学習における「学校・教員」の課題

探究学習は新規性の強い取り組みです。

特に、ほとんどの教員は自分が学生時代に探究活動を経験したことはなく、探究の教え方も学んでいません。そんな中で、既存の取り組みと並行して探究学習に取り組むことは困難を極めるであろうことは想像に難くありません。

事実、ベネッセが公開する高等学校の学習指導に関する調査2021(約900校・3200人の高校教員が回答)によると、探究活動における学校・教員の課題が多岐に渡ることが読み取れます。

<探究活動における学校・教員の課題>

  • 活動のプロセスや成果を評価することが難しい:84.8%
  • 科学的に探究するための方法論を教えるのが難しい:84.6%
  • 探究を指導する時間が十分に取れない:84.6%
  • 熱心な先生とそうでない先生の差が大きい:78:3%
  • 教員間で指導のノウハウが共有されていない:77.5%
  • 生徒の学習にどこまで介入するかの判断が難しい:77.3%
  • 教科の学習指導よりも負担が大きい:75.6%
  • 大学や企業・NPOなどの外部機関との連携が難しい:72.6%
  • 教科の学習との関連づけが難しい:68.6%
  • 3年間の指導が体系化できていない:66.7%
  • 進路と結びつけるのが難しい:51.6%

参考:高等学校の学習指導の関する調査 2021|ベネッセ教育研究所

探究学習における「生徒」の課題

探究学習は、生徒の側にとっても新規性の強い取り組みであります。

これまでに学んできた教科では答えは教わるものだったものが、探究学習では自分で答えを見つけることが求められます。受け身ではなく主体的な姿勢が必要であり、かつ、主体的に学習に取り組む能力も要求されることになる以上、一朝一夕にはいきません。

上述のベネッセの調査においても、学校・先生側の課題と同様に、生徒の側においても様々なレベルの課題が存在していることが読み取れます。

<探究活動における生徒側の課題>

  • 探究に必要な教科の知識・技能が不足している:86.5%
  • 熱心な生徒とそうでない生徒の差が大きい:86.5%
  • 探究すべき課題や問いが設定できない:80.0%
  • 探究に取り組む時間が十分に取れない:76.9%
  • 受け身の姿勢が変わらない:76.5%
  • 思うように資質・能力が高まらない:76.1%
  • 情報リテラシーが身についていない:70.1%
  • 学習成果をうまくまとめられない:63.5%
  • 友達と協働して活動できない:34.4%

参考:高等学校の学習指導の関する調査 2021|ベネッセ教育研究所

探究学習における課題の解決方法

さて、ここまでは探究学習における学校・先生側の課題と、生徒側の課題を見てきましたが、これらの課題を解決するにはどうすれば良いのかについて、触れておきたいと思います。

まず、大前提として、探究学習の目的・ゴールはそれぞれの学校によって異なること、かつ、探究学習の課題は多岐に渡たることを踏まえると「これをすれば探究学習は全て上手くいく」という “魔法の杖” は存在しません。

その上で、個別具体的な課題においては、その課題解決方法というものがあります。参考までに幾つかの課題解決方法をご紹介します。

探究を指導する時間が十分に取れない課題の解決方法

ビジネスシーンでも同様ですが、何か新しい取り組みを始める上で最も効果的なことは、既存の取り組みを減らすことです。

「いやいや、それができたら苦労しない」と思われるかもしれません。確かに、既存の取り組みを減らすのは難しいものです。ですが、ここから目を背ける限りは、既存の取り組み分と新しい取り組み分の負担が、先生一人ひとりの肩に重くのしかかることになります。

既存の取り組みを減らすためには、探究学習に取り組む上で既存の取り組み・慣習を廃止した事例を知ることがお勧めです。例えば本稿でご紹介した与論高校(鹿児島県)では『朝課外と定期考査』を取りやめており、浮いた時間を探究学習に充てています。

もちろん、それぞれの学校にはそれぞれの事情があり、そう簡単に真似できるようなものでもありませんが、そういった事例を起点に、自分たちの学校でも何か類似のことができないか?と考えることは無駄ではありません。

科学的に探究するための方法論を教えるのが難しい課題・探究すべき課題や問いが設定できない課題の解決方法

学校・教員側も生徒側も、探究学習というものに不慣れである場合は、ツール(道具)を使うことが効果的な課題解決法になり得ます。

例えば、私たちプロジェクトデザインでは「カードゲーム × 探究学習プログラム」というカードゲームによる模擬体験と専用のワークブックを活用した、社会課題への理解と解決に向けた探究を進める総合的な学習(探究)のプログラム教材を提供しています。

こういったツールを上手く活用することで、探究学習の知識や経験、ノウハウ不足を補うことが可能です。

探究学習の指導が体系化できていない課題の解決方法

探究学習を通じて、どんなカリキュラムを実施するのかを体系立てて考えていられない場合、探究の目的・ゴールが明確ではないことに多くの原因があります。

堀川高校(京都)は「大学に入ることではなく、学び続けること、卒業後も光る生徒を育てること」を目的に置いているからこそ、1人1本の個人論文を仕上げることを目指すカリキュラムを実施しているように、明確な目的・ゴールというものは、具体的なカリキュラムがどうあるべきかを定義します。

少し遠回りになるかもしれませんが、そもそもの探究学習の目的・ゴールにまで立ち戻ってみることをお勧めします(結果的に、それが一番の近道になるかもしれません)。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

氷見 優衣

神戸大学国際人間科学部環境共生学科の4年生(2024年時点)。高校生の時に参加したワークショップで体験型のゲームコンテンツを通した社会課題の解決や参加者全員が主体的に生き生きと議論できる「場づくり」に魅せられる中で、体験型ゲームの開発元であるプロジェクトデザインと出会う。2022年の8月より、同社の長期インターンシップに参加。大学で学んでいる知識を活かし、環境問題や社会課題、SDGsをテーマにした記事の執筆に取り組む。ジブリ映画が大好きで、趣味は絵を描くことと、カフェ巡り。

監修者プロフィール

大槻 拓美(おおつき たくみ)

長野県伊那市出身、2001年4月伊那市役所入庁。徴税業務、結婚支援業務、地方創生担業務などを担当。プライベートでは高校生や大学生が地域と関わる活動の支援や、地区の交通安全協会会長を担うなど幅広く地域活動に参加。また、5,000人以上が参画する公務員限定SNSコミュニティ「オンライン市役所」で、LIVE配信 “庁内放送” のパーソナリティを務めた。カードゲームのファシリテーターとして高校や大学、企業などの研修会にも多数登壇。こうした活動を通じてゲーム開発元の (株)プロジェクトデザインの経営理念に共感し、2022年4月に同社へ転職。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームなどのファシリテーターを務める。

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