ICT教育とは何か?その意味と背景、学校の教育現場における事例

ICT教育の意味とICT教育が求められている背景、そして、学校の教育現場におけるICT教育の事例を分かりやすくご紹介します。

Contents(目次)

ICT教育とは

ICT教育とは、ICT(情報通信技術|Information and Communications Technology)を活用した教育です。

ICT教育は何を目指しているのでしょうか? その目的は、2019年に文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」が参考になります。

GIGAスクール構想は、1人1台端末を令和の学びのスタンダードとすることで、多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人ひとりに個別最適化され、資質・能力をより一層、確実に育成できる教育ICT環境の実現を目指すものです。

また、これまでの教育実践の蓄積と最先端のICTを掛け合わせることで教師と子供たちの力を最大限に引き出し、学習活動の一層の充実と、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善を目指していきます。

参考:GIGAスクール構想について|文部科学省

1人1台端末がもたらす効果とは?

GIGAスクール構想の要となる1人1台端末は、教育現場に対して具体的にどんな効果をもたらすのでしょうか。一斉学習・個別学習・協働学習のそれぞれの学習法における効果をご紹介します。

一斉学習における、1人1台端末の効果

教師が多数の子供に対して授業を行う一斉学習では、積極的な子供の挙手であれ、教師による指名であれ、一部の限られた子供の発表を通じて学習を進めることには変わりなく、一人ひとりの子供たちをフォローすることは困難です。

一方で、1人1台端末の環境では一人ひとりの子供の考え方や理解度を知ることができます。それにより、教師から子供たちへの一方通行になりがちな一斉学習を子供たちの状況を踏まえながら教える「双方向的な一斉学習」へと進化させることができます。

個別学習における、1人1台端末の効果

全員が同じ内容を学習することを基本とする学校の授業において、個別学習(個人の興味や理解度に応じた学び)は困難なものですが、それを実現するのが1人1台端末の環境です。

子供たちが同時に別々の内容を学習したとしても、1人1台端末の環境において個々の学習履歴がデータとして記録・共有されることで、教師はデータをもとにした適切な指導を行うことができるようになります。

協働学習における、1人1台端末の効果

子供たちがグループ単位で問題解決に取り組む学習法(子供たち同士が教え合い学び合う協働的な学び)を意味する協働学習は理想的な学習法ですが、意見を発表する子供が限られる、一部の声の大きい子供の意見に引っ張られやすいなどの問題があります。

1人1台端末の環境では、一人ひとりの考えを相互にリアルタイムで共有することができ、子供たちは多様な意見に触れることができます。それにより、子供たち同士の教え合い・学び合いを活性化することができます。

教師のためにもなる、ICT教育

ICT教育は、教育を受ける子供たちだけのものではありません。教育をする教師の側を力強く支援するためのものでもあります。

例えば、文部科学省が作成・公開している「教育の情報化に関する手引」の中では、教師の長時間勤務の問題を解決するための具体的手段を提示しています。

それは、教師が時間をかけて取り組むべきこと(児童生徒と向き合うこと)に集中できるようにするための効率化を目指す、統合型校務支援システムの導入です。

“学校における校務の負担軽減を図り,教師の長時間勤務を解消する有効な解決策として,統合型校務支援システムの導入があげられる。 統合型校務支援システムとは,「教務系(成績処理,出欠管理,時数管理等)・保健系(健康診断票,保健室来室管理等),学籍系(指導要録等),学校事務系などを統合した機能を有しているシステム」を指し,成績処理などだけでなく,グループウェアの活用による情報共有も含め,広く「校務」と呼ばれる業務全般を実施するために必要となる機能を実装したシステムである。

統合型校務支援システムを導入することで,それまで「手書き」「手作業」で行っていた業務をシステムを活用して行うことができるようになり,業務の効率化・負担軽減を図ることができる。また,学校や学級経営に必要な情報や児童生徒についての情報を一元管理し,共有することが可能となり,結果として教師が児童生徒と向き合うことができる時間を確保し,「教育の質的向上」につなげることができる”

参考:「教育の情報化に関する手引」について|文部科学省

ICT教育が求められる背景

内閣府の第5期科学技術基本計画において、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱された、Society 5.0という言葉があります。

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)を意味するSociety 5.0は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、デジタル化が進んだ社会像として位置づけられています。

“Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります”

参考:Society 5.0|科学技術政策|内閣府

このSociety 5.0の時代を担う子供たちは、情報活用能力をはじめとした言語能力や数学的思考力などこれからの時代を切り拓いていく上での基盤となる資質・能力を確実に育成していく必要があり、その手段として、ICT教育が求められています。

ICT教育に関する教育現場の事例

大阪府

大阪府では、小学校から中学校までのICTを活用した授業の実践事例を掲載しています。事例は学年別・教科別に整理されており、「学習の流れ」や「授業者の声(参考にしてほしいポイント)」などの第三者が事例を実践する上で参考になる情報が詰まっています。

“ 「Gigaスクール構想の実現」により、大阪府内の小・中学校に児童生徒向けの1人1台タブレットPC端末等が整備され、授業等の教育活動に活用されているところです。このページでは、児童生徒が1人1台タブレットPC端末等のICT機器を活用した授業等における実践事例を紹介しています”

参考:大阪府|情報教育

千葉県

千葉県教育委員会では、全50本のICT活用事例集を公開しています。それぞれの事例は図解を交えて簡潔に分かりやすくまとめられています。

区分ICT活用事例活動内容使用する機能
1お手本の動画を参考に真似しよう!ミシンの手本動画を視聴する。動画再生
ファイル共有
2かたちから見えるものを見つけよう!写真を撮り、加工する。カメラ
ペイント
3地域の今と昔を比べよう!地図資料から比較する。地図アプリ
プレゼンテーション
4バーチャル見学をしよう!地図アプリを使って見学する。地図アプリ
5実験の結果を予想しよう!アンケート機能を使って意見を集約する。アンケート

参考:ICT活用事例集|千葉県

文部科学省/mextchannel(文部科学省の公式チャンネル)

文部科学省が運営するYoutubeチャネルでは、ICT教育に関する様々なテーマの動画コンテンツを公開しています。動画は短いもので数分、長くても20分程度。隙間時間で気軽に視聴することができます。

<ICT教育に関連するテーマの動画のプレイリスト>

ICTの類語について

ICTとは何か?

この言葉の意味を理解する上では類語(意味が似ている言葉)との違いを掴むことが有効です。そこで本稿では、ICTの類語である「IT」と「IoT」について分かりやすく解説します。

ICTとIT

ICT(情報通信技術)とIT(情報技術)は、ほぼ同じ意味で使われています。

その上で、歴史的な背景としてはITという言葉が先にありました。IT製品の例としては、パソコン(ハードウェア)と、そのパソコン上で動くソフトウェアが挙げられます。

その後、インターネットや移動通信システム(3G、4G、5G)に代表される通信技術の発達の中で、ITに通信(Communication)の技術が標準的に用いられるようになる中で、ICTという言葉が一般的に用いられるようになりました。

今、私たちの日常生活や仕事の場面におけるITの利用シーンを想像してみても、

  • ECサイトでショッピングをする
  • SNS上に写真や文章を投稿する
  • データをオンラインで共有する

という具合に、私たちがIT製品・サービスを利用する上で、通信(Communication)は切っても切り離すことができないものであることが分かります。

ICTとIoT

IoT(Internet of Things)とは、あらゆるモノがインターネットに繋がる状態を意味する言葉であり、ICTの一種であると捉えることができます。

今、パソコンやスマートフォン(インターネット接続端末)に加えて、家電や自動車、建設機械や製造ロボットなど、私たちの生活や経済活動を取り巻く様々なモノがインターネットに繋がる「IoT時代」が到来していると言われています。

モノがインターネットに繋がることで生み出される新たな価値(※)は、私たちの生活をより便利にしてくれるものである以上は、IoTの流れは不可逆的に進んでいくことが予想されます。

※例えば、監視カメラ(モノ)をインターネットに繋げることで、リアルタイムで自宅のペットの様子を見守るオンラインサービスを実現することができます。例えば、腕時計(モノ)をインターネットに繋げることで、時計に記録された運動データを活用したヘルスケアサービスを実現することもできます。

ICT教育に関するよくある疑問への回答

ICTを活用した授業は、既存の授業と比べると学習効果が落ちるのではないか?

ICTを活用した授業について、これまでの調査研究の内容を見る限り、先生側・児童生徒側の両者が高く評価していることが分かります(下記参照)。

“学習指導でのICT活用による効果については、これまでの調査研究などから明らかになっている。例えば、平成18、19年度に実施された文部科学省委託事業による調査研究において、全国で実施された752件の検証授業を分析評価した結果では、ICT活用して授業を行った教員の98.0%が、「関心・意欲・態度」の観点において効果を認めていた。それ以外の観点(知識・理解、思考・判断、表現・技能・処理)や、ICT活用によって児童生徒が集中して取り組めるようになることや児童生徒が楽しく学習出来るようになること等についても、多くの教師が効果を認めていた。また、児童生徒に対する調査によれば、学習に対する積極性や意欲、学習の達成感など全ての項目について、ICTを活用した授業の場合の方が評価が高かった。さらに、児童生徒に対する客観テストの結果によれば、各教科の得点や「知識・理解」や「技能・表現」の観点で高い効果が得られた。以上のように、ICTを活用して学習指導することは、教師のみならず、児童生徒に対しても学力向上に高い効果があることが明らかとなっている”

参考:第5章 初等中等教育における学習指導でのICT活用|文部科学省

もちろん、このような結果をもって、ICTを活用した授業が優れていると断言できるわけではありません。同様に、既存の授業(先生が黒板に板書した内容を児童生徒がノートに書きとるスタイル)と比べて、ICTを活用した授業の学習効果が劣るということも言えません。

一つ、明確に言えることは、ICTを活用した授業と既存の授業にはそれぞれに優れた面があるということです。将来的に、ICTを活用した授業と既存の授業が互いを補完する形で、新しい授業を形作っていくことが期待されます。

この記事の著者について​

執筆者プロフィール

池田 信人

自動車メーカーの社内SE、人材紹介会社の法人営業、新卒採用支援会社の事業企画・メディア運営を経て2019年に独立。人と組織のマッチングの可能性を追求する、就活・転職メディア「ニャンキャリア」を運営。プロジェクトデザインではマーケティング部門のマネージャーを務める。無類の猫好き。しかし猫アレルギー。

監修者プロフィール

大槻 拓美(おおつき たくみ)

長野県伊那市出身、2001年4月伊那市役所入庁。徴税業務、結婚支援業務、地方創生担業務などを担当。プライベートでは高校生や大学生が地域と関わる活動の支援や、地区の交通安全協会会長を担うなど幅広く地域活動に参加。また、5,000人以上が参画する公務員限定SNSコミュニティ「オンライン市役所」で、LIVE配信 “庁内放送” のパーソナリティを務めた。カードゲームのファシリテーターとして高校や大学、企業などの研修会にも多数登壇。こうした活動を通じてゲーム開発元の (株)プロジェクトデザインの経営理念に共感し、2022年4月に同社へ転職。カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」「CHANGE FOR THE BLUE」カードゲームなどのファシリテーターを務める。

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