
【事例】主体的・対話的で深い学びを実現、山梨県内の教育現場で広がるカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」
森林の現状や持続的な活用について楽しく学ぶことができるカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」。山梨日日新聞社と株式会社プロジェクトデザインが共同開発しました。
2023年3月のリリースから3年弱の2025年12月末には、体験者数が累計1万人を突破しました。このうち山梨県では、全体の3分の1以上である3,574人が体験しています。
中でも、普及の大きな原動力となったのが、教育現場での広がりです。
今回は、山梨県の教育現場における導入の先駆けとなり、多くの学校へ本ツールを紹介してくださった山梨県甲斐市立竜王小学校 校長の松井 渉様にインタビューした内容をお届けします。
<お話を伺った方>
山梨県甲斐市立竜王小学校 校長 松井 渉様

カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」とは
カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」は、小学校高学年から大人まで、幅広い年齢層を対象としたカードゲームです。山の所有者、森林組合、猟師、行政職員、住宅メーカー、学校の先生など様々な仕事やゴールを持った10種類のプレイヤーたちが、仕事や生活のアクションを繰り返し、森と私たちの状況が刻々と変化する中で「森の未来」について考えます。

植林活動を「木を植えて終わり」にしないために
―カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」を知ったきっかけを教えてください。
松井様:2022年、前任の甲州市立菱山小学校でSDGsの学習を始めたばかりの頃に学校を訪問された山梨日日新聞社の秋山さんから、「こんなものがあるのですが」とカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」をご紹介いただいたのがきっかけでした。
子どもたちが環境や平和、人権などに関心を持って学習を進める中で秋山さんのお話を聞き、「それは面白そうだ」と直感的に思いました。
―他にも環境教育の教材がある中で、「やってみよう」と思われた決め手は何だったのでしょうか。
松井様:カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」が森の再生や保全について学べるツールであり、自分たちの故郷の森を守るためにどうすればいいかを考える非常に分かりやすい教材だったためです。
背景にあったのは菱山小学校が植林活動に取り組んでいたことが大きいです。総合的な学習の時間に、森の仕組みや役割、森林との向き合い方について学ぶ森林学習を行い、山火事で木が焼失してしまった場所に、地域の方々の力を借りながら毎年苗を植えています。もちろん「植えた木が育つ」ことでも森林学習は進められますが、「木を植えて終わりではなく、この体験を活かすことができないか」と考えていたため、導入を決めました。
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―ゲーム導入の背景には、植林活動が森林保全にどう結びついているかを子どもたちに知ってほしい想いがあったのですね。
松井様:そうですね。森の荒廃は、ただ木を植えるだけでは防ぐことができません。
子どもたちは植林の当日、山に登り木を植えるだけですが、地元の皆さんは日頃から下草刈りなどの保全活動をしてくださっています。お米作りに置き換えると、農家さんが田植えや稲刈りなど出荷まで大変な苦労をされているように、目に見えない苦労や背景があります。
そうした苦労や背景を知ってこそ、本当の意味での学習、深い学びになると考えています。このゲームは、そういった物事の「背景」を知るための非常に良いきっかけになると感じました。
自発的な対話と連携が生まれる仕組み
―実際に子どもたちが体験した時の反応はいかがでしたか。
松井様:前任の菱山小学校で初めてゲームを実施したところ、ゲームを進める中で「自分たちのグループだけでは解決できない」ということに子どもたちが気づき始めました。小人数の学校ゆえに元々仲の良い子たちでしたが、ただ「仲がいい」からではなく、お互いに相手のことを考えながら思慮深くゲームに取り組む様子が見て取れました。
これは、子どもたちの性格というよりもゲームの設計によるものだと思います。小学生らしい自分本位な考えや言動もある中で、「相手のことを考える一歩」が踏み出されたように思います。
―子どもたちがそのような考えを持つポイントは、ゲームのどこにあったと思われますか。
松井様:カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」は、自分たちの目標を達成するために他のグループと連携しなければならない仕組みになっていますよね。その「連携の必然性」がポイントではないでしょうか。やらされ感なく自発的に対話し、仲間と協力する流れが生まれていました。
普段の授業でも、1つのテーマに沿って「子どもたち自身に考えさせる」「話し合う時間を設ける」「自分以外の考えを知る」とステップを踏みながら学習しています。そうすると、自分で考えることができなかった子も相手の考えを知ることで新しい考え方ができるようになり、考えが深まります。
このように、学校生活を送る中で友達の意見を聞くことや協力・対話の重要性に気づいてほしいと思っており、このゲームではそれらが自然発生的に生まれる良さがありますね。
自分たちができるアクションへの気づき
―ゲーム体験後の子どもたちの感想で、印象に残っていることはありますか。
松井様:前任の菱山小学校では、ゲーム体験後にSDGsの学習が進んでいく中で、子どもたちからは「森の木を切って家を建てる」といった発想が出てくるようになりました。木を活用することで森を循環させる考え方に繋がっていったのだと思います。
もちろん、自分たちの力だけでは木を切って家を建てることはできません。しかし、自分たちができるアクションとして「この考えを大人に聞いてもらいたい」と、文化祭で発表の場が設けられました。そこで保護者に聞いてもらっただけでなく、当時の甲州市の市長・教育長、山梨県知事のところへも伺って発表しています。聞かれた皆さんからは、「子どもたちなりに一生懸命考えている」と評価をいただきました。
―先生が伝えたかった「木を植えて終わりではない」というメッセージが、ゲームを通じて子どもたちに伝わったのですね。「木を活用しよう」と思える子が一人でも増えているのは、大変嬉しいです。
松井様:そうですね。現在勤務している竜王小学校で実施した際に印象的だったのは、「バランスが大切」という言葉です。「環境と経済」「便利さと不便さ」のバランスを取る大切さを体感してくれたのではないかと思います。
ゲームでは、「環境に配慮しながら、経済をどのように発展させるか」を考え、「便利さの中で、不便さをどこまで許容できるか」を自らに問いながら、行動に落とし込んでいきます。
例えば、身近な「地産地消」で考えてみると分かりやすいかもしれません。地産地消は新鮮で美味しいものが手に入りますが、大規模農業に比べると生産コストがかかり、価格が高くなる傾向があります。一方で、遠方から運ばれてくる安い食材は、輸送時に多くの二酸化炭素を排出するという側面を持っています。
「安さ(経済性)」を優先すれば環境負荷が高まり、「環境」を優先すれば家計への負担が増える。一方で、私たちの生活を維持するためには経済成長が必要ですが、だからといって環境を犠牲にしていいわけではありません。どちらか一方が正解というわけではなく、その間のバランスをどう取るかという視点が不可欠です。
このようなことを、理屈ではなく感覚的に受け止めてくれたのではないかと感じています。
また「会社はお金だけじゃなく、信頼と協力が必要」と言っていたのも非常に印象深いです。普通に過ごしていれば、「会社はお金を稼ぐ場所」という認識止まりになりますが、ゲームを通じて「信頼と協力がなければお金を稼ぐこともできない」という経営の本質に気づけたのは素晴らしいことだと思います。

「主体的・対話的で深い学び」を実現できる教材
―松井先生が他の学校の校長先生にもご紹介くださり、山梨県内の述べ30校以上で開催が実現しました。他の先生方にも勧めたいと思ってくださった理由をお聞かせください。
松井様: 単純に、良いものだからです。理由は大きく2点あります。
1点目は、森が身近である学校も、そうでない街中の学校でも、ゲーム体験を通じて「森をどうやって守っていくか」を考えることができる点です。「この問題には、どういった背景や苦労があるのだろう」と考えることは、森林だけでなく漁業や農業など他の分野でも汎用できます。
2点目は、「対話が自然に生まれる」という点です。世の中には、森林保全に関わらず、協力しなければ解決できない問題が多くあります。それらを解決に導くための手法を学べると思っています。
現代の教育では「主体的・対話的で深い学び」が目指されており、このゲームではそれが実現できると感じています。
学習の中に組み込まれるため「主体的」に興味を持つことができ、問題を解決するためには必ず「対話」しなければなりません。そこで周りと協力しなければならないことに気づき、そこから次の問題を解決するためにどうすればいいかと自分たちで考える、つまり「深い学び」へと繋がっていきます。
そうした教育的価値が非常に高いと感じたので、皆さんにも紹介させてもらいました。
-他校にゲームを紹介いただく際、松井先生のお勧めの時間割があると伺いました。
松井様:そうですね。ゲームは全4ターンで行われ、前半(1・2ターン)と後半(3・4ターン)の間に長い休み時間を挟む授業設定を勧めています。小学校では2限目と3限目の間に長めの休憩時間があり、この時間を前半と後半の間に挟むと、後半にみんなの動きがガラッと変わるんですよ。
子どもたちは初めは純粋にゲームを楽しんでいますが、2ターン目が終わると「これではダメだ」と気づき、考え始めます。休憩時間にグループ内で作戦を練ったり、他のグループに交渉しに行ったりすることができるので、自然と会話が生まれる良さがあると思います。

―単独での実施が難しい小規模校3校が合同で開催された事例もありました。この連携は、どのようにして生まれたのでしょうか。
松井様:一つの学校だけでは人数が少なく、実施が難しい状況だったのですが、最初に紹介した学校の校長先生が近隣の2校に声をかけてくださり、3校合同での実施に至りました。
後日、実施した学校の校長先生からお電話をいただきました。
「学校が違うため普段は接点がなく、最初はよそよそしい雰囲気で会話もなかった。しかし、ゲームを通じて対話し、協力しなければならない状況に置かれたことで、次第に打ち解け、帰りにはお互いに手を振り合うほど仲良くなっていた。今回森について学習できたことはもちろん、卒業後に同じ中学校へ進学するにあたって仲良くなる機会ができ、非常に良かった」と喜びの声を寄せてくださいました。
同じ組織の中で協調性を育むだけでなく、学校が違っても、対話を通じて仲良くなることができる良いカードゲームだと思います。
―松井先生が「これは良いものだ」と理解してご紹介くださることで、他の先生方も信頼して導入してくださいました。信頼できる方同士の繋がりがあってこそ、ここまで広がったのだと実感しています。
行動の先を見据えられる人に
― 将来、子どもたちにはどのような人になってほしいとお考えですか。
松井様:今は人間関係が希薄になりがちな時代ですが、自分のことを大切にした上で、相手のことも考えられる人間になってほしいと思っています。そのためには対話が不可欠ですし、それが街全体のことを考えていく行動に結びついたら嬉しいですね。
森林保全の活動が「木を植えて終わり」ではないように、例えば「街中にゴミを捨てたら、誰が片付けるのか。見てどう思うか」と、一つの行動が次にどう繋がるのかを想像できるようになってほしいです。
机の上の勉強も大切ですが、それだけでは「深い学び」にはなりません。豊かな体験を裏付けとして、知識と相互に結びつけていくことが、本当の学びになるのだと思います。
―山梨県内の多くの小学校でカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」が導入されたのは、松井先生のお力添えがあったおかげです。本日は貴重なお話をありがとうございました!
竜王小学校5年生の声
“自分たちだけで活動することもあるけど、誰かと協力しないとできない活動もあることが分かりました。森を守っていきたいという気持ちが強くなりました”
“現実でも、森に関係する人たちが協力しているから森を守れているのだと思います。森が与えてくれるもの、関わっている人のイメージが変わりました”
“カードゲームをやることで、森を身近に感じたり協力する大切さを知ることができました。社会で森を守っていくには、バランスが必要だと分かりました”
“一つの会社だけで活動するのではなく、色々な会社が関わって、活動するための資金を投資したり、会社同士での協力が大切だと思いました”
“森ができあがるには、色々な人と関わっていくことが必要で、そのバランスが大切。自分たちにできることは、森への「愛情」を増やすこと!”
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