人材育成におけるビジネスゲーム研修の効果

本日の研修に関しての「満足度」を教えてください

本日の研修に関しての「満足度」を教えてください

先日組織を管理する立場にある方、百数十名を対象にビジネスゲーム「The 商社」を用いたリーダーシップ研修を実施する機会をいただいた。経験も地位も(そしてプライドも!)ある方の自己刷新的な成長を目的にした今回の研修で、受講後のアンケートで実に76%もの受講者が5段階評価で最高点である5(良かった)にチェックをつける結果となった。

 

実はビジネスゲーム「The 商社」を用いた研修では、それほど珍しいことではないのだが、自由記述欄にも「今までで受けた研修の中で一番印象に残った」というような記載がチラホラみられる。講師としてはありがたい限りなのだが、少し立ち止まってその理由を言語化してみたので共有をしたいと思う。
 
ご存じのない方のために少し補足をすると、「The 商社」とは「ビジネススキーム」、「資源」、「お金」の3要素をいかにうまく組み合わせて成果を出すか、というビジネスシミュレーションゲームである。現実のビジネスを忠実に模してあることが特徴で、ルールとして明示的に禁止されていること以外は、交渉の相手方との合意があれば基本的になんでもやってよい。(だからこそ現実のビジネスと同じく創造性やコミュニケーション力が試される)
 

「The 商社」を使ったビジネスゲーム研修は、通常「ゲームプレイ」→「振り返り(個人/チーム/全体)」という流れで実施される。1時間ほどのゲームプレイは熱中を生むように設計されており、だからこそ受講者の普段の”素”や”クセ”が出る。そしてそれを全体で振り返っていくことで、自分自身で気付き、学ぶことができる仕組みになっている。

 

Blog_20160127_002今回の研修を進めるうちに、この流れが「コルブの経験学習モデル」を現実化しているのだと気がついた。同じような経験をしているはずなのに、伸びる人と伸びない人がいることは、みなさんも体験上よくわかっていると思う。コルブはこの差を「省察」と「概念化」で説明している(右図 参照)

 

簡単な例でいえば、法人セールスの担当が、年度末にたまたま使ってしまいたい残予算がある顧客に出くわし、成約に至ったとする。伸びない人はこれを「ただのラッキー」と総括するかもしれない。一方で成長する人は同じ経験から「なるほど、残予算という概念があるのだな。すべてのお客さんではないかもしれないけれど、数パーセントは同じような状況にあるのかもしれない。であればこれからは決算期を向かえる顧客には事前にこちらからコンタクトして回ることにしよう」という「省察→概念化」を行う。

成長する人間と、そうでない人間を分けている要素のひとつとして、非常に有力な考え方である。

 

「コルブの学習モデル」実務上の困難さ

ただ、(私の経験上)このモデルを現実の育成に応用しようとしたときには、2つの困難さがあるように思う。ひとつは「経験」自体が個人的なものであり、周りからはなかなか見えないという点、もう一つは「省察」や「概念化」も同様に個人的なもので、周囲や上司がなかなか介入しにくい(もしくは介入自体が態度の硬化という逆効果を生む可能性もある)という点だ。

 

ひとつ例をあげよう。例えば私がセールスのマネージャーであったとして、部下が顧客訪問の結果を報告したとする。もちろん私は自身の経験や論理性に基づいて極力適した問いかけをするとは思うが、結局そうした情報は、部下の持つ「認知のフィルター」を通して(ある意味都合よく)解釈されたものに過ぎない。

また「省察」や「概念化」は、誰もが普段当たり前に行っていることであるが、それが成長という観点で、効果的なものなのかを、通常周りの人間は知ることができない。
(先の残予算受注の例でいえば、本人は「やっぱり人間マジメにやっていれば、ラッキーもちゃんとまわってくるものだな。これからも地道に頑張ろう」という「省察」「概念化」をしていても、言葉に表現されるわけではないのでわからない)

ひとことでいえばすべてがパーソナルであるがゆえに、成長のチャンスが存在していても本人が見落としている限り、周りも介入のしようがないといえる。しかしこうした本人の”盲点”にこそ変化のための大きなチャンスが眠っていることは少なくない。

もちろん、個人の「経験」や「省察」、「概念化」はパーソナルなものであって、その人の人生の一部であるので、他者が軽々に口出しをするものではないと思う。ただし、実際は他の解釈、概念化の余地に本人が気づいておらず、しかも本来的にはその「気づき」をほかならぬ本人自身が望んでいる、という状況が多く存在する。

 

ゲームによってOJT以上の効果が生まれる

翻ってビジネスゲーム「The 商社」を使った研修では、自分も他人もゲームプレイという「経験」を共有している。自分がなにをどう判断し、どう振る舞ったか。たかだか1時間のゲームの中なので、そもそも本人もよく覚えている。加えて自分自身が気づいていなかったような「経験の別の側面」を同じチームでプレイした仲間が示唆してくれる。

また、振り返りも自分でするだけでなく、チームや研修全体でも行うことで、実に様々な解釈があることが体感覚として実感できる。同じ状況を見てもAチームは「運が悪かった」とまとめ、Fチームは「戦略を最初からブラさなかったことが勝因だった」と振り返る。同じ環境にいながら、違う振り返りをする仲間をフラットに見ることによって、自分の中でもう一段深い「振り返るときの自分の視点やクセ」についての省察が生まれる。

こうした気づきは、講師によって強制される性質のものではない。あくまで自分の選択としてビジネスシミュレーションゲームという”遊び”に熱中し、その経験を共有したメンバーが、緩やかに振り返るからこそ、自発的に起きるものなのだと思う。

 

コルブの経験学習モデルは非常に優れた理論だと、自分自身の成長体験や部下育成の経験に照らして実感している。ただし育成のための理論として、他者からもたらされる場合には、個人の考え方そのものへの他者からの介入となる側面がある。(言葉を変えれば「あなたの認知や考え方は間違っています。こっちのほうがいいですよ」というメッセージとして伝わる可能性がある)。そのため、ともすれば介入者への抵抗を生み、お互いにとって不幸な結果を生む可能性もある。特に対象がビジネス経験豊富で実績も出してきた年齢層であればこの傾向は顕著だ。

ただ、人間にとって自身の成長は本質的にはうれしいものだ。そしてそれを自分の力で生み出すこともまた喜びなのだ。

今回の研修も含めてビジネスゲーム「The 商社」を使った研修が高く評価されるのは、ゲーム自体の楽しさや自由な空気の中での振り返りが、そうした誰しもがもつ本来的な喜びを呼び覚ますからなのだと思う。

 

ライター:東京支社 稲村健夫
販売、財務、人材開発など新規事業立ち上げに不可欠なエッセンスを、実務経験を通じて体得した実務家。特にさまざまな背景や動機をもつ人材を互いに活かして、ビジネスを遂行することに強みを発揮する。